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126.向けられる感謝
しおりを挟む聞こえた声にボスの後ろを見れば、モージーズー達をはじめとした狼絆の仲間達がそこにいた。みんな元気そうにこっちだあっちだと言いながら瓦礫や土砂を掻き分けて掘っている。
「すごいな。本当に生きてるぞ」
「「「フレイちゃんすげー!!」」」
「…………」
「レト兄? モージーズー……それに……フレイ君?」
レト兄とモージーズー達が掘った瓦礫の底を覗き込んでいる。そしてそんなモーの肩には縄でぐるぐる巻きにされ項垂れ担がれているフレイ君がいた。
……いや、フレイ君に何があったんっすか?
フレイ君の状態に呆気に取られ見ていると、フレイ君が何かをぶつぶつ言っているのに気付いた。
「……あり得ない。なんでラックの奴無傷なの? こっちもこっちで動くなって言ってんのに勝手に動いて僕に縄巻いてわーわーと。何考えてんの? それでなんでこっちもほぼ無傷? 体質対策にしても一体どんな訓練してるの? 意味わかんない。いつの間にかいなかった奴らも全員合流してるし、なんなの? 僕ってこんな扱い受けてもいいような立場だったっけ? 偉いはずなのに何この扱い。でももういいや……今は何にも考えたくない。どうせ姉様には死ぬほど怒られることになるんだし、今はいいよもうなんでも。何も考えたくないし、考えないでおこう無になろう…………」
「…………ボス、なんかフレイ君の目死んでないっすか?」
「あいつはいつもあんなんだろ」
「それはないっす」
たまにあーなっちゃう時はあるっすけどいつもじゃないっす。それに今は初めて見る無の目っす。
「とりあえず引き上げるぞ」
「「「了解ー、いつでもいいぞー」」」
フレイ君を肩に担いでるモーも、絶対フレイ君の様子がおかしいことに気付いてるレト兄やジーズーもみんなフレイ君を無視して瓦礫の底から何かを引き上げた。……いや、何かをじゃない。誰かをだ。
「……え?」
そして、その誰かは一人ではなかった。
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫です。ありがとうございます」
「私達助かったの?」
一人を引き上げた後、次から次へとレト兄の手に引かれて出てきた人達はさっき俺が守ろうとしていた人達だった。
「……なんで」
そういえばさっきレト兄が生きてると言っていた。もしかしてそれはその人達のことだったのか。
……でもなんでっすか?
「よし坊主ももう大丈夫だからな」
「う゛ん……あ、お兄ちゃん!」
ジーに抱き上げられ、次に出てきたのはあの男の子だった。涙ぐんでいるその子は俺を見つけるとジーに下ろしてもらってすぐにこちらへと駆けてくる。
「お兄ちゃん! ……この人達お兄ちゃんが言ってた仲間の人?」
「え? あ、そ、そうっす……」
驚きすぎて言葉が上手くでなかった。
「そうなんだ……っよか……ぅぅっ~~あ、あのね、僕っ!! お、お兄ちゃんが頭抱えてしゃがんででって言ってくれてたから、おっきな石が落ちてきても、僕達大丈夫だったよ!!」
涙ぐみながらもパッと俺を見て嬉しそうに語る男の子。でも――
「だから――」
「っ違うっすそれは俺のせいでっ!」
男の子の言葉を遮ってそういえば、男の子はきょとんとした表情を浮かべる。
「お兄ちゃんの? 違うよ? お兄ちゃんのお陰で僕達助かったの!」
「っ」
おかげ? 違う。違うっすのにっ――
「お兄ちゃん。いっぱい傷だらけ……っあのね、守ってくれて……たくさん頑張ってくれてありがと……っ! 助けてくれて……っありがとう。すっごく……すっごくかっこよかったよ!」
「っっ!!」
怖かったはずなのに、涙で声を震わせながらもそれでも笑顔でお礼を言う男の子。
なんっすか、なんなんっすかこのいい子は!!
「わっ!」
思い余って男の子を抱きしめた。温かい。生きてる。生きててくれた。
「うぅ~~!! よがっだ。よがっだっず!! ありがとうっず!!!」
情けないところをいっぱい見せてしまったのに、俺のせいでこんな目にあったのに、男の子はありがとうと笑顔でお礼を言ってくれた。かっこよかったと言ってくれた。俺のおかげ? ……わからない。それでも嬉しさがあふれてボロボロと涙が止まらなかった。ありがとうはこちらの台詞だ。
「お兄ちゃんどうしたの? 痛いの? 大丈夫?」
「ゔぅ~っ大丈夫っす。こんなの、っ全然痛くないっすよ……!」
痛いのなんて、どっかへいったっす。
痛みも苦しさも和らぐ。あれだけ悲しかったのに嬉しさでいっぱいだった。もう一度ぎゅっとその存在を確かめるように子どもを抱きしめ、温もりにまた涙をこぼしてそっと俺は男の子を離して笑った。
「無事で……よかったっす……!」
本当に、本当に生きてよかったっす……。本当に……っ。
「っ……うぅ~~っ!」
「……ほらガキ。お前も他の奴らと一緒にここから出て、手当してもらいに行け。ちょっと顔擦ってるぞ」
「でも……」
「こいつなら大丈夫だ。ほら行ってこい」
「うん……」
男の子はそうボスに促されると俺を心配そうに見てからジー達の方へと戻って行った。
「お! ツキが俺達に気付いてるぞ」
「本当だ」
「やっとかよ!」
「坊ちゃんのせいで全然気づかれなかったもんなぁ」
「あ……」
そんな男の子の後ろ姿を見ていると、その視線に気づいたモーとレト兄、そしてジーズーが笑って俺に軽く手を振り上げた。他の捕まっていた女の人達も俺に気づくと、俺に向かってペコリとお辞儀をした。そのあとは戻ってきた男の子と共にモー達によって他の仲間達に預けられ、促され、瓦礫と土石の山を登り地上へと去っていった。
そんな姿をボーっと見送ってから気付いた。
……さっきのお辞儀、もしかしてあの人達も俺に感謝をしたんっすか?
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