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DAY 15.

風呂と夏の夜空

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(すげーーーー)

 俺は、大理石っぽい石の椅子に座っていた。
 日本だと掛け湯じゃないかと思うけど、
 豊富なお湯が椅子に流れてくる。

 トニが言うには、ギリシャの公衆浴場は
 俺達の世界と分岐するよりも前からある
 歴史のある施設らしいけど・・

 風呂好きな国民性らしくて、
 サウナみたいな風呂もあるし、水風呂もあるし、
 炭酸水を使った炭酸風呂に
 日本で使っていたようなかるタイプの
 風呂もある。

 健康ランドみたいな感じだ。

 男性用の浴場だけでも広くてかなりの数の風呂だが・・

 あかりが『1時間半後に待ち合わせで!』と
 足取り軽く女性用浴場に行ってしまったから、
 時間はたっぷりある。

 俺は身体と頭を徹底的に洗った後、
 全部の風呂を制覇しようとしているところだ。

 日本の健康ランドと似てはいるけど、
 やっぱり違う。

 あちらこちらに美術室に置いてあるのとよく似た
 石膏像せっこうぞうなんかもあって、
 結構ゴージャスだ。

 普段は、友達とサウナに行っても
 一番長く入っていられんだけど、
 ここのサウナの温度は高過ぎて
 長居できなかったし・・

 ミッションも無事に成功させて、
 観光気分であちこちを見て回ってから服を着て、
 待ち合わせ場所に向かった。

「道哉君!」

 時間丁度に待ち合わせ場所につくと、
 あかりが手を振ってくれた。

「俺、遅れた?」

 慌てて、時計を確認する。

「いえいえ、時間丁度くらいですよ。
 私も今ここに来たくらいですから・・」

 あかりものんびりできたようで、
 空調の効いた施設の中の待合所に居たはずなのに、
 白い肌がうっすらピンク色のままだ。

 引き寄せて抱き締めると、あかりが暴れる。

「公共の場所ではダメです!」

「・・家に帰った後は
 いっぱいしてもいいの?」

 あったかいおでこにキスをする。

「良いですから!・・
 取り敢えず今は離してください!!」

 こちらの世界では
 決められた性交場以外で
 あまりぺたぺたくっ付くのは、
 マナー的にあまりよろしくないらしい。

 そんなわけで、
 確かに周りの視線が冷たい。

 俺が渋々、離れるとあかりが手を握ってきた。

「あの・・帰りに食材を買って帰りませんか?」

「うーーん・・今日は何か
 出来あいのものにしない?」

 黄色の個人ミッションに【料理】が
 あるおかげ・・といって良いんだろうけど・・
 料理をするようになった。

 とんでもない速さで料理を仕上げていた
 母さんを尊敬するようになったのは
 こっちに来てからだ。

 家に帰ったら9時ごろ・・
 そこから食事作りは大変だ。

「いいですよ。
 じゃあ、今日は出来合いにしましょう。
 ・・でも折角なので、
 明日の食材は買っていきませんか?」

「それなら・・明日のメインは俺が作るよ。」

「はい。楽しみです」

 あかりはにっこり笑った。

 2人で海沿いの道を歩く。

「こんなに近代化しているのに・・
 星が綺麗ですね」

 あかりが空を見ながら言う。

『そうですか?』

 トニが不思議そうに言った。

「私達の世界でも星は見えるんですが・・
 都市部だと町の明かりが強いですし、
 空気があまり綺麗でないので・・
 私、目は良い方なんですが、
 肉眼では3等星になると、
 見えたり見えなかったりなんです。」

 あかりは真上から少し陸の方に
 傾けたあたりを指差した

「今は、はくちょう座の暗い星も
 肉眼で見えてます。」

「はくちょう座?」

「天の川の中・・
 十字架みたいな形の星座です。

 天の川を挟んで、明るく光る
 織姫星のベガと彦星のアルタイル・・
 その近くに明るく光っている
 はくちょう座で一番明るいデネブ・・
 これで夏の大三角形でー・・」

 あかりが指さして
 一生懸命話してくれるし、

 俺も一生懸命聞くんだけど・・
 俺はなかなか、
 星座は見つけられるようにならない。

 七夕星の見つけ方は
 前にあかりから聞いたことがあって
 ベガとアルタイルは見つけられた。

 ベガとアルタイルを結んだ直線から
 三角形になる位置に光る
 デネブも、多分・・見つかった。
 でも、その近くの星を繋げて、
 十字架やはくちょうを
 イメージするのは難しい。

『ゼウス様の記念星ですなぁ・・』

「・・ちょっと好奇心なんですが・・
 ゼウス様は本当に
 神話にあるように
 えっちだったんですか?」

 あかりが、わくわく・・という感じで
 トニを覗き込む。

 自分がえっちをする話にもこの軽い熱量で
 挑んで欲しいんだが・・

『ゼウス様は大変に強くおこそかな、
 神の王ですし、精力も旺盛おうせい
 いらっしゃいます。

 女性にとってもゼウス様に見初められるのは
 栄誉なことですからね。

 たくさんの人間の女性と浮名を
 流していらっしゃいます。』

「・・現在進行形?」

 俺はちょっと引っかかって聞いてみる。

『ええ。
 こちらの世界ではまだまだ神々への信仰が強く、
 神々は地上に干渉し続けております。

 ゼウス様の子孫にあたる人間は非常に多いです。
 つい70年程前にもゼウス様のお子が
 人間の中に生まれております。』

「・・神の子孫って普通にその辺に住んでるの?」

『そうですね。
 各地にいらっしゃいますが、
 その70年ほど前に生まれたお子は、
 アテネで長いことこの国の軍務卿ぐんむきょう
 務めておりました。』

「ほーーー・・」

『引退後はレストラン経営をいらっしゃったらしく、
 とても美味しいと評判でした』

 ・・・神の子孫・・
 割とその辺で会えるかもしれない。
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