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7.してもらったっす!
しおりを挟む「ふーやっと終わったっす……」
タライを片付け、洗い終わったお皿の山を前に、俺は腕の裾で額の汗を拭った。やり切った感満載だ。
もう腕が痛いっす。あの三人絶対に許さないっす。……でも、お土産買ってきてくれるって言ってたっすよね?
頭の中に色々な食べ物が浮かんだ。あの三人はたまにこうやって当番を押し付けてくることはあるけれど、必ず何かお土産を買って帰ってきてくれるのだ。それはお菓子だったりおつまみ系であったり、たまに虫か何かを乾燥、又は浸した食べ物だったりとその時々で違い、美味しかったり不味かったりとその美味しさもバラバラであれど、だからこそ待つ楽しみがあるというもの。
「……今日は何買ってきてくれるっすかね?ジュル」
想像して思わず涎が垂れそうになった。
この前のちっちゃなトゲトゲした甘い飴ちゃんはすっごく美味しかったっす。美味しすぎて隠してとっておいたらいつの間にか虫の餌になってたんっすよね……。
あの時は自分の部屋に置いていたらすぐに食べてしまうと思ってボスの部屋に隠しておいたら酷い目にあった。飴ちゃんは虫に食べられてみるも無惨な姿になり、大量の虫が発生した部屋にボスには拳骨をくらわされ説教されたりと暫く泣いて暮らしていた記憶がある。冬が終わったばかりということもあり、いけるだろうと思っての行動だったのだがダメだった。虫の活動が思ったよりも早く、飴ちゃんを見つけられるのも早かった。
「でも、あのあとボスと二人で焼いて作った飴ちゃんは美味しかったっすジュル」
危ない。また涎垂れが垂れるところだった。あまりにも悲しむからと、ボスが砂糖と水を入れて溶かし固めるという簡単なのを一つ、一緒に作ってくれたのだ。
ああ~早く三人帰ってこないっすかね~。お土産貰ったらあの時のお礼でボスと一緒に食べるっす!
初めの悲しさや怒りはどこへやら、三人の帰りが待ち遠しくなった。そんなうきうきとした気持ちを抱きながら視線を目の前のお皿へと戻す。メイン皿からスープ皿、野菜ボウル、その他小さなお皿から大きなお皿まで色々な皿の山が俺の前には並んでいる。
俺これ一人でよく頑張ったっす。だけど――
「……」
その場でじーっと睨むよう食器の山を眺める。洗ったのはいい。だか皿当番とは洗うまでが仕事ではなく棚に戻し片付け終えるまでが当番の仕事なのである。
「…………よしっす!」
気合いを入れ、積み上げたお皿を持ち上げた。
「うわっと! あ、危ないっす……」
グラッとお皿の山が揺れ、ガチャガチャとした音が鳴る。落ち着いた頃を見計らい、目の前にある棚へと鋭い視線をやった。
大丈夫。俺ならやれるっす!!
「行くっす!!」
「っいや待て! 皿戻すのそんな気合い入れてやるものじゃないっ」
「ん? レト兄どうしたんっすか?」
せっかく進もうとしたのにレト兄に行手を阻まれ止められた。
どっから湧いたっすか?
「どうしたじゃないって。ガチャガチャなんか音がすると思って来てみれば……お前それ絶対落とすだろ?」
「? 落とさないっすよ? 何言ってるんっすか?」
そのために気合いを入れたのだ。
「いや、気合い入れるだけで失敗しないのならなんの苦労もいらないからな?」
「…………?」
「……そんな不思議そうな顔をされても……。……まぁ、いい。これ棚に戻すんだろ? 俺がやってやるからとりあえずそれ下ろせ」
「え? 嫌っすよ。これは俺の仕事っすよ?」
皿を取られないようレト兄から皿を隠すように体の向きを変えた。ここまで一人で頑張ったのだ。
絶対に渡さないっす!
