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第一章 聖女と竜

第33話 引き続きダイエット

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 心地よいぬくもりがいきなり遠ざかる。ひゅうと冷たい空気が全身を撫でていく。

「さむっっ!!」
「起きるぞ、エマ!!」

 どうやら起きる時間みたい。この寒さはルニアに布団をとられたからだ。あぁ、そうだ。昨日言い忘れていたわ。今日からもう果物は取りに行かないって――。

「今日からは素振りだ!」
「え、……はぇ?」

 ガタガタと寒さに震えながらゆっくり動き出す頭を使って考える。素振りって素振り? 私、剣なんて使った事ないのだけど。

「あとは走りこみな!」

 もう少し寝たい。ルニアが果物集めをしている間、もう少し寝ようと私は結論付け提案する。

「ルニア、朝ごはんは?」
「あれは冬の間も実をつけるこのあたり全体の大切な食料だから頻繁にとっちゃ駄目らしい。だから今日は別のをな。ほら、行くぞ」
「あぁー、あったか睡眠をー」
「エマ、聖女の頃のお前はどこいった。呼ばれれば駆けつけて、すぐに対処してたすごいお前は――」
「ルニアは知らないのよ。私好きで働いてたんじゃない。もうあの人元婚約者のために働かなくていいし、私だってやりたいことやりたくないこと、選択したい。聖女の力だって……」

 そうだった。私、両親からこの力を使わないようにって言われてた。普通の女の子として生きて欲しいって……。私を置いて急にいなくなった二人。
 その後、私はあの人の元に連れて行かれ保護するからと部屋を与えられそしてあの生活になっていった。
 使わないようにと言われた聖女の力を使って欲しいとお願いされて――。生きて欲しいと言われた私に残されたのは普通の女の子にはない力だけ。この力を使わなければこの保護もなくなる……? わからなかった。だから生きる為に私はこの力を使うしかなかった。

「ごめん、エマ泣くな。もう少し寝てていいから」

 ルニアがおろおろしていた。私、泣いてる?

「そうだな。もう細くなったんだし運動する必要はないよな。ごめん」
「ルニア、違うのっ! この涙は」

 慌てて首をふった。涙を袖で拭って顔をあげる。

「思い出しちゃって……悔し泣きよ!! あー、この姿あの人に見せつけたい!! 私こんなに細いんだからって!! 今なら後悔したりするのかしら? 私、もっともっとキレイになって見返してやるんだった!! 起きるわ。私ルニアみたいになりたい。がんばらなきゃ!」

 ルニアは心配そうに一度目を向けてきたが、すぐに笑顔に戻りいつもの鬼教官になった。

「わたしみたいになんて、どうしたらなれると思ってるんだ? 同じ事するのか? よし素振りと走り込みだけじゃ足りないな! あれとそれと、アレも足すか!!」

 私は後悔した。回避失敗だけでなくめちゃくちゃ増えてしまった気がする……。
 こんなことなら最初の段階で「さぁ、いきましょう」とでも言っておけばよかった。

 外に出る。寒さがいっそう強くなった気がする。息がほんの少しだけど白く見えた。
 ルニアは相変わらずの寒そうな格好。私はルニアが持ってきた動きやすそうな服とシルに貸してもらったもこもこがついた冬用コートを羽織る。
 外に出ると同じように冬用の服装をしたブレイドと丸竜スピアーがいた。

「おはようエマ、ルニア」
「おはようさん」
「おはようブレイド。スピアー」
「よし、揃ったな」

 え、揃った?

「素振りだよ。素振り! 皆でやれば楽しいだろ?」
「えっ?」

 よく見れば他にも何人か参加者がいた。大きな体のオゥニィーが木剣をたくさん持っててその人たちに配っている。ただ何人かは持てるのかな? と思う人たちもいたけれど器用に持って振っている。

「ブレイドもするの?」

 ブレイドも受け取った木剣を軽い調子でふっている。

「一緒にした方がどんな苦労をして美味しくなったかわかるだろ?」

 美味しく!?
 そこはもう少し違う表現が欲しかったけれど、起きがけの気持ち悪さが一気に吹っ飛んでいった。

「手伝うよって言ったしね」

 覚えててくれたんだ。まさかブレイドと一緒に出来るなんて考えてもなくて、嬉しいのと申し訳ない気持ちが入り交じっている。だって、彼は瘴気が吹き出したら向かわなくちゃいけないし、他にもいっぱいやることがあるよね。

「エマ、顔に出てるぞ? 心配するな、この高性能探知機に瘴気は任せてあるから思いっきり頑張っていこうぜ」

 ルニアがスピアーを指差す。高性能探知機とはいったい。

「この国にいたいなら働くことを条件にした」
「オレは高性能探知機いう名前ちゃうわ!!」

 二人は仲が悪いのかな。よく打ち消し合うように同時に声を上げる。今回は両方聞き取れたけれど。
 つまり、スピアーは高性能探知機という職を得たというわけね。何を探知するんだろう? 話の流れから瘴気?

「エマも昨日聞いただろう? スピアーは瘴気の出る場所とあとどれくらいかがわかるんだと」

 ルニアが木剣をふりながら説明してくれた。そういえば昨日瘴気がもう一箇所って教えてくれたっけ。時間までわかるなんてすごすぎない?
 私も受け取った木剣をぶんぶんとふってみる。軽やかにするブレイドたちと違って重さに振り回されそうだ。

「本来、竜ならわかるはずなんやけどなぁ」

 スピアーはブレイドにおかしなものでも見るような目線を向ける。

「エマちゃんと一緒におるためやから、いっちょ手伝ったるわ」

 そこのところ詳しく! とあとで聞こうと思う。瘴気の事が竜ならわかるの?

「エマ!! ほら、握り方はこうだ!!」
「はい、ルニア!!」

 熱血師弟のように指導してもらいながら、朝のダイエットを始める。腕がすでに木剣の重さでぷるぷるしていた。
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