不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

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8.ギャ!?

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「「「ただいまー!」」」


「! お帰りなさいっす! お土産は!?」


 その日の夜、晩ご飯前に帰ってきた三馬鹿、モージーズーに駆け寄りすぐに俺は土産物を尋ねた。だが、側に寄るだけで臭う酒臭さに途中で足が止まってしまう。


 臭いっす!


 鼻を摘みながら今度こそ三人に近づけば、三人とも真っ赤な顔でベロンベロンに上機嫌に酔っ払っていた。


「おおツキ! 帰ったぞ!!」


「おうツキ! 今日は何枚皿割った?」


「全部か!!」


「割った前提で話を進めないでほしいっす!!」


「「「でも割っただろ?」」」


「……割ったっす」


 ……洗った皿の五割ほど。


「「「やっぱりか!」」」


「で、でも最後っすよ? 棚に戻したところで落ちちゃったんっすよ!」


 そう叫ぶももう三人は聞いておらずギャハギャハと笑いながら負けた勝ったと小銅貨一枚を取り出しはしゃいでいた。……ん? 小銅貨?


「!? 三人とも酷いっす! 俺で賭けてたっすね!? しかも賭け金安すぎるっす!!!」


「「「当たり前だろ?」」」


「だろじゃないっすよ!!」


 だって賭けにならないからと笑う三人に地団駄を踏む足が止まらない。


 小銅貨一枚で何が買えるんっすか!? なんも買えないっすよ! お小遣いにもならないっすよ! なら賭けなきゃいいっすのに!! というか割るのわかってんなら押し付けないでくださいっす!!!


「「「ギャハハハハハハ!!!」」」


「ギャハハじゃないっすって!!」


「あ、ほれお土産」


「え? ありがとうっす!」


 ピタリと笑うのをやめた三人。そのうちの一人が渡してくれた袋を喜んで受け取ればまた笑われる。


「「「ギャハハハ!!! 単純馬鹿!!」」」


「う、うるさいっすよ!」


 お土産を貰えばもう用はない! と、縛られた袋上部を握りしめ、酔っ払い達を放置して俺はこの建物の裏手にある訓練場まで走っていった。さっきそこで鍛錬しているボスを見たのだ。


「あれ? ボスー? ボスどこっすか?」


 だが外にはもう誰もいなくて家の中に戻ってきょろきょろとボスを探した。けれどその辺を歩いているわけではなさそうで、三階にあるボスの部屋か二階にある仕事部屋か、どちらを見に行こうかとその境にある階段で考えていたところに、書類を抱えたレト兄を見つけた。


「あ! レト兄、ボス見なかったっすか?」


「ん? ボス?」


「そうっす。モージーズーがお土産くれたんっすけどボスと一緒に食べようと思って探してるんす。どこに行ったっすか?」


 貰ったお土産袋を掲げて聞けば、すぐにレト兄は頷きボスの居場所を教えてくれる。


「ああ、あいつら帰って来たのか。ボスなら仕事部屋の方にいるぞ。……でもお前それ――」


「そうっすか! ありがとうっす!」


「あ、ツキ!」


「わかってるっす! ちゃんとちょっとにするっすから!」


 レト兄の横を通り過ぎ、全ては聞かずそう返事をして俺はボスの部屋へと駆けた。


 わかってるっすよレト兄。ご飯前だから程々にって言いたかったんっすよね! 大丈夫っす! わかってるっす!


「…………いや、食べるってなんか……動いてなかったかあの袋?」




 ――コンコンコン


「ボスいるっすか?」


「ああ。ちょっと待て。――入っていいぞ」


「……失礼するっす」


 ボスの仕事部屋の扉を叩き、許可が出たあと、俺はそーっと扉を開き中を覗き込んだ。

 
「なんだツキ?」


 ボスは椅子に腰掛けたまま、机に広げていた書類を手早く引き出しにしまうと俺に向かって手招きをする。その招きに応じてトコトコとボスの側まで行けば、俺はモージーズーから渡された土産袋を掲げた。


