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こんばんは、…お母さん。
しおりを挟むパメラが蒼砡結界を展開してすぐのこと。
ギネルの魂はディランと母に託した。
これは、ディーテ神が決めたことだから、ヒースヴェルトはこれ以上何もしてあげられない。
やれることは、ここに集められた穢黒石を《厄災》の魔獣として、暴れさせることだけ。
何もできない自分が歯がゆくて少し落ち込んだのがディランに伝わったのか。
「もうすぐ、周辺の町の結界の展開を終えたフォレンが、こちらに来るので…それまでパメラの側でお待ちください。」
ニカっと、安心させるような、心強い笑顔を向けられ、ヒースヴェルトは少し安心した。
「ぁい!」
すると、いつものように、返事ができた。
そして、パメラの横にちょこん、と現れたヒースヴェルトに、パメラは動揺する。
大神殿の謁見室で出会った時はヴェールをかけていたが、今は特に神眼を使うことはないので、ヒースヴェルトは《神纏》は着ているものの、ヴェールは取っている。
パメラは初めてヒースヴェルトの姿を見たのだ。
(かっ、可愛らしい方…!!)
「パメラちゃん、少しの間、ぼくを守ってね?」
ヒースヴェルトの上目遣いに、パメラはやられる。
「はははは、はぃっ!!!お任せくだしゃい!」
「ふふっ。クスクスっ。」
噛んでしまい、微笑まれたことにパメラは恥ずかしさから結界の中に避難してきた人々あわててに呼び掛ける。
「みっ、皆さん、この結界から出ないように。魔獣は入ってこれませんから、山を降りるよりここにいた方が安全です!」
「あ、あの、貴女は…?」
神官の一人が、訪ねる。
「私はアルクス所属の砡術士。今日はディーテ神の御子様であられる…こちらの聖神子様の護衛と、神命の任務遂行のお手伝いのため、ここへ来ました。神託の通り、本日は闇が襲う。ギネル最高司祭…いえ。ギネルの、断罪の時。」
パメラは人々が安易に近づかないよう、ヒースヴェルトを庇うようにして前に立った。
「聖神子様…。」
その存在は、誰もが知っている。
金の小鳥が与えられた時、脳裏に浮かんだ二人の姿を誰もが見ていたから。
「ほ、本当だ…。あのときの、ディーテ神様の横に立たれておられた方だっ!」
結界の中は一気にざわめいた。
「断罪されるのは…ギネル様だった……?」
「ギネル様をディーテ神が断罪なされる!!」
「でも、あの赤い髪のあの方は…?」
人々の疑問は尽きない。ヒースヴェルトはさすがに何か説明すべきかと、口を開いた。
「あの人はね、ぼくの…ううん、神の使徒。緋色の砡を司る…《翼》と呼ばれる神の意思そのもの。」
「緋色の砡…。」
神官は、そっと首に手を触れた。そこに埋められた、隷属の契約の証。
「あぁ。そうだったな。」
ギネルを軽蔑した視線で睨み付け、ディランは手を翳す。虹色の神力をその翼から得て、神聖陣を描いた。
ヒースヴェルトが構築するような繊細な神聖陣ではないが、それでも人々に痛みを与えず、砡だけを霧散されることができるものだった。
パァン!!
その瞬間、結界の中に留まっていた神子や神官らに、つけられていた砡の欠片が、霧のように弾け散った。
「あっ!?契約砡が…!」
緋天使が、人々をギネルから解放した瞬間だった。
(ディラン、凄い…。ちゃんとぼくの虹の神力を術として構築できてる。…嬉しいな。)
翼になると、主の神力をその翼に蓄えることができる。
その力を自ら構築し、オリジナルの式を組むことだってできる。可能性は、翼の能力は、創造力次第なのだ。
パメラの側で、翼の成長を喜んでいると、聞きなれた優しい声がして、さらに顔が綻ぶ。
「ヒー様…聖神子様はこちらへ。…お疲れ様でしたね、ディーテ様を降ろされるのはかなりご負担だったのでは?」
フォレンが仕事を終えて、来てくれた。
ヒースヴェルトは嬉しくて駆け寄ると、フォレンの後ろの女性が、こっちを見ていることに気づいた。
フォレンもそれに気づいているようで、いつの間にか防音の結界をヒースヴェルトの周りに展開させてくれていた。
(…あぁ。この人だ。)
「こんばんは、…お母さん。」
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