上 下
111 / 135
第二章 赤の瞳と金の瞳

第111話 壁越しの会話

しおりを挟む
 扉が音もなく開いた。外から入ってきたのはフレイルじゃなくて、ミリアだったようだ。声が聞こえた。

「ご機嫌よう。マリエル様。奥さまはお休みですか?」
「あぁ、少しめまいがあるようで休んでいる。そっとしておいて欲しい」
「そうですか。今日はこちらの方が会いたいとおっしゃっていてお連れしました」

 私は寝室の壁越しにミリアとお父さんの会話を聞いていた。
 外を見て私が狼狽えていたからお母さんが外の見えないこの寝室に連れてきてくれていた。

「わたくしの婚約者、ブレイド様です」

 そこにミリアがいるのに叫びそうになる。
 婚約者? わたくしミリアの? どういう事なの。そんな事ないと信じたいのに、私の手もとに彼との婚約の証がない。

「話をしたい。席を外してもらってもいいかな」

 ブレイドの声がする。彼はミリアの言葉を否定をしなかった。いますぐ出ていきたい私とあまりの出来事に動けない私がいる――。でも今出ていってもこの姿では私だとわかってもらえないのだろうか。

「はい。それではこれを……。お話が終わり納得出来ましたらこれを押して下さい。押せばわたくしがすぐに参りますので」
「わかった」

 小さな足音が遠ざかる。

「クロウ? どうしました? 行きますよ」
「……あぁ」

 クロウもいたみたいだった。

「それでは失礼します」

 ミリアの声がしなくなって、少し時間がたったあとお父さんが話し出した。

「えっと、僕に何か用かな? 僕は君を知らないのだけれど」
「ボクの名前はブレイド。……ハヘラータの隣、マクプンの王子から外された者です」
「……瘴気の国になったと言われているマクプンか。もしかして、僕の竜魔道具の腕にご用事が?」
「いえ、今日は別の用事でここに」
「別の用事?」
「はい。貴方の娘。エマの事です」
「――っ、だから言ったろう? 僕が渡した竜魔道具を使うことが出来れば僕の子だろうと」
「……あの、ボクはここの国の人間とは関わりは」
「今、言っていたではないか。ミリア様の婚約者だと」
「それは……」

 ブレイドはつまりながら言葉を続けた。

「とりあえず聞いて下さい。今から彼女がここにくるか、すでに来たあとかわかりませんがもし会えたらこれを渡して欲しいんです。ボクも探すつもりですが彼女が目指しているとしたらここだと思うので」
「……どういう事だ?」
「エマがマクプンからここにむかったようなんです。お二人に会うために――。おそらく供の者はいるのですが。ボクは最初、拐われたと思って――。だけど、ミリア達は違うと言っていて――」
「……落ち着いて、キミも動揺しているんじゃないか。呼吸が浅く激しい。あまりそれが続くのはよくない」
「……すみません。置いていかれるのにトラウマがあって……」

 椅子を引く音が二つした。
 ずっとお母さんは私をぎゅっとしてくれていた。どうしてだろうと思ったけれど、よく見れば自分の体が震えていたからだった。

「……それで、これは指輪のようだが」
「はい。エマに、あげたものです。それを渡して下さい。あとはボクが迎えに行くと伝えて欲しいんです」
「キミとエマはどういう関係なんだ?」
「……彼女はボクの――――大好きな人です」
しおりを挟む

処理中です...