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第1章 異世界転生と学園生活

お菓子よりも甘い気持ち

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 「え…………ですが…………」



 チョコブラウニーは無残な残骸に成り果てたのだ。こんなもの、お菓子とは言わない。


 そう言おうとしたけど、アミィールは眉を下げて、懇願するような目を向けた。



 「……………だめ、ですか?」


 「ッ……………」



 この顔は、反則過ぎる…………!
 耳と尻尾の幻像が見える。落ち着け、俺………………!



 セオドアは顔を赤らめながらチョコブラウニーを手に取った。


 「だ、大丈夫な部分だけなら……………」


 「!やったあ!」



 喜ぶアミィールに、おずおずと潰れたチョコブラウニーを手渡す。アミィールはそれを受け取ると、静かに、でもとても愛おしそうな顔をして包装紙の上から触れる。


 この顔は……………初めて見た。
 思わず見とれるセオドアを、アミィールは顔を上げて見た。


 「ねえ、食べていい?」


 「え、で、ですが、ここは道路…………」


 「大丈夫よ」


 「学園の途中ですし…………」



 「遅れて行けばいいわ」



 何を言っても口を返すアミィール様。…………これはいくら言っても食べるまで動かないな。


 それを悟ったセオドアは、俯きながら口を開いた。



 「い、いいですけど…………ボロボロなので、…………」


 「大丈夫。…………いただきます」



 アミィールは言うが早いか袋を開けた。



 味は大丈夫………な、はずだけど、崩れてるし、それに口に合うか…………



 恥ずかしさと不安に祈るポーズを取るセオドアをよそに、アミィールはチョコブラウニーの欠片を口に含む。すると、ふにゃ、と顔を緩めた。




 「美味しい!すごく美味しいわ!」



 「!」



 「ありがとう、すごく、凄く嬉しい」



 _____こんなに幸せそうに笑うのか。


 チョコブラウニーはぐちゃぐちゃで、嫌な思いもさせたのに、俺のチョコブラウニーの欠片1つで……………




 胸が、じんわり熱くなる。
 さっきの不安がどこへやら、温かい気持ちに包まれる。



 _____作って、よかった。



 そう思うセオドアを横目に、アミィールはチョコブラウニーをひとつ残らず食べたのだった。




 *  *  *





 アミィール様に求婚されて、早3ヶ月。
 もう雪がちらほらと降る季節になった。


 「セオドア様、次の武術では一緒に組みましょう」



 「え、………で、ですが、私ではアミィール様のお力には到底及ばないですし……弱くて申し訳ないというか……」



 「いいえ。セオドア様と組むと新しい発見があります。なので、お願い致します」



 「……………はい」



 ………………このように、普通に会話ができるようになった。まだたどたどしいけれど、受け答えぐらいは出来る、そんな関係。たまに距離が近くてドキドキしてしまうけど………………



 そんな仲睦まじい2人を見る影。




 「巫山戯るな………………」



 アミィール様の隣は俺だろう。
 アミィール様の隣で笑っていいのは、俺だろう。

 なんでだ?なんで、セオドアなんだ?


 ______主人公だからか?


 巫山戯るな。


 "悪役伯爵"の私が、好かれるのが流れだろう。


 なのに何故______アミィール様は、セオドアを選ぶんだ!




 ザッシュは、下唇を噛んだ。





 *  *  *




 「コロンブス公爵家のマフィン嬢との婚約解消はちゃんと終わったぞ」



 「……………申し訳ございません」




 夜、父・セシルに呼ばれたセオドアは頭を下げた。この婚姻は、同じ公爵である両家の繋がりを強くする為の政略結婚であったのに………………



 罪悪感に苛まれるセオドアに、セシルは首を振った。



 「お前は悪くないさ。コロンブス公爵家の令嬢を私は好きではなかったし、寧ろこのような婚約を結んだ私を許しておくれ」


 「そんなことはっ…………」


 「いいんだ。私が悪かった。セオ、すまなかったな」



 優しい父はそう言って泣きそうな顔をする。そんな顔をさせたくなかった。


 「お前の意志のある結婚をして欲しい。
 それを踏まえて考えて欲しい。

 ____お前に、正式に婚約の申し込みがきている。相手は…………サクリファイス大帝国・皇女のアミィール・リヴ・レドルド・サクリファイス様からだ」






 「____!」
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