不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

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50.弟

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 向けられる鋭い目と感じる緊張感に背筋が伸びる。息を呑み、ボスからの言葉を待った。


「ツキ」


「は、はいっすっ」


「そもそもお前はなんでそんなにもフレイのことを気に入ってんだ?」


「え?」


「弟だ後輩だとか言って異様にあいつを可愛がりすぎてないか?」


「……そうっすか?」


「ああ。俺は出会った時からあいつを怪しいっつってたんだぞ? ……いつものお前なら相応の警戒心を持ってフレイに自分から近寄ることはしないはずだ。そうでなくともお前、もともと人見知りだろ? 初めての奴にはだいたい誰かの後ろに張り付いて様子窺いつつ一歩引きながらジリジリ距離詰めていくタイプの癖に、フレイにだけはやけに自分から打ち解けにグイグイ行くよな? それも怪しいんだよ。こうやってお前より年下の奴を保護して一時組織に置くのなんて昔から何回もあったことだろ? ここにはフレイよりもさらにちっせぇチビどももいる。普段滅多なこと以外でそいつらには近付きもしねぇ癖に何でこうもフレイにだけ態度が違う」


「そ、それは……フレイ君なら俺の体質があっても大丈夫だって思ったからっす……」


「なんでそう思った」


「……それは……わからないっすけど、大丈夫だと思ったんっす」


 言葉で説明しろと言われてもそれはちょっと難しい。チラッとボスを見れば「話せ」「考えろ」オーラ滲み出ている。


 ……大丈夫だって思った理由はわからないっす。でも弟にするって思ったのはフレイ君俺より年下っすし、可愛いくて昔から……あ!


「わ、わかったっす! フレイ君を弟にしたいって思ったのは、弟みたいだって思うのは俺兄弟に憧れがあったからっすよ!」


 ピピン! っとしっくりきた答えにパッと顔を上げた。そして芋蔓式に、日に日にフレイ君と一緒にいることで感じる感動や嬉しさ愛おしさの理由がわかった。


 ボスは俺の言った言葉にピクリと片眉を動かす。


「憧れ? んなこと初めて聞いたぞ。それなら余計にフレイに固執する意味がわからねぇ。ここにいるチビどももお前にとっては弟みてぇなもんだろ? なら弟っつって引っ付くのはフレイじゃなくてもいいはずだ」


「そ、そんなのダメっすよ!」


 勢いよく首を横に振る。確かにここにはフレイ君に負けるも劣らない可愛いちびっ子達がいる。中にはまだよちよち歩きの子どももいるのだ。みんな一生懸命俺を見つけたら「ツキ! ツキ兄! 遊んで!」と元気よく駆けてきてくれる。


 だが、こんな体質を持つ俺なんかと一緒にいて、あの子達が怪我をしたり、酷い目にあったりしたらどうするのか。お喋りしたり遊んであげたいけれど俺なんかが近づけるわけがない。近づいていいはずがない。なのに……


 ……あの子達、俺を見かけたら絶対走ってくるんっすよー(泣)。すんっごく可愛いんっすよ!! 遊んであげたいんっすよ! でも、ダメなんっすよ。危ないんっすよ!


 もうほんっと可愛い子ども達。最近では腕輪のとれたフレイ君に尊敬の目を送っている姿をたまに見かける。フレイ君がそれに照れているのがまた可愛いく、それはとても癒される光景となっている。


「へ~、チビどもは怖いけどフレイなら大丈夫だって?」


「は、はいそうっす! なんでっすかね~? なんかフレイ君と一緒にいたらすっごく安心して大丈夫って思うんっすよ! あと初めて会った時なんかやっと会えたような気がしたんっすよね~」


