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2章、取り戻すために

23話、パーティー結成

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 なんだなんだ?
 冒険者ギルドがやけに騒がしいな。
 クエスト貼り出し用掲示板の周りは特に酷くて、人波で溢れ、ごった返していた。

「おい坊主、邪魔だぞ、前見て歩け」
「あ、すいません」
 訳がわからずキョロキョロしていると、知らない冒険者にぶつかって怒られてしまったよ。前世を合わせたら俺の方が年上だっつの。くっそー腹立つ。
 ハゲ上がる魔法を唱えてやりたい、あいつに。

 って、この世界に来てからやたら『坊主』って言われるのはなんでだろう。
 そんなに見た目幼いのかな? などと考えながら、ブツブツと呟き歩いていると、ギルド№1受付嬢の呼び声高い、緑の髪の美しいお姉さんが一生懸命『おいで、おいでと』手招きをしています。

 もしかして俺? と人差し指を自分に向けてみると。
 ブンブンブンと首を縦に3回振る、麗しき受付のお姉さま。

「マリーさん、こんばんは」
「フェリくん、おかえりなさい」
「何かあったんですか?」
「今から教えてあげるから、大きな声を出さないって約束できる?」
 コクコクコクと頷く俺。
 今すぐ声を出すなとは言われてないけどさ、大きな声を出すなと前もって言われると、なんかもう黙ってしまわない?
 そんな俺にクスリと微笑んだ後、カウンターの下から1枚の紙を取り出して目の前に置いて見せる。

「ふっふっふ、これを見なさーい」
 手を腰に置き、胸を張りドヤるマリーさん。
 彼女の大きなむ、いや、たわわさんが元気一杯に揺れていたよ。
 駄目だ、駄目だ。
 あの『たわわさん』は仲良くなっちゃダメな『たわわさん』だ。
 お近づきになってはダメな『たわわさん』なんだ。いいなフェリクス!
 ふぅ。危ない危ない。
 断腸の思いで無視しよう……。ぐすっ。
 
「緊急クエスト? なんですか、これ?」
 冒険者になって日も浅い俺は、こんなクエストがある事すら知らなかった。
 このクエストがどれほどの事態で、どれだけの価値? あるモノなのかすらわかっていないから、正直感想としては『フーン』としか言いようがない。

「いいから、読んでみて?」
 金髪の僕ちゃんになってから、表情が顔に出やすくなったのかな?
 たまに思考がバレている気がする。
 とりあえず、ちゃんと読んでみるか。

 ふむふむ。
 どれどれ?
 んん??
 なっ!? ちょっ。
「マ、マッマ」
「ママ?」
「マリーさん!」
 ドンッ!
「きゃっ」
「あ、すいません。つい興奮してしまいました」
「フェリ君に襲われるぅ~、いやぁ~」
「ち、ちがいますって……、勘弁してください、ごめんなさいぃぃ。」
 って、襲われる~と言いながら、なぜ笑顔なんですかっ。
「ふふふ」

 口元を手の平で隠しつつ、マリーさんがおいでおいでと手招きしている。
 ホント、切り替えが早いなぁ、もう……。
 これは耳を近づけろって事かな?
 受付のお姉さんが混雑してる掲示板を無視して、こんな所で写しを見せてるのがバレたらややこしくなるもんなぁ。声量に気を付けよっと。
 
「これは領主様直々の黒オーガ討伐クエストよ」
「そうみたいですね」
「金額見たでしょ? 2体討伐で金貨80枚よ」
「えぇ、見ました」
「アンリエッタさんを取り戻すには、このクエスト受けるしかないでしょ!」
「ですね」

「なによ、元気ないわね」
 顎に手をやり、思案顔のマリーさん。
 報酬は魅力だけれど、俺の気に入らない様子をすぐに察してくれた。
 
「なにか気にいらないの?」
「いえ、領主クエストってのが……ちょっと」
「あぁ、そっか、色々あったものね。でも背に腹は代えられないでしょう?」
 マリーさんが俺の両手を掴んで続ける。
「贅沢言ってる場合じゃないわ。取り戻すのでしょう?」
「ですね」

