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91.うるさいっす   

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「――zzz」


「はぁ!? こいつに居場吐かせなくていいって、どうでもいいってそりゃねぇって!」


「んなの俺に言われるほうが困るって。かしらからの伝言なんだから。もうすぐ来るみてぇだし文句があんなら自分で言えよな」


「あ、おい!!」


 ……ムム


 眉間に皺が寄る。人が気持ち良く寝ているというのに誰かがどこかで大きな声で怒鳴っている。


 ……ん~うるさいっす。寝てるんっすから邪魔しないで欲しいっす。


 そんなことを思っていると、コツコツ足音を立て誰かがこちらに近づいてくる。


「おい、どうしたんだよ?」


「それがかしらのやつ、コイツ捕まえたんならもう一人の晴天族の方は別にいらねぇって、情報吐かせなくていいからこいつに怪我させんなって……」


「は!? なんで!?」


 ムムムムム……


 ……うるさいっす。


 さっきまで遠かった声が今度は間近で聞こえた。そして、その声とは別の声がまた大きな声を上げ、眉間に皺が寄った。


 側に寝ている者がいるというのに二人も大きな声を出して全く迷惑甚だしいことだ。俺はこの煩い声達を遮断するため、毛布を手繰り寄せ、頭から被ろうと目をつぶったまま手を動かした。……けれど毛布が見つからない。


 ……あれー?


「知らねぇよ。伝令で来た奴がそう言ってただけなんだからよ」


「えー勘弁してくれよな……。魔樹擬マジュギん時もそうだったけど、なんでかしらはんなこいつにご執心なんだよ。俺こんなガキと遊ぶよりあっちの美少年君と遊びたかったのによぉ。もう買い手もついてんだろ? かしらはどうするつもりなんだよ……」


「だからそんなこと俺に言われても知らねぇって。使えるからとかなんとか言ってたけど恋は盲目とかそんなんじゃねぇの? 晴天族に関しては、前にかしらに取り戻せなかったらどうすんだって聞いてみたけど『キャンセルかな~』って軽く言ってだぞ。『というか買い手って誰だっけ?』って意味わかんねぇことも言ってたけど」


「はぁ!? かしら寝ぼけてんのかよ!? 大事な客のこと忘れんなよな! 晴天族なんて滅多にお目にかかれねぇレア中のレアな種族なんだぞ!? みすみす逃して大金逃す気かよ! あの美貌といいあれだけでも大枚叩く変態どもがいくらいるかわからねぇだろ!」


「まぁ確かにそうだけどよぉ……」 


「あ?」


「……zzz?」


 む、声のトーンが下がった。これは今のうちに寝られるか?


「……今更だけどよ、晴天族ってなんだよ。聞いたことあるか?」


「……俺はねぇぞ」


「俺もねぇんだよ……。じゃあ俺達ってその晴天族とかいうガキに会ったことあったか?」


「ねぇけど……」


「会った記憶ねぇのになんで容姿も知ってるんだっけ?」


「………………さぁ?」


「あとあのガキ、誰がどこで捕まえて報告して連れてきたかも知ってるか?」


「………………覚えてねぇなぁ」


「俺もそうなんだよな……。……なんかおかしくね? いつの間にか晴天族の情報とかガキの情報が頭には入ってんだけど、その経緯が一向に思い出せねぇんだよ」


「……………………そういえばそうだな」


「「…………」」


「……zzz」


 ……毛布、ないっすね。でも、声静かになったっすからもう大丈夫っすかね?


 よかったと思いつつも名残惜しくパタパタと近くを叩いて毛布を探した。全然見つからないのだ。一体どこに行ったのか……


「ま、まぁ詳しいことはいいじゃねぇか。俺は少しでもつまみ食いができりゃそれで――ッッて、おい!! こいつ起きてんじゃ――!」


「ビクッ!? もううるさいっす!!!!」


 また大きな声を出された。静かになったと思っていたのに急にそんな大きな声を出されたら驚いてしまうではないか。全くもう! と、俺は怒りながら毛布は諦め寝返りを打った。


「「…………」」


「zzz……モゾ……」


 ……んぅ~なんか寝にくいっす。


 うるさいと言ったからか声は静かになったが、今度は寝心地が悪くなってしまった。眠っていた脳が覚醒し出してきてしまったのだ。なんだか頭の左側面が痛い。いや、頭だけではなく横向きになった体にも何か小さなゴツゴツとしたものが刺さって痛い。


 ……なんかこのベッド硬いっすし冷たくないっすか? どうして……ああ、もしかして俺ベッドから落ちちゃったんっすかね? たまにやっちゃうんっすよね。ああ、だから毛布もないんっすね。……あれ? でも俺いつ寝たっすっけ?


「……」


 目を閉じたまま記憶を呼び起こす。確か姉さんに頼まれて街に出掛けぶらついていたら店員のお兄さんにお店の中に案内されて、その後アレを買ってるんるん気分でいたら変なことが起きて、それを見ていたら後ろから……あ、


「ここどこっすか!?!?」
 

「「ビクッ!?」」


 何があったか思い出せば今自分が寝ているところがベッドではなく、ましてやこの硬さと冷たさがただの床ではないことにも気がつく。


「え、誰っすか?」


 飛び起きてみれば、目の前には知らない男が二人いた。目の前といっても鉄格子を挟んでその向こうにだ。……ん? 鉄格子?


「なっ、なんすかこれ!?」


 握るとガシャンッとした音が鳴る。男達と自分を隔てるこれは紛れもない鉄格子だ。手を離し、きょろきょろと辺りを確認するよう見回すと、節くれだった岩肌の壁の、どこか薄暗い場所だった。地面も硬くてでこぼこしている。


 どうりで身体が痛いはずっす。


「ようお目覚めか? うるせぇ起き方だなァ?」


「そっちのせいっすよ!」


 地面に落としていた目をキッと睨むように前へと戻す。鉄格子の外にいる男達はせせら笑うように俺を見ていた。


 煩いとか言われたくないっす。さっきのそっちの会話の方が絶対煩かったっすし! なんかこっちを見下すように笑ってるっすけどさっき俺が飛び起きたのにビクッ! って驚いてたの俺知ってるんっすからね!! というなんで鉄格子なんっすか!? ……!!


 もしかしてと思い、もう一度周りをグルッと確認すると、さっきと同じ周りには壁しかなく、どこからも出る道がない。


「……もしかして俺閉じ込められてるっすか!?」


「今気づいたのかよ」


「遅っせぇな」


「寝起きなんっすから仕方がないんっす!」









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