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1章、転生で初めて人の温もりを知る

2話、金髪の小僧

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 鏡を見てびっくりしたね。
 映し出される突然の金髪に碧眼、そのあり得なさから一瞬映像か? と疑ったけどコレどう見ても鏡だよなぁ。
 軽くこついて見るけど硬いし、どう見てもモニターの類には見えなかった。
 やっぱりこれが今の俺なんだろう……。
 どこからどうみても可愛い美男子ボクちゃんだ。

「ちょっと待て、まさか?」
 あまりの美男子ぶりに胸がざわつく……、もし、もしもアレが無かったらやばい。
 前世は使で今世はとかまぢで神をも呪うレベルだぞ……?。
 ええい、ままよ! ズボンと下着を勢いよく降ろし、恐る恐る上から覗き込むと、そこには随分と可愛くなったアイツが鎮座してた。チンなだけに。
 いたけど、いたけどさぁ……そりゃないだろ。
 子供だからしょうがないんだろうけど、ツルツルな姿になぜか落ち込んでしまう。

 ま、気にしてもしょうがないか。
 これで大人なら恨むけどまだ子供だしな、成長するだろう。するよな?
 それよりもこれからだ、これからどうするよ?
 出来れば元の世界に戻りたいが、戻る方法はあるのだろうか。
 そのドア開けたら元の世界でしたとかないかな? ほんの少し、淡い期待と共にその扉を開けてみる事にした。

 ガチャ
 恐る恐る扉の隙間から様子を伺うが、部屋と同じような古い洋風造りの廊下にガッカリしてしまう。とりあえず元の部屋へ戻れるようにと、周囲の景色を覚えながら廊下を進んでみる事にした。
 
「ぼっちゃま、どうされましたか?」
 あちゃ、見つかった?
「まだ無理はせず、お休みになられませんと」
 進んで来た廊下の角を曲がったところで、先程まで俺の部屋にいたメイドさんとばったりと出くわした。元の世界に戻る方法を探してたとは言えないので適当に答えてみる。
「実は本当に何も覚えていなくて」
「──何もかもわからないんだ、だから冒険してたんだ」
「まぁ、では私がご案内して差し上げましょう。小さな勇者様」 
 憐れむでもなく、ただ悪戯っぽくニコっと笑うメイドのお姉さん。
 
↓ メイドのお姉さん挿絵 です↓


 あれ? このメイドさんってこんな綺麗な人だったの? それに何て素敵な対応だろうか。この美しくて素晴らしい対応のメイドのお姉さんが俄然気になってしまい心がギュンギュンと弾む、そう、こういう人と出会いたかったんだ。このお姉さんは名を何というのだろうか、知りたい! 俺のスペシャルな好奇心が火を噴いた。 
「お姉さん、お名前を教えていただけませんか?」
「私ですか??」
「はい」
「私はアンリエッタと申します。以後よろしくおねがいしますね?」
 そういって、彼女はまたニコリと微笑んだ。何て綺麗なんだろう……。
 
 それからはアンリエッタさんと2人で館を隅々まで探検した。食堂や居間に厨房やトイレなど、ひとまず生活に必要な場所も全てわかったので一安心だ。アンリエッタさんありがとう! 優しくてよい香りのする女性だったなぁ。

 部屋に戻りベッドで横になった俺は、改めて先ほどの探検に思いを馳せてみる。
 初めて見た時は訳の分からないこの状況に気が動転し、気づく事が出来なかったけど、落ち着いて見ればアンリエッタさんはもの凄い美人だった。なんて言えばいいのかなぁ……、同じ人種とは思えないほど美しいんだ。わかる? あんな綺麗な人は大学や職場には1人としていなかった。
 
 黒い長髪は艶ややかで美しく、肌は見たことが無い程の白さに目はサファイアのような碧眼なんだ。黒髪碧眼とか初めて見る組み合わせだけど恰好良すぎだよ。
 そうそう睫毛はイスカンダ〇の女王くらいあったかもしれない、あんな長い睫毛実際あるんだなぁ。眼福眼福。
 
 あれ? ちょっと待てよ? そういえば耳が少し尖ってた気がするぞ??
 ああいう美人で耳が尖ってる人の事をなんて言うんだっけ? ゲーム好きな奴がなんか言ってたような気がするな……、エ、エ、エロフ? こんな人に言い辛いネーミングだったかな? なんか違う気がする。むむむ、まぁいいや、今度本人に直接聞こう。

 とりあえず異世界転生なぞありえん! 今すぐ返せ! と思っていたけど、アンリエッタさんに免じて少し猶予してやる。

 今すぐ元の世界に戻る方法が無い以上、戻る方法が見つかるまではこの世界で生きていかなければならないんだ。なぜか言葉だけはわかるんだけど文字はさっぱりわからないんだよなぁ。
 転生ってもっと何かこう、すごい恩恵とか能力を貰えるんじゃないのか? シュッシュッとボクサーのように空に拳を放ってみたけど普通に子供のそれだった。強さのかけらもありゃしないし、ステータスとか念じて見ても何の変化もないね。
 
 能力云々よりやばいのは、価値観や常識の欠落だよ。
 これらを理解していないのはひじょーに不味い。元の世界でもあったろ? ヌード雑誌を持ち込んだら逮捕とか、酒飲んだら死刑とか、未婚の女性とハグしたら鞭打ち100回とかさ、それらが悪いって言いたいのではなくて、国や地域、そこで暮らす人たちが変われば価値観や常識、社会通念に倫理観はそれこそ千差万別だろ? 身を守るためにもまずは知らねばならない。女性の裸を見て獄死とか洒落にならんからな……。

 自分の為に今世も勉強だ。
 幸い勉強は得意だ、まっったく苦にならん。
 ひたすらに本を読み勉強をする事に決めた。おっとその前に字だな、大人に聞けばわかるような事はアンリエッタさんの所へ行って聞けば良いし、よーし頑張るぞ!