「……ツキ?」
「…………」
レト兄を警戒するように見つめる。そんな俺にレト兄は呆れた溜息を吐いた。
「……まぁやりたいならやればいいけど。じゃあ見ててやるから落として割って怪我するなよ?」
「当たり前っすよ!」
まるで言うことを聞かない子どもを見るような目にムッとした。
見てろっすよ!
プルプル……
「…………」
そっと棚まで移動し、ぷるぷると手が震えながらも慎重にゆっくりと俺は一枚一枚棚へと皿を戻していった。
ここで失敗したら笑われるっすっ。
「ぶっ! ツキ緊張しすぎっ。やっぱ俺も手伝おうか?」
「い、いらないっす! これは俺のっすから!!」
あと、今話しかけないでくださいっす!
見られる緊張に今にも手元が狂いそうだ。そうして、たまに飛んでくる野次に文句を返しながらも慎重に頑張ってお皿を片付けていった。その行程を積まれた皿山の数だけ繰り返し、全部の皿を戻し終えたところで俺の胸は達成感と感動に埋め尽くされた。
「や、やったっす! は、初めて一枚も割らずに終わることができたっす!!」
これはあとでボスに報告するべき事案っすよ!
「……初めてって。それでよく一人でやるって言ったな」
わーいわーいと腕を上げ喜ぶ俺を見て、レト兄は呆れた顔をする。
めっちゃ失礼っす!
「おいツキ、嬉しいのはわかったけどこんな所でそんなはしゃいでると……」
ガッ
「痛!?」
……ガラ……ガラガラガッシャンッ!!‼︎‼︎
「「え?」」
調理台の脚に自分の足の小指を打つけた。あまりの痛みに蹲り、悶絶しようとしたところで後ろから聞こえる何かが大量に割れる音。恐る恐る振り返れば……
「……なんでっすか!?」
さっき棚に戻した皿の半分ほどが落ちて割れていた。
小指ぶつけたの皿が置いてある棚じゃないっすよ? 床に固定されてる台っすよ!? なんで落ちるんっすか! ええ? 振動っすか?
「……やばいな」
「あぅぅ……これ俺のせいっすか?」
割れた皿山の前で愕然とする。そして目にじわじわと涙が溜まっていった。
「うぅ~……」
「……ツキ泣くなって。な?」
「で、でもぜっがぐでぎだっずのに……!」
レト兄が俺の肩を慰めるように叩く。だが、喜んだ分ショックも大きい。せっかくちゃんとできたのに。あと足痛い。
「おい、すげぇ音したぞ。……お前ら何してんだ? というかレトてめぇ何ツキを泣かしてんだよ」
「あ、ボス。いや、これ俺のせいなのか?」
「ボズ~! ボズ違うんっずよ? 俺ちゃんとできたんっす。なのに割れちゃったんっすよぉ!! じがも足いだいっずぅ!!」
「おっと」
部屋へと入ってきたボスのお腹へとしがみつき、俺は次々に指を差しながらボスへと説明した。それにボスは首を傾げ……
「ああ? ……んーあーなるほどな」
「え? ボス今のでわかったのか?」
「ああ? あれだろ。皿洗いやっててそれを初めて上手く戻せたのに台で足打ったら何故か後ろの棚から皿が崩れ落ちて半分も割っちまったんだろ?」
「ぞうっず!!」
「……流石ボス」
えんえんボスにしがみつきながら泣いていると、ボスは俺と目を合わせるようにしゃがみこんだ。
「ほら、んなことくらいで泣くな。足は大丈夫か?」
「ばい゛」
「ん。この前は戻す前に転けて割ってただろ? その前は洗った奴皿の上に重ねようとして割ってたし、一番初めなんてそこにいて皿持とうとした時点で割れてたじゃねぇか。ちょっとずつ皿を戻せるまで進歩(?)してんだからいいだろ。次は部屋出るまで気抜くなよ」
「ばい゛っず!」
ボス優しいっす!
その優しさにまた涙が出そうになる。でもそうだ。俺だって少しずつ成長しているのだ。
次こそは成功させてやるっす!
「……ツキ、一回お祓いしてもらった方がいいんじゃないか?」
「した」
「してもらったっす!」
「……そうか」
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