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調査団が来た!

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「…陛下から直々に依頼された?お前がか?」
「そー。ほんとビックリだよね、兄さん大丈夫だった?兄さんは皇族の俺やディラン叔父上と違ってひ弱だからさぁ。」
コール子爵邸の応接間には、現皇帝陛下の第二子、現在はルートニアス公爵家の養子となったアイザックがいた。
部屋の外には、数人の部下と騎士が待機している。
「…お前ね…。」
コール子爵邸に、陛下が直接選抜した調査団が到着しているのだ。
事件の引き継ぎを行えば、ヒースヴェルト達は神殿に帰れるが、こうしてアイザックが来たことで、1日延ばすことにした。
「ぁい~…。フォレンは戦えないから…ぼくのせいなの。ザック、お兄様を怪我させてしまってごめんなさい…。」
応接間に、ヒースヴェルトが入ってくる。久しぶりのアイザックとの再会も、その兄を怪我させ、申し訳なさそうに肩を落としていた。
「ヒー様、か?…あれ?なんか色違くねぇ?」
いつもの白金の髪や、紫色の瞳が色を変え、黒い髪に琥珀色の瞳になっている。しかし、姿はヒースヴェルトそのもので。
「孤児院とコルディウスの村ではね、色を替えて過ごしていたの。…ぼくの瞳は、外国ではちょっと珍しいらしくって…ね?フォレン。」
小声で事情を話せば、アイザックも城で北の国の情勢を知っていたのか、納得した。
「あー、そういえば…あの色は…そうだよな。…兄さん、今回の件の資料はこれ?」
とん、と机の上を指で刺す。
並べられた、綺麗な文字で綴られた報告書。
ウォルトとフォレンが互いに調べ、聴取した内容を纏めたものだった。
「あぁ。これで全て、と言いたいが…例の証拠品は別の場所で保管している。」
「あぁ…あの卵ね。」
アイザックは、あの石の事情も知っている数少ない人間の関係者。
だからこそ、アイザックは父親から…もう一人の、事情を知る皇帝陛下から、勅命を受けたのだ。
そして、これを足掛かりにロレイジアを叩き潰すとまで口走った時には、さすがに焦ったが。
「しかし、お前はまだ成人前だろう…。元皇族とはいえ、誰か補佐を頼めなかったのか?」
「ま、俺も父上…陛下の臣下の端くれだしさ。やれるだけやってみるよ。それに、ヒー様が一緒にいるって聞いて、尚更俺が来たかったんだ。」
ちら、とヒースヴェルトを見て笑う。
「ぅ?ぼく?うん、会えて嬉しいよ、ザック。」
ヒースヴェルトも、にこり。
「……さて、資料には目を通すとして…商人の持っていた証拠品、見せてほしいんだけど。」

「ウォルト殿、案内を頼みます。私も後で参ります。」
「はい、アイザック様、此方です。」
ウォルトに続き、応接間を出たアイザックを見送り、フォレンはヒースヴェルトに向き直る。
「ヒー様の聴取は既に終わっていますから、部屋でお過ごしいただいて構いません。ただ、町に出ることは控えてほしいのですが…。」
「分かった。リアンは?」
「ぁ~、俺も調査の対応しないと。ごめんな。」
すまなそうにヒースヴェルトの頭をぽん、と撫でる。
「む~…。分かった…。」
「終わったらさ、中庭の木登り、またしようぜ。」
「ぁい!」
ヒースヴェルトは一人、部屋に戻ることにした。

リーナもジャンニも、村での事件について色々と聞かれているし、ルシオは商人から押収した穢黒石の件でアイザックらと共に行動している。
(……つまんない…。)
皆が忙しく動いていても、いつもは必ず誰かがそばにいてくれた。
神殿でも、旅から帰ってきた時から、常に誰かが傍に。
(…そっか…。ぼく、いつの間にかさみしがり屋になっちゃったのか…。)
一人で居た時は、ディーテ神の帰りを、親の帰りを何日でも待っていられた。
心の拠り所が創造神(ママ)だけだったから。
「心の拠り所、ぼくはたくさん…。ふふっ。嬉しい…。」
大事な人が増えた。友達も、翼になる人も皆、自分の愛すべき民たち。そんな彼らに、心を寄せることができていたことに、ヒースヴェルトは気恥ずかしくも嬉しくて。
こうして一人で居ると、色々と考えてしまう。
たとえば、孤児院の子供たち。親を亡くして、教会のお世話になっていた人たち。
(……ぼくは…この国ではきっと、孤児…なんだよね?でも…ぼくを産んだお母さんってどんな人だったのかなぁ…。
母親だと思っていたあの女は、母親じゃなかった。お父さんを殺す手引きをした敵。
なら、お父さんと結婚して、ぼくを産んで、捨てた人は誰?
今もダスティロスにいるのかな。…その人は、どんな気持ちでぼくたち親子を見捨てたの。生きて…いるのかな。)
こうして、周りに支えてくれる人ができて、守ってもらえることが理解できたからこそ、そんなことを考えることが、できるようになった。
「興味本意で会いたい…って思うのは、いけないことなのかな…。」
自分が、会いたいと願えばきっと、フォレンやディランを始め、アルクスの首領だって動いてくれそうだ。
それこそ、少々の危険など考慮せずに。
(…駄目だ。今のダスティロスの情勢は危険ばかり。もっと…安定してからでも…。)
ヒースヴェルトは、頭に浮かんだ些細な願いに、蓋をしたのだった。
大切な人が、目的のために傷付くのは、辛いから…。

ぼくの我が儘は、言わないでおこう。

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