「あぁ、リヨンイチの美少年が命を賭けて領主様のクエストをこなし、父の仇を討ち、最愛の人までも取り戻すなんてドラマだわ、ドラマよ」 
 なぜかもう俺よりも、マリーさんの方が興奮していた。
 人って目の前にガッツリ興奮している人がいると、冷静になれるって本当ですね。
 わたし、アンリエッタさん救いたいです。
 でも、なぜか心は平たんでございます。
 
 そうなんだよ。
 マリーさんて本当に優しくて、俺のややこしい事情を全て察したうえで、全力で応援してくれているんだ。本当に素晴らしい女性なんだけど、恋愛話好き? 物語好きなところがあってさ、俺とアンリエッタさんの話が大好きなんだよなぁ……。
 そして酒を飲むとオヤジ化するところがあるのだよ。
 
「とりあえず今は業務中だから、あとで酒場でお話しましょうよ」
「え、酒場ですか?」
「駄目なの?」
 先ほどと一転して、悲しそうな表情になってしまうマリーさん。
 前世ではいい年したおっさんだったけど、なんせ女性に縁のない人生だったからなぁ。こういう表情されると断れないんだよ。
「わ、わかりました」
「大事な話があるから、ぜっったいに来る事」
「はい」
「そうそう、ミゲル君も読んでおいてね」
 今はもう夕方だから、あと1時間もすればマリーさんの仕事は終わるだろう。
 ミゲルさん今日いるかな? ちょっと呼びにいくか……。
 
 コンコン
「おぉ、フェリクス君じゃないか」
「どうも、ミゲルさん」
「こんなボロ家ですまないね。どうぞどうぞ、ささ」
「じゃあ、失礼します」
 不要なものは全て処分したのだろうか? 
 以前治療に訪れた時と比べて、家財の類が無くなり部屋はがらんとしていた。
 
「あれ? ミゲルさん、部屋を出て行くのですか?」
「ん?」「あぁ」
「君のお陰で僕はまた戦えるようになった。いっただろ? 君と一緒に冒険者になると」

 今日貼り付けられた緊急クエストの事もある、これは渡りに船かもしれない。
 2人なら絶対にあいつに黒オーガ勝てるよ。
 こうなる事を見越してミゲルさんを治したわけじゃあない。でも幸せは人に与えた分だけ、自分にも少し返って来るんだな……。
 世界って思ったより温かいよ、父さん。

 ◇◇

「2人ともおまたせ~」
「いえ、今日も受付混んでましたね」
「そうなのよ~。あ、すいませーん、エール6つください」
「え? いきなり6つですか? 3人ですよ??」
「いいから、いいから」
「は、はぁ」
 そう言えば大事な話があるって言ってたな、この後誰か来るのかもしれない。
 そうこうしてる間に、卓上に樽ジョッキがドンドンドンと6杯並ぶ。
 酒豪には普通の光景かもしれないが、適量の人間は圧倒される光景だよ、これは。

「はい、1人2杯づつよ?」
「ええっ、ちょ」「いやっ、待って」
「はい、ちゃんと持って」
「いや、だから……」
「うるさいわね。いい? いくわよ?」
 なし崩しに樽ジョッキを掲げる男が2人、女性の押しに弱い2人だった。

「パーティ結成を祝って、かんぱーい」

 ごくごくごく、ぷはぁー。
「やーん、クソギルド辞めた後のエールって最高~♡」
「ブハッ」
「もう、汚いわね」
「ご、ごめ、じゃなくって、ギルド辞めたんですか?」
「辞めて来ちゃった、テヘ」
 テヘじゃねええええええ。
 そして事情がわからないミゲルさんは、一人おろおろとしていた。
 この展開ついていけないよね? わかるよ、俺だってそうなんだもん。

