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第五草

31・出会い

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「ユーリ、これ」
「あぁ、ありがとう」
「ユーリ、見て見て!! 風の魔術使えたよ」
「上手いじゃないか」

 川に沿って歩いていく。知らない草があれば回収し食べていく。今チャミちゃんに渡された草は噛んでやろう! という感じがひしひしする大きな口のような葉っぱに歯の様なトゲがついてなかなか口にするのを躊躇う。葉より大きな口を開けて口に見える草を一気に押し込む。うーん、このあたりのは軽やかな口当たり。
 中で動いたような気がするが、たぶん気のせいだと思いたい。

「そろそろつくよね」
「あぁ、飛び上がって確認した場所はそろそろのはず」

 ヨキと練習しながら進んできたおかげでだいぶ飛行魔術が安定してきた。チャミちゃんもうさぎの姿のままで出来るようになって、空を飛ばないと駄目な場面でもヨキの変化に頼らなくていいようになった。
 道中、ヨキに説明しないとと思ってあの姿の事を誤魔化す嘘を考えていたが、今のところ聞いてくる様子がない。忘れてるのか?
 まあ、とりあえず嘘を練る時間が増えるのは助かる。

「ユーリ、あれ!」
「ん?」

 先ほどの口草が成長した? そんな考えが浮かぶ大きさが人ほどある赤い大きな口。その前に立つ鳥のような羽のある女。青い髪のさきにまるで赤い血がついたかのような赤色がある。羽も同じ色だ。服は布を被っただけのような簡素なもの。少し汚れもしている。

 キシャァァァァァァァァ

 口草が音を発した。実は喋ったり出来たのか?

 ピィィィィィ

 今度は鳥の鳴き声のような音。これは羽のある女が発したのだろうか?
 次の瞬間、口草はばらばらと切断され崩れ落ちた。

「何だ、今の」
「風の精霊が動きました。風の魔術を行使したんだと思います」
「一人で何してるのかな?」

 遠くで何かを拾う鳥の女を見ながら話していると、その女と目があった。
 街の人間かもしれないし挨拶くらいしとくか?

「来るな!!」

 鳥の女は拾い終わったばらばらの口草を手に持ったまま、街の方へと走っていった。

「……、来るなと言われても今から向かう方向なんだけどな」
「どうしましょうか」
「街に入るのやめる?」
「うーん」

 さすがに二回も飛ばしては時間がたりなくなるかもしれない。

「行くしかない。だって、今回は街の真ん中にあるのが見えているんだから」
「そうですよね」

 チャミちゃんは頷くと、オレの顔をじーっと見てきた。

「何? チャミちゃん。オレの顔、何かついてる?」
「いえ、何も」
「ねー!! ユーリ、おなかすいたぁぁぁ」

 ヨキは草を噛みながら間に入ってきた。

「草じゃ足りないっ」
「わかった。わかった」

 どうせまたオレはありつけないだろうが、食事の用意をするため耳をたてて動物の気配を探した。
 うさぎなのに、いつの間にか人よりの考えになってるなと自嘲の笑みを浮かべてしまう。
 オレ、草うめぇぇぇだけしていたいのにっ!!
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