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神殿への帰路
しおりを挟むあれから、アイザックに事件の諸々を引き継いで、アルクスのメンバーは神殿に戻れることになった。
ヒースヴェルトの神化を急ぐためだ。
神化すれば、ヒースヴェルトの虹の神気で、いなくなった子ども達の行方を追えると言う。
それは、孤児院にあった彼らの私物に触れる機会があったから。
私物に残る本人の魂の匂いを追うのだ。
ディーテ神も、この方法でよく人の行方を探したりする。
「…はぁ…。遠隔孵化、試したかったです…。」
帰り道、ヒースヴェルトの呟きにルシオも苦笑する。
実験したい気持ちは誰よりも理解できる。
「ヒースヴェルト様、お気持ちお察し致します…。ですが、子ども達の命がかかっているのです。二人の子の行方を、知らせてやらないと。」
「…そ、だね。」
そう。死都市から外に出てさえいれば、追える。きっと、奴隷として誰かに買われたはずだから。
どうか、無事でいますように。
まだ、魂の匂いを追うことはできないけれど、ヒースヴェルトは必死に祈った。
そうして、隣の領地にある転移装置に乗り、まずはアルクス本部へ。
そこから、特別に大魔境の神殿近くに繋いだ転移装置に乗り、戻るのだ。
その転移装置はアルクスの塔の最上階にあり、虹の加護つき。
ヒースヴェルトの許可がなければ、使用できないようになっている。
神殿は、完全に守られた場所。
そのときは、そう、思っていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ヒースヴェルトの警護をしながら、フォレンとルシオは少し深刻な表情で、アイザックから聞いた話を思い出していた。
証拠品の穢黒石を見に行っていたときのこと。
「…ヒー様、しばらく神殿から、出ない方がいいと思う。」
アイザックの唐突な発言に、フォレンは首をかしげる。
「…どういう意味だ?」
「ダスティロスの貴族が、自分の家門の子どもを探しているそうだよ。」
「…ヒースヴェルト様をか?まさか。あの村で、親子共々亡くなったことになっているはずだ。村の記録にも、十年前の死都市に送られたことは、当時の村長からも聞いている。あの女も、そう、思っていたはずだ。」
ルシオは、その頃の死都市を知っている。
今でこそ、頑丈な檻が建てられ、送られてきた子どもらは魔獣のエサになることは殆ど無いが、昔は違う。
送られた子どもも、奴隷狩りの連中さえも。生き残る可能性の方が、低かった。
「…でも、死体を確認したわけじゃない。…何処からか噂が漏れたようなんだ。…薄紫色の瞳の子が、エンブルグ皇国の貴族に囲われて暮らしているらしい、と。」
「…!!」
フォレンは、心当たりがあったのか舌打ちをする。
「フォレン、どういうことだ。他国に漏れるなど…。」
ルシオは当時のことを知らなかったため、フォレンがそんなミスを犯したことが信じかれなかったのだ。
「あぁ…。昔、ヒー様が森から出られてすぐに立ち寄った商都でな。まだその頃はあまり警戒もしていなかった。…他国の商人などに見られていた可能性は…ある。」
あの日は、確かディランとリーナが、共に町を歩いた。ガラス細工の鳥を買い、美しい白金の髪を結う紐を買って。
「はぁ…。失敗したな…。確かに店やホテルの者には箝口令を敷いたが。
当時ヒー様の瞳はほぼ灰色に近かったが、紫色には違いなかった。それを噂が尾ひれを付けてカーザスで見た者が自国で話したのかもしれん…。」
高級な店で買い物をし、星の離宮に寝泊まりしたのだから、そんな話になるのも理解できる。
「ザック、情報感謝する。気をつけておく。」
「…だが、死都市には直接赴かねばなるまい。…色替えの術をしていただいても…何が起こるかわからん。ヒースヴェルト様は、まだ不安定なところがある。感情に揺さぶられ、術が解けでもしたら…。」
ルシオもフォレンも、怒りで術が解けてしまう様子を見ている。
「よし、ルシオ。あなたが作ればいい。《神具》として、色替えの機械導具を。」
「……成る程。」
ルシオは、以前にもこんなことがあったような…、と思いながら。
「また忙しくなるな?ルシオ。」
同じことを思ったのか、フォレンもくすりと笑う。
「また……。」
(いや、以前とは違う。僕は準天使化しているし、アルフィンもいる。きっと、前の僕よりヒースヴェルト様の役に立てる…。)
「ふん、君の無茶振りは今に始まったことではないし、意味のあることだからね。ヒースヴェルト様の神術に、何処まで近づけるか…やってみるさ。」
神の術を機械で再現させるなど、ディーテ神が創造した世界の数多いる翼とて、誰も成し得なかったことだったのだ。
それに挑戦することで、ルシオは近い未来、世界を超えて翼としてのその地位を上げてゆくことになるが、それはまた別のおはなし。
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