「や、辞めてどうするんですか?」
「さっき言ったじゃない、パーティよ、パーティ。4人でパーティ組むのよ!」
「4人? 3人じゃなくて4人ですか?」
「あ、そうかミゲル君は知らないのね、いいわ教えてあげる」

「──いい? フェリくん」
「ま、まぁ彼なら……」
 
 エールをぐびぐびと飲みながら、マリーさんが語りだす。
 父がリヨンの城館に勤める騎士であったことを。
 大森林近くの村を救うために奮戦するも、黒いオーガから負傷者を救うため盾となり散った事を、ミゲルさんは知っているはずなのに、うんうんと頷き聞いていた。

 酒を片手に話は進む、どんどん饒舌になっていくマリーさんがいた。
 父が亡くなり爵位は召し上げられ、一家は離散。
 子供の頃からお世話になった大事な女性ひとを、愛する女性ひとを取り戻すために金貨100枚が必要な事も全て明かしてしまった。愛する愛すると連呼されてしまうと恥ずかしいから、あまり言わないでほしいんだが……。

 真っすぐな眼差しで俺達を見つめるマリーさん。
 ずっと前に話した時のように、その顔は今日も鼻水と涙で濡れており、ギルドナンバーワン受付嬢の面影はどこにもない。あ、いまはもう『元』ナンバーワンになっちゃうのか。

「おおぉぉ。グスッ、君と言うやつは……」
「──グスッ、泣かせる男じゃないかッ、うぅぅ」
 マリーさんから事の経緯を聞き終えたミゲルさんは、おんおんと声を上げて泣いていた。マリーさんと肩を抱き合いおんおんと、なんなんこの2人……。

「僕の体を治してくれた事といい、君は本当に素晴らしい」
 涙交じりの顔を突然キリッとこちらへ向けるや、おもむろに宣言が始まった。
「やろう! やってやろうじゃないか! 黒オーガを倒して、君の麗しの姫を助けようじゃないかっ!」
「おーっ、いいぞミゲルー」

 もう駄目だ、場は酔っ払いに占拠されてしまった。
 もう俺も呑むしかない。
 素面でこの2人に付き合えるかよ。

「ところで、フェリ君てさ、信じられないくらい可愛い顔をしてるわよね。見た目だけなら天使みたいじゃない」
「マリーさん、酔ってます?」
「それなのに純粋で、アンリエッタさんだけをただ追い求め、あぁ、もう最高なのに」
 いきなり何を言い出すんだろう?
 恋愛話好き? 物語好きさんの琴線に触れてしまったのかな? 俺という存在が。
 ふふふ、罪な男だ。

「なのに、スケベよね」
「ブハッ、ゲホッ、ゲホゲホ。な、なんですかいきなり!」
「だって、たまに胸見てるでしょ?」

「たまにじゃないか、結構かな~?」

「あ、あ、あれは、あれはで、ででですね」
「好きなんでしょ? 正直に言いなさいよ」
「好きというか……」
 こんな修羅場は前世も今世も初の事だ、一体ど、どうしたらいい?

「み、見たことも触った事もないから、そこには、だ、男子の夢が詰まってるんです!」
 ゴクゴクゴク、ドン。
「ふぅ、だから見てしまうだけなんですっ!」
 何を言ってるんだ俺はああああ。
 
「アンリエッタさんと、長く一緒に暮らしてたのでしょう?」
「そうですよ?」
「彼女の見た事ないの?」
「なっ!?」
 ボン、と俺の顔も、手も足も全てが真っ赤に茹で上がってしまう。
 
「くすくすくす、あー面白い」
 笑いすぎて涙を浮かべるマリーさん。鬼だ。緑のオーガだ。
「お年頃ってそんなものよね。ミゲル君もどうせそうなんでしょ?」
「ええっ!?」
 うわ、貰い事故きた。ミゲルさんごめん。
 ケラケラと笑うマリーさん。
 だ、だれかこの酒好きオヤジ風美人を、違うな、もうそんな表現では生ぬるい! 緑のオーガを止めてくれぇ、頼むぅ。
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