不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

タッター

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124.なんでっ

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 ……ボスがいるっす。


 ずっと待っていた。待ち望んでいたボスが怪我一つなくかっこよく俺の前に立っている。そんなボスを呆然と涙を流しながら見上げた。


「ほらツキ、さっさと手を伸ばせ」


「え? あ」


 伸ばせと言われて素直に手を伸ばす。が、すんでのところでハッとし、手を引っ込め頭を振った。


「ダ、ダメっす!」


「ああ?」


 俺の手はバーカルの血で汚れてしまっている。そんな手をボスに見られるのが嫌でサッと後ろに隠した。……そうだ。俺は何をボスが来てくれたことに喜んでいるのかだろうか。


 俺はもうお別れを決めて短剣を振り上げたんっす。喜ぶなっす。いや、最後にボスが生きているのを知れただけよかったっすね。


「何してんだ、早く帰――」


「い、いや帰らないっすよ! 俺はここで死ぬんっす!」


 サッと周辺を見回し、見つけた短剣に手を伸ばす。が、それよりも早くボスが短剣を見つけ、掴み上げると遠くの方へと放り投げてしまった。


「あー! な、なんで放り投げるんっすか! もうボス! どっか行ってくださいっす!」


「……なんではこっちの台詞だ。てめぇ何しようとしてんだ。もしかして助けにくんのが遅くなって拗ねてんのか?」


「拗ねてないっす!」


「じゃあ怒ってんのか?」


「怒ってないっす!」


「死ぬのか?」


「死ぬっす!」


「俺のこと好きか?」


「好きっす!」


「ニコ♪」


「…………」


 …………。


 なんか、今変なの混じってたっす……。


「よしよしいい子素直だな。じゃあ一緒に帰ろうな」


「っだから帰らないって言ってるっすよね。撫でないでくださ――!?」


 わしゃわしゃと頭を撫でてくるボスの手を押しやろうとすると、その手を取られ、バシャリと水が手にかかった。


「これでいいだろ」


「……」


 手についていた血がなくなった。ボスが魔法で洗い流し綺麗にしてくれたのだ。見上げるボスはどことなく機嫌がいい。どうしてこんなにも機嫌がいいのだろうか。というかこの状況に対して何かないのだろうか。辺りには大きなものから小さなものまで瓦礫でいっぱいなのだ。……だが、少しさっきまで俺が見ていた光景と違っている。


 どうやら俺のおでこに当たった破片は、ボスが上から洞窟を破壊したものが飛んできたからのようだが、どんな破壊の仕方をしたのか。瓦礫いっぱいだった視界から天井に大穴が空き、瓦礫に混じって木やら土石やらが増えた光景に変わっている。


 ……ボス、あそこから入って来たんっすね。


 一発でボスがどこから登場したのかわかる光景だ。


 だが、そうは言ってもこの瓦礫の山に、そのぽっかりとした空間にいる俺。また、ここに俺しかいないこの状況に察しのいいボスならば何があったのかわからないはずがない。なのに何故ボスはこうなのだろうか。


 ……もしかして俺に気を使ってるんっすか?


「……っ!」


 そう思うと胸がまた苦しくなって、まだしつこく俺の頭を掻き混ぜるボスの手を振り払い、俺はカッと荒ぶるように叫んだ。


「っよくないっす、ボスいい加減にしてくださいっす!! わかってるっすよね? 俺がこれをやったことをっ! バーカルもバーカル達に捕まってた人達もみんな俺のせいで死んじゃったっす! なのになんで何も言わないんっすか? なんで聞かないんっすか? やばいって、怖いって思わないんっすか!?」


「? 思わねぇけど?」


「なんでっすか!」


 反射的にすごく大きな声がでた。


「なんでボス、俺のことを怖がらないんっすか! なんで気持ち悪がらないんっすか! 今俺が言ったことちゃんと聞いてたっすか!? みんな殺しちゃったんっすよ俺!? 嫌っすよね? 怖いっすよね? 普通こんな気味の悪い奴なんかに近づかないっす! 話しかけないっす! 忌避して避けるのが普通っす!! なのになんでそんな俺がおかしいみたいな顔するんっすか!!」


 叫ぶ俺に、ボスはなんでそんなにも怒っているのかというように眉を寄せ、ピクリと眉間を動かした。


「基本、俺は博愛主義じゃねぇんだよ。身内の馬鹿どもや、一番にお前が無事ならそれでいい」


 そう言うと、ボスはその場にしゃがみ込み、膝に肘を置き頬杖をついて俺を呆れたように見下ろす。


「だからまぁ、流石の俺でもちょっとビビったぞ? お前に何かあったんじゃねぇかと思ってな。急いでんのに山崩れるわ潰れるわいろんなもん落ちてくるわ飛んでくるわで大変だった」


「……え? ボスこの山にいたんっすか?」


 ピタリと荒ぶった心が止まる。


 そうだ。そうでなければ今ボスがここにいるはずがないのだ。


「モー達含めて全員いたぞ」


「……え」


 その言葉にサッと顔から血の気が引いた。確かに今ボスがここにいるのだからみんなも居てもおかしくはない。だが、ここにはボスしかいない。今この場ですら酷い状況なのだ。外も酷いことになっているのは想像に容易い。だとすれば……


 そ、そんなみんなはっ――


「みんな死んじゃったんっすかっ」


 みんなもバーカルと同じようにっ。バーカルが言ったようにっっ。


「は?」


「そうなんっすね!? や、やっぱり俺生きてちゃダメっすっ、い、今すぐ死ガンッ痛っ!!」


 固まったボスに、それを肯定と捉えボスが放り投げた短剣を急いで取りに行こうとすればボスから拳骨を喰らった。


 ……痛いっす……。


「落ち着けこの馬鹿。ちゃんと現実を見ろ」


「見てるっすよ! 見てるから言ってるんっすよ!!」


 次から次へと涙が溢れてくる。現実が見えていないのはボスの方なのだ。なのになぜそんな呆れた顔ばかりで俺を見てくるのか。


 俺のせいなんっす! 俺が全部悪いんっす! 俺がいるっすからっ俺がいなければっっ……


「くぅ……ふぅぅ……っ」


「……はぁぁ。ツキ、あのなぁ。お前が気にしてんのはあれだろ? お前の体質のせいで俺達が死んだり怪我してたらどうしようかって話だろ? バーカル達もそいつらに捕まってた連中も瓦礫の下で、山もめちゃくちゃだし、んなことを起こした自分を責めてこんな体質もつ自分がこれ以上俺らといるのはって考えてんだろ?」


「ぞうっずよ!!」


 よかった。ちゃんとボスにも現実が見えていた。話を聞いてくれていた。あまりにもこの状況に対して何も言わなさすぎてこの状況が目に入ってないのかと、俺のせいでどこかに頭をぶつけておかしくなってしまったのかと思った。


「じゃあ今の俺の状態は?」


「……え?」


 ……状態? 


「お前の力で怪我するつったり、死ぬっつぅんなら俺は? 今の俺はお前の目にどう映ってる」


「映る……」


 どう映っているかといえば、それはボスが言ったように山が崩れてその場所にボスもいたんだから怪我をいっぱいして大変なことに……


「あれ?」


 ……そういえば俺、ボスが来てくれた時傷一つないって思ったっす。


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