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90.今度は二人で side店員
しおりを挟む(side店員)
お客さんを見送る。初めは「うわっやばい子店に入れちゃったかも!」って思ったけど話してみると素直で面白い子だった。
「……おい」
パシッ
「痛ッ親父何すっバシッいだっ!!」
「店長と呼べ。店ん中でギャアギャア騒ぎやがってよぉ。……てめぇ人様の事情に首突っ込みすぎだ」
「うっ……いや、だってさぁ……」
二回も叩かれた頭を抑えつつ、つい素に戻った口調になる。
この店の、ちょっと上品な雰囲気には絶対に似合わない背の高く厳つい男が高圧的に俺を見下ろしてくる。顔に傷はないが、どこかの戦士のようなオーラが親父には漂っている。店の外観やら内装を考える際、このギャップがいける! と何故思ったのかあの時の自分を問いただしたい。初めて店を出すと言うことで変なテンションになりすぎた。親父もノリノリだったとはいえ風体と店の雰囲気が合わなさすぎでやばい。でも企通りそのギャップがウケてるところもやばい。印象バッチリ、深夜テンションばんざい。
「お前は何様だ。お節介にも程があぞ」
「……わかってるって」
罰が悪く、顔が歪む。
自分がお節介焼きだとは自覚してる。でもいつもはあんなふうに客に対しズカズカと踏み込んだりはしない。程々の距離を取るのにあれは踏み込み過ぎたと自分でも思った。余計な事を言ってしまったとは思うけど、あの子の様子を見ているとどうしても言いたくて仕方がなかったんだ。だって……
「……あれ、お前が作ったやつだろ?」
「……まぁな」
あの子には言わなかったが、あの指輪は俺が作ったものだ。俺が初めて注文されて作ったもの。見間違うはずなんかない。
この店にはいくつか俺が作った商品が並んでいるが、依頼を受けて作ったのは今回が初めて。大体は親父が担当するのだが、ふらっと店に立ち寄った依頼主が俺の作品を見て、俺の腕を見込んで依頼してくれたのだ。
……指輪に限った話ではないが、俺は誰かと誰かを結びつけることができるような品を作るのが大好きだ。人の愛を形として繋げ、表すもの。
あの魔道具の指輪を依頼してきた主は本当に相手のことを愛しているのだと言うことが言葉の節々から伝わって来る人だった。……いや、もうほんとにビシバシと身も心も沁み渡るほどに。初めてのオーダーメイドということで緊張しつつ要望を聞き取った際、端的にどういうものがいいのか、デザインはどうするのかを話してくれたのはすごくありがたかったが、その要望を聞き出すまでに約半日の間ずっと送る相手の話を永遠と聞かされて、最終的にはもう勘弁してください! お腹いっぱいですから! と泣きが入ってしまったほどだった。
……あれは本当に辛かった。人の惚気ほど退屈なものなんかない。初めはいいんだ。けど、延々ループはきつい。
自分が初めて依頼を受け作って売れた指輪で、ある意味依頼者のインパクトが強すぎたあの指輪を決して俺は間違えたり忘れたりすることなんてない。でも……
「想像よりややこしそうな相手だな」
「それな」
親父の言葉に心の底から頷いた。依頼主の話からでは、相手も自分にベタ惚れ! って感じかと思っていたら変に線を引いてる子だった。しかも結婚の約束もしていなければ恋人ですらないと。……あんなにも惚気てたのに。
「……これからあの二人どうなるんだろうなぁ」
自分の初めてのお客で作った指輪。思い入れは当然深い。そんな中、偶然お店に来て依頼主のプレゼントを探してたなんて聞いた時には感慨深く運命的なものを感じた。例え一線を引いていようともあの子の手はずっと付けた指輪を触って握り、羨ましそうに店の指輪を見ていた。あの二人の行く末が気になっても仕方がないと思う。
それでまぁついつい口を出し過ぎてしまったけど、散々いらないって言ってたのに結局はいの一番にアレを気に入ってご機嫌に買っていくなんてもうそれが答えだろって笑ってしまいそうだった。
あの子が何に悩んでいるのか知らないけれど、相手は受け入れ体勢バッチリのどんとこい状態なんだからぶつかっていったらいいと思う。そして、ぶつかり終わったらまたこの店に来て欲しいと思う。
実は今、あの指輪以外にも依頼されているものが一つあるんだ。思入れ度とドキドキ具合と興奮具合だとそちらの方が軍配を上げる。どんなデザインがいいのか要望は聞いたが、それをどう使い、工夫し完成させるかは俺に一任されている。すっごく緊張するが、腕がなって仕方がない。なにせ、まさに想いを形にする仕事。俺がずっと作りたいと思っていたものだから。なので、その依頼品が無駄にならないためにも依頼主にはぜひ頑張ってほしいと思う。
……というかあの依頼主まだ付き合ってもいないのによく依頼できたな。俺作っていいんだよな? ダメだったとか悲しい報告やだからな?
あの子が選んだものと依頼主から依頼されたものはピッタリ合うものなんだ。おかげで依頼された品のデザインの方向性も決まった。……芽吹かせた芽に花を咲かせるんだ。あの子はあれの意味を知らなかった。なら次に来た時意味を教えてあげられるといいな。
……いや、それは依頼主が言うか。……まぁ、なんであれ
「今度は二人揃って来てほ――「おい、これあの子の忘れ物じゃねぇか?」……親父。良い感じで終わろうとしてる所を邪魔するなよ」
「は? なんの話だ。店長と呼べ」
「あ、ほんとだ。それあの子のだな」
親父がいる会計台を見てみれば、そこにはさっきまではなかった飲みかけのカップが置かれていた。たぶんあの子の忘れ物だろう。確か会計の前は持っていたけれど店から出る時には持っていなかったような気がする。お金を払う時にそのまま忘れていってしまったのかもしれない。
「……これ勝手に処分はまずいか? まだちょっと残ってるようだしあとで取りに来るかもしんねぇな」
「どれどれ」
中を覗くと親父の言うとおり中身は後数口分とはいえ残っている。
……んー難しい。
捨ててもいいような気はするけど、下手にまーいいかと判断してしまえばのちの揉め事の種になる可能性だってある。あの子がそんなタイプには見えないが念には念を。
「まだ出ていったばっかだしその辺にいるかもしれないから俺ちょっと探して渡してくるわ」
「おう頼んだぞ。――ちゃんと装えよ?」
「わかってるって」
ニヤッと笑う親父に俺もニヤッと笑って返す。店の雰囲気に合わせて俺も丁寧な店員、言葉遣いを志しているのだ。上品には上品をだ!
親父からカップを受け取り、俺はあの子を探しに行く。途中、何故か泥だらけの人や衣服が濡れている人、袋が破けて中身がこぼれ落ちないように抱え歩く人などが多くいた。
なにこれ?
不思議に思いながらあの子を探すも、ふと視界に入った細い路地前の水溜りに足が止まる。
「これは……」
水溜りの中には小さな袋が落ちていた。それはさっきあの子が買っていったものだった。
「……ツキさん?」
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