上 下
50 / 119

神殿への帰路

しおりを挟む

あれから、アイザックに事件の諸々を引き継いで、アルクスのメンバーは神殿に戻れることになった。
ヒースヴェルトの神化を急ぐためだ。
神化すれば、ヒースヴェルトの虹の神気で、いなくなった子ども達の行方を追えると言う。
それは、孤児院にあった彼らの私物に触れる機会があったから。
私物に残る本人の魂の匂いを追うのだ。
ディーテ神も、この方法でよく人の行方を探したりする。
「…はぁ…。遠隔孵化、試したかったです…。」
帰り道、ヒースヴェルトの呟きにルシオも苦笑する。
実験したい気持ちは誰よりも理解できる。
「ヒースヴェルト様、お気持ちお察し致します…。ですが、子ども達の命がかかっているのです。二人の子の行方を、知らせてやらないと。」
「…そ、だね。」
そう。死都市から外に出てさえいれば、追える。きっと、奴隷として誰かに買われたはずだから。

どうか、無事でいますように。

まだ、魂の匂いを追うことはできないけれど、ヒースヴェルトは必死に祈った。


そうして、隣の領地にある転移装置に乗り、まずはアルクス本部へ。
そこから、特別に大魔境の神殿近くに繋いだ転移装置に乗り、戻るのだ。
その転移装置はアルクスの塔の最上階にあり、虹の加護つき。
ヒースヴェルトの許可がなければ、使用できないようになっている。

神殿は、完全に守られた場所。

そのときは、そう、思っていた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


ヒースヴェルトの警護をしながら、フォレンとルシオは少し深刻な表情で、アイザックから聞いた話を思い出していた。

証拠品の穢黒石を見に行っていたときのこと。

「…ヒー様、しばらく神殿から、出ない方がいいと思う。」
アイザックの唐突な発言に、フォレンは首をかしげる。
「…どういう意味だ?」
「ダスティロスの貴族が、自分の家門の子どもを探しているそうだよ。」
「…ヒースヴェルト様をか?まさか。あの村で、親子共々亡くなったことになっているはずだ。村の記録にも、十年前の死都市に送られたことは、当時の村長からも聞いている。あの女も、そう、思っていたはずだ。」
ルシオは、その頃の死都市を知っている。
今でこそ、頑丈な檻が建てられ、送られてきた子どもらは魔獣のエサになることは殆ど無いが、昔は違う。
送られた子どもも、奴隷狩りの連中さえも。生き残る可能性の方が、低かった。
「…でも、死体を確認したわけじゃない。…何処からか噂が漏れたようなんだ。…薄紫色の瞳の子が、エンブルグ皇国の貴族に囲われて暮らしているらしい、と。」
「…!!」
フォレンは、心当たりがあったのか舌打ちをする。
「フォレン、どういうことだ。他国に漏れるなど…。」
ルシオは当時のことを知らなかったため、フォレンがそんなミスを犯したことが信じかれなかったのだ。
「あぁ…。昔、ヒー様が森から出られてすぐに立ち寄った商都でな。まだその頃はあまり警戒もしていなかった。…他国の商人などに見られていた可能性は…ある。」
あの日は、確かディランとリーナが、共に町を歩いた。ガラス細工の鳥を買い、美しい白金の髪を結う紐を買って。
「はぁ…。失敗したな…。確かに店やホテルの者には箝口令を敷いたが。
当時ヒー様の瞳はほぼ灰色に近かったが、紫色には違いなかった。それを噂が尾ひれを付けてカーザスで見た者が自国で話したのかもしれん…。」
高級な店で買い物をし、星の離宮に寝泊まりしたのだから、そんな話になるのも理解できる。
「ザック、情報感謝する。気をつけておく。」

「…だが、死都市には直接赴かねばなるまい。…色替えの術をしていただいても…何が起こるかわからん。ヒースヴェルト様は、まだ不安定なところがある。感情に揺さぶられ、術が解けでもしたら…。」
ルシオもフォレンも、怒りで術が解けてしまう様子を見ている。
「よし、ルシオ。あなたが作ればいい。《神具》として、色替えの機械導具を。」
「……成る程。」
ルシオは、以前にもこんなことがあったような…、と思いながら。


「また忙しくなるな?ルシオ。」
同じことを思ったのか、フォレンもくすりと笑う。
「また……。」
(いや、以前とは違う。僕は準天使化しているし、アルフィンもいる。きっと、前の僕よりヒースヴェルト様の役に立てる…。)

「ふん、君の無茶振りは今に始まったことではないし、意味のあることだからね。ヒースヴェルト様の神術に、何処まで近づけるか…やってみるさ。」

神の術を機械で再現させるなど、ディーテ神が創造した世界の数多いる翼とて、誰も成し得なかったことだったのだ。
それに挑戦することで、ルシオは近い未来、世界を超えて翼としてのその地位を上げてゆくことになるが、それはまた別のおはなし。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

別に構いませんよ、離縁するので。

杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。 他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。 まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

次代の希望 愛されなかった王太子妃の愛

Rj
恋愛
王子様と出会い結婚したグレイス侯爵令嬢はおとぎ話のように「幸せにくらしましたとさ」という結末を迎えられなかった。愛し合っていると思っていたアーサー王太子から結婚式の二日前に愛していないといわれ、表向きは仲睦まじい王太子夫妻だったがアーサーにはグレイス以外に愛する人がいた。次代の希望とよばれた王太子妃の物語。 全十二話。(全十一話で投稿したものに一話加えました。2/6変更)

私はあなたの母ではありませんよ

れもんぴーる
恋愛
クラリスの夫アルマンには結婚する前からの愛人がいた。アルマンは、その愛人は恩人の娘であり切り捨てることはできないが、今後は決して関係を持つことなく支援のみすると約束した。クラリスに娘が生まれて幸せに暮らしていたが、アルマンには約束を違えたどころか隠し子がいた。おまけに娘のユマまでが愛人に懐いていることが判明し絶望する。そんなある日、クラリスは殺される。 クラリスがいなくなった屋敷には愛人と隠し子がやってくる。母を失い悲しみに打ちのめされていたユマは、使用人たちの冷ややかな視線に気づきもせず父の愛人をお母さまと縋り、アルマンは子供を任せられると愛人を屋敷に滞在させた。 アルマンと愛人はクラリス殺しを疑われ、人がどんどん離れて行っていた。そんな時、クラリスそっくりの夫人が社交界に現れた。 ユマもアルマンもクラリスの両親も彼女にクラリスを重ねるが、彼女は辺境の地にある次期ルロワ侯爵夫人オフェリーであった。アルマンやクラリスの両親は他人だとあきらめたがユマはあきらめがつかず、オフェリーに執着し続ける。 クラリスの関係者はこの先どのような未来を歩むのか。 *恋愛ジャンルですが親子関係もキーワード……というかそちらの要素が強いかも。 *めずらしく全編通してシリアスです。 *今後ほかのサイトにも投稿する予定です。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

処理中です...