「……なんだそれ」


 また、ボスの眼光が鋭くなり、ひくっと慌てた。


「っそ、その辺はよくわからないっすけど……たぶん俺、弟いたっすからこうなんかフレイ君にピピピンッ! って感じるものがあったのかもしれないっす!」


「!」


 うん、たぶんそう。きっとそうだ。自分で言っててなるほどと納得して頷いた。ボスがすっごく驚いた顔をしている。そう言えばボスには弟がいたことを言っていなかったかもしれない。あ、でも、これは言っておかなければならない。


「でもまぁフレイ君と俺じゃ全然似てないっすから血は絶対に繋がってないっすけどね!」


 だからあの、やっと会えたような感じは何かの気のせいだと思うが、何かしらの運命を俺はフレイ君に感じたのだ。


「……お前の兄弟の話なんて聞いたことねぇぞ。なんで話さなかった」


「うーん話したかったんっすけど俺何も弟のこと知らないっすからね」


「は?」


「いたって言ってもまだお腹の中だったんっすよ。だから生まれてなかったっすし、正直俺もどっちかはわからないっす」


「……」


「でもたぶん弟っす。子どもの勘で!」


「勘……」


 ボスが胡散臭そうな目で見てくる。ボスだってよく勘だというくせに。……不思議と、なんとなくわかるものなのだ。


「俺……昔すぎることはあんまり覚えてないっすけど、弟が産まれてくるのはすっごく楽しみにしてたのを覚えてるっす。……でも、産まれる前に両親と離れ離れになっちゃったっすから結局は会うことも見ることもできなかったんっすよね~」


 昔、母親のお腹に新しい命ができて、両親からもうすぐお兄ちゃんになると言われて、俺はすっごく喜び、毎日一人家の前で抱っこやおんぶの練習をし、母親のお腹に話しかけては会えることを楽しみにしていた。……でも、馬鹿な俺は両親と少し離れた街のお祭りに出かけた際、転んだ拍子に二人と繋いでいた手を離してしまい両親と逸れてしまったのだ。そこからどれだけ二人を探しても見つからなくて……


「……あちこち走り回ってたらなんか森みたいな所にいたんっすよね。そこからはボスにも話たと思うんっすけど奴隷狩りにあって……あ、言っとくっすけど直ぐに捕まったわけじゃなかったんっすよ?」


 森に入って直ぐに奴隷狩りには見つかったが、俺はすごく頑張って一週間は逃げ切って一人生き抜いていたのだ。


 四歳の子どもがっすよ? すごくないっすか? まぁ結局は捕まっちゃったっすけど。


「それで俺もフレイ君みたいに袋に入れられて、馬車に揺られて運ばれたんっすよ。あ、だから初めにそれでフレイ君のことが気になったのかもしれないっす!」


 俺の両親はおっちょこちょいな人だった。だって手が離れて転んで、でもすぐに顔を上げて立ち上がったのだ俺は。だけどもう二人とも何処にもいなかった。……きっと、何かに気を取られていて俺と手が離れたことにすら気づいていなかったのではないだろうか。だから俺と似たような状況だったフレイ君を見て、俺と逸れてしまった時のように、フレイ君も両親とはぐれてに捨てられてしまったのかもしれないと思ったのだ。


「……もし、無事に産まれてくれてるんならちょうどフレイ君くらいの歳になってると思うんっすよね~。それで、フレイ君は俺の弟像の理想なんっすよね!」


「理想……?」


「そうっす!」


 産まれてからずっと俺は両親や周りに迷惑をかけ続けていた。細かな傷だらけの両親の姿と、そんな両親が何度も誰かに頭を下げて謝っている姿を、そして俺を異物でも見るかのように見てくる周囲の人達の目を俺はよく覚えている。だからこそ、俺は幼い頃から誰かと遊ぶと言うことも友達ができたこともなくて、兄弟ができると知った時、すごく嬉しかったのだ。それは一人ぼっちになって、奴隷狩りから逃げてる時も、運ばれてる時も、飼われてボスと出会う前までずっと妄想し続けたほどに……。



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