 こんな生活を暫く続け、少しずつだが分かった事がある。
 俺はどうやら名をフェリクス・コンスタンツェと言うらしい。
 コンスタンツェ家は1代限りの騎士爵で、際立った武勲をあげるなど何かしら功が無いと俺の代は平民確定らしいのだ。ちなみに文明のレベルは地球で言う中世の辺りのようで、当然電気や機械と言った類の物は何一つない。剣と魔法の世界のようだった。

「アンリエッタさんは魔法使えるの?」
「使えますよ?」
「え? ほんとに?」 
 うおおお、超美人なアンリエッタさんが魔法を使うシーンとか絵になりすぎでしょ! 見たい! すぐ見たい! 今すぐ見たい! 
「見たい! 見せてよアンリエッタさん」
「それがお見せできないのです」
 悲しそうな表情を見せるアンリエッタさん。そんな表情も良き! 
「どうして?」
「こういったお屋敷に勤める使用人は魔法が使えないように、こういう物を装着する必要があるのです」
 と言い、ボタンを2つほど開けて首元を見せてくれた。
 漂う大人の女性の香りと、ほんの少しだけ見える胸の谷間に年甲斐も無くドキドキしてしまう俺、自慢じゃないが母さん以外の女性の裸は見たことがない。
 
「そこじゃありません。こっちですよ」 
 首元に掛けられた堅牢そうなチョーカーのような輪を指で摘んで示してくれる。
 ちょっとだけよそ見してたのがバレてたみたい、は、恥ずかしすぎる。 
「ごめんなさい」
 アンリエッタさんは笑顔で返してくれた。
 これが子供パワーか? 子供恐るべし。

「世の中には色んな使用人がいますから……、それこそ主人を害すような、ね? だからこれらの道具で力を制限されるのです」
「悪い人じゃなくても?」
「ええ、そうですよ。ですからお見せ出来ないのです。この程度で良ければお見せ出来ますが」
 と言い、彼女が人差し指を上へ向けるとポッと小さな火が点いた。
「うわぁ、すごい」
 これが魔法なんだ、正直感動したよ。
 元いた世界では映画やゲームに、果ては漫画や小説の世界でさえ見かける、使えもしない、使えるものがのになぜか、あまりにも有名な事象。
 それを目にしたらやっぱ使ってみたいよ。なぁ?
「アンリエッタさん、僕にも教えて!」
「勝手な事をしたら、お館様に叱られてしまいます」
「我が家は1代限りの騎士爵なんでしょ? じゃあ剣術も魔法も、それこそありとあらゆる事を学ばなくちゃ。だからお願いだよ」

 困った顔で俺を見つめるアンリエッタさん。
「ぼっちゃまのその姿勢は大変素晴らしい事だと思います」
「じゃあ」
「ですが1つだけ良いですか?」
「うん」
「ぼっちゃまは人族なので、使える魔力に限りがあるかも知れませんよ?」
「ひと、族?」
 え? どういう事?
「アンリエッタさんは違うの?」
「……」
 それまで、凛と咲いた花の様であったアンリエッタさん。
 表情がみるみると翳り、辛く悲しげなモノへと変わっていく。何かまずい事を聞いたのかな?
「私は……ハーフエルフですから……、種族的に魔法は得意なのです」
 エロフじゃなくて、エルフ!? あぶねえ、こっちから聞かなくて良かったよ、彼女にクソガキ認定されたら死ねる。
 
「ハーフなんだ、かっこいいね」
「はい?」
 呆けた表情を見せる彼女、初めて見せる変顔も良き!
「ハーフエルフですよ?」
「ハーフなんでしょ? 格好いいじゃん」
 ハーフとかクォーターとか一度は憧れるってもんよ。なあ?
 凛と咲く一輪の花の様な美しい彼女の頬を涙が伝い、その雫が床を濡らしていた。
「ど、どうしたの? アンリエッタさん、泣かないで」
「ハーフエルフは何処へ行っても忌み嫌われるのです。私がお屋敷で使用人をしているのもそのためです。ハーフエルフを雇ってくれる様な人は余りにも少ないですから……、ぼっちゃまの様に肯定されたのは生まれて初めての事です」

 こんな素敵な女性を忌み嫌う? 正直意味がわからないし、理由もさっぱりわからない。民族的な確執とかかな? 他に何か原因があったとしても現代人であった俺には何の関係もないしなぁ。
 
「そうなんだ……、なぜ忌み嫌われるのか分からないけれど、僕はずっとそうはならないよ。アンリエッタさんをあしき言う奴がいたら僕が守るから!」
「ありがとうございます……、小さな騎士様」
 涙を流すアンリエッタさんに、そっと優しく僕は抱きしめられた。
 心が温かいもので満ちて行く、自然と俺も彼女を抱きしめ返し、その身を包むようにと手を回すけど届かない。なんでこんなに小さく短いんだ。
 小さい手が、短い腕が、今はただ悲しかった。
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