虹色の子~神さま候補、世直しします!~

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帰ろう。

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「こんばんは、…お母さん。」

言葉にしてみたが、何とも違和感しかない。
とても、母に会えて喜んでいる表情ではないだろうな、と苦い感情を味わう。
(会いたかったけれど…。ううん。話してみないと分からないよね。)
「本当に、わっ、私…私の……子…なのね。ラーシュ様との…!」
「ラーシュ…お父さんのことだね。」
セレイナはその言葉を聞いて、その場に崩れ落ちて泣き出した。
望まぬ別れを強いられ、会いたいと願ってもできなかった。
できることと言えば、こうして教会に通い、無事を祈り、懺悔するだけ。
それでも、こうして今、ラーシュとの子が目の前にいる。
「あああぁぁぁぁッ!!!」
周りの目など関係なかった。
ただ、感情が溢れて仕方がない。
流れ出る涙は、ドレスも床も、みな濡らしてしまうほど。
「お母さん、今は…ぼくもだけど、皆仕事中なの。全て終わったら、ゆっくりお話しよう?」
しゃがみこんでしまったセレイナの顔を覗き込むように、ヒースヴェルトは腰を屈めて伝える。だが、笑顔ではないことにフォレンは気づいて、そっと溜め息を吐いた。
「えぇ、ええっ!!たくさん、たくさんお話したいわ!!!」
セレイナは何度も頷き、答えた。
「セレイナ様!ご無事でしたか!」
人混みを掻き分けるように、誰かがこちらに走りよってくる。きっとセレイナの従者だろうが、聖堂の外で待機していたようだった。
聖堂で騒ぎが起こったため、心配になって来たのだろう。
「あぁ…!ユディ!!私の息子…ヒラムが帰ってきたわ!!」
ヒラム。その名前を聞いたとたん、ヒースヴェルトの顔が悲しげに歪んだ。
「……貴方が…セレイナ様と、ラーシュ殿の…?」
ユディ、と呼ばれた男は床に座り込んで泣いているセレイナを支え、優しく立たせた。
しかし、ヒースヴェルトを見る目はとても厳しいものだった。
「貴方が本当にヒラム様であるならば、セレイナ様に即刻謝罪すべきです。貴方と貴方の父親のせいでお嬢様は長い間どんなに悲しまれっ!世間から非難され続けたか!!!」
思いもよらぬ苦言に、ヒースヴェルトは目を見開いた。
ヒースヴェルト自身に、そんな非難をされる筋合いはないことに、彼は全く気づいていない。フォレンは怒りで拳を強く握りしめた。
今にも、ユディという男を殴り飛ばしそうな彼を、ヒースヴェルトはそっと袖をつまみ、微笑み首を横に振る。
「……お母さんも、辛かった?」
困ったような、笑顔。やっと笑みを浮かべることができたが、それも一瞬のことで。
「当たり前だろう!!十数年もの間セレイナ様がどんなお気持ちで過ごされていたと思っているのですか!!」

ユディは、元々第一王子の息がかかった貴族の出身だった。そのため、第一王子付きの騎士になれと打診があった際に断り国を出たラーシュを快く思っていなかった。
そのような背景を知る由もなく、ヒースヴェルトはセレイナではない、知らない者から罵られ、久しぶりに心を乱してしまう。

「……ッ!!?」
ユディは、突然息ができなくなる感覚に激しく動揺した。
ヒースヴェルトの動揺し、つい神気を放ってしまったのだ。
それはセレイナも同様で、息苦しそうにしていたが、それでもユディよりは神気への耐性があったのか、彼に縋るようにして、止めた。
「いいのよ、私のことは…。責めてはなりませんわ。それよりも、ラーシュ様との子に会えたの。それだけで十分だわ……!」
セレイナの、その言葉に。
「………。」
紫色の瞳が、少し灰色を帯びて。


(あぁ。主は、また………。)

神化したとて、その魂に傷を負うのか。

フォレンには、耐え難いことで。
『ヒー様。ここはもうディランと《神翼》に任せて引きましょう。これ以上、貴方が留まる必要はないかと。』
ヒースヴェルトの手を取ると、氷のように冷えきっていて、フォレンは以前ルートニアスの中庭で起きたあの事件を思い返していた。
小さく頷いたヒースヴェルトに、少しほっとした。

「パメラ。後は予定どおりにミッションをこなせ。聖神子様はお戻りあそばせる。」
「御意!!」

早々に聖堂から立ち去ろうとするフォレンとヒースヴェルトに、セレイナが声を荒げる。
「ヒラム!!何処へ行くというの!?おうちに、帰りましょう?貴方は私の子なのだから…!そ、そうよ、お話…っ!たくさん、お話するって…!」

「っ……ご招待のお手紙…送るね。ぼくの帰る場所は、一つだけだよ。…フォレン、行こう。
アシュト、来てるんでしょう?転移装置のあるところまで、連れてって」
ヒースヴェルトの言葉に答えるかのように、聖堂の出口にいつの間にか立っていた、風の民。

アシュトに抱えられ、フォレンに「先に行く」、とだけ小さな声で伝えた。

「…帰ろ?」

(…帰ろう。ぼくの唯一。…大好きなママのところへ。)


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