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第四草

30・とある魔術師の追憶

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 ◆

 明るい光が読んでいる本を照らす。あまり日の光をあてるのは良くないか? と考えて、窓から離れ物陰へと移動する。
 一人の女の子がこちらに向かって廊下を走ってくる。

「ウィルバード!!」
「レイア、久しぶり!!」

 金色に輝くさらさらとした髪を結い上げた彼女はオレの婚約者。名前はレイア。最近仕事が忙しかったのか、とても久しぶりに顔を見れた。

「聞いて下さい。お父様ったら次の仕事まで私に全部まかせるつもりなんですよ」
「認めてもらえてるって事じゃないか」

 オレは持っていた本を机の上に置いた。レイアが興味津々に手元をのぞいてくる。

「えぇー、お父様がサボりたいだけですよ。絶対!!」
「あはは」

 魔術師の同期で同い年。彼女の父親はたくさんの魔術師の師でもある。オレの師もまた彼だった。
 レイアはオレの才能を認め、父親に直談判しにいった。そう、彼女がオレを婚約者に選んだ。行動力の塊のような女の子。

「最近、お父様は何かの研究に忙しくしてばかりで……。魔術の講義にも出なくなってしまって――。少し心配です」
「そうだね。オレも長いこと会えてないな。…………レイアとも」

 軽く抱き寄せる。ひさしぶりの彼女は相変わらず、どこからか甘いかおりをさせていた。
 光を反射する海のような青い瞳は恥ずかしげに少し伏せられた。
 彼女の額にそっと口づけをする。

「……もう、子どもじゃないです」
「あはは、ごめんね。つい」

 オレには恐らく前、前の前、二人の人生の記憶があった。だから、子どもに見えてしまっても仕方がないと思うんだ。
 なぜそんなものを持って生まれたのかはわからない。だけど、二人とも強く強く願っていた事は知っている。
 ――――守りたい。大切な人を。

「あぁ、そうだ。お父様と言えば、近々、前例のない魔術、魔術師の限界を越える術というのを試したいと言っていました。私はお手伝いに呼ばれているのですがウィルバードは呼ばれていますか?」
「いや、呼ばれていないな」

 オレの魔術師としての地位はすでに彼女の父親のそれをはるかに凌ぐ、最高位の魔術師だった。
 それを快く思っていないのかもしれない。
 彼女の父親との距離は最近離れていくばかりだ。

「お父様に伝えておかなくては。もー、ウィルバードは家族の一員なのに」
「あはは、まあよろしく言っておいてよ。オレはオレで仕事があるからさ。レイア、今日の夜うちに来られるか?」
「もちろん。明日まではお休みいれてきたの」

 あの時、手を離さなければ良かったのか。
 彼女の最後の笑顔。
 うちに来れなくなったのは何故だったんだ。

 レイア…………。
 あの日、会えなくなってしまった大切な人。
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