「ボス。これモージーズー達から貰ったっす。一緒に食べようっす」


「あいつらやっと帰ってきたのか。お前だけで食べねぇのか?」


「一緒に食べたいっす。……でもお仕事中っすか?」


 恐る恐る尋ねると、クスッとボスが笑う。


「大丈夫だ。ほらここに来い」


「! っはいっす!」


 ここと指さされたのはボスの膝の上。その上に喜んで駆けつけ、椅子にある肘掛けとボスが回してくれた左腕を背にするように、横向きに座った。


「ボス重くないっすか?」


「重くねぇよ。昔より肉はついてきたみてぇだがもっと肉をつけろ」


「ふはっ揉まないでほしいっす! 昔っていつの話っすか!」


 肉付きを確かめるようにお腹の肉を摘まられ笑いがもれる。そのまま視線を落とした先には引き出しから少しはみ出た紙が見えた。


「なんの書類見てたんっすか?」


「ああ、さっき捕まえたゴロツキ共の報告書だ」


「ゴロツキ? 山賊とか商人じゃなかったんっすか?」


「そうみてぇだな。あの荷馬車をある場所に運ぶだけで大金が貰えるっつって雇われただけの連中みてぇだぞ? 雇った奴はフード被っててどこの誰かわからねぇみてぇだし、そいつらが待ち合わせの場所だっつってた小屋に行ってもなんもなかったから上手いこと逃げられたな」


「……そうっすか」


 最近この地域では山賊による荒らしや誘拐被害などが相次いでおり、その背景には違法な奴隷商人が絡んでいるとボス達は考えていた。今回の任務の裏では、山賊達が攫った人達の奴隷商人への引き渡しの阻止及び情報を吐かせることを目的としていたのだが、攫った人達を運んでいた人物達はどうやらただその時のためだけに雇われた者達であり、なんの情報も持っていなかったよう。


「ったく、金がねぇからって簡単に奴隷売買に加担なんかすんなっつぅんだよ。荷馬車の中身なんかすぐになにかなんてわかんだろうが。捕まれば一発で自分達が犯罪奴隷に落とされるっつぅのに、最近の若者は何考えてんだかな」


「ボス……その言い方おっさんみたいっすよ?」


 捕まえた連中、ボスよりだいぶ年上だったと思うっすよ? その言い方モージーズー達とそっくりっす。


「誰がおっさんだ。あと今は二人っきりなんだから名前で呼べ」


「名前っすか?」


 やや見上げるように言えば、ボスにジトーっと見下ろされてしまう。


「お前普段全然呼ばねぇんだからこういう二人っきりで寛いでる時くらい名前で呼べよ」


「んー?」


 だってみんなボスって呼んでるのに俺だけ名前で呼ぶのって変じゃないっすか? それにボスって呼び方かっこいいっすのに。


「ほら呼んでみろ」


 そう思うが、ボスはすっごく呼んでほしそうだ。なら仕方ない。


「んー……ラック?」


「ふっよし、いい子だな」


「! ♪」


 名前を呼んだご褒美か、ボスに頭を撫でられた。その手に自分からもっともっとと喜んで擦り付けるように頭を上げる。


「ふはっ! お前は本当に可愛いな」


「?」


「ほらツキこっち向け」


「何っすか?」


 ボスに言われるがままボスを見上げると、ボスは目尻を和らげじっと俺を見つめる。


「ラック?」


 そんなボスを不思議に思いながらもじーっと眺め、「あれっす? なんか距離が……」と思っていると手に持っている袋が動いた。……。……ん? 動いた?


「……? !? ギャッ!? 本当に動いてるっす!!」


 ゴッ

「ぐッ!? ッづぅ~……」


「わっ! ボスごめんっす!!」


 つい上げてしまった袋を持つ拳がボスの頬骨辺りへと命中してしまった。謝りながらも、それでも手に持つ袋の方へと意識が奪われてしまう。だって何故今まで気付かなかったのかというほどモゾモゾ動いているのだ。


 ……これはもしかして虫系のナマモノっすか? 虫系はやめてくれって言ったっすのに……なんでナマの生きてる状態で持って帰ってくるんっすか!! これ食べられるんっすかね?


「……」


 上げた手を戻し考える。袋の中には何かが数匹は入っているようで蠢き合っている。これを食べるにしても調理法をあの三人に聞かなければならないが、聞いても食べる気が湧かない。


 ……中、何が入ってるんっすかね?


 そーっと前屈みに袋の紐と持つ手を緩め、中を恐る恐る覗き込んだ。すると顔面に向かって勢いよく何かが飛んできた。


「っツキ、てめぇっ」


「ギャッ!!」


 ゴンッ

「ッッ!? ~~」


「い゛っ!? ボ、ボスごめんっすっ」


 今度は、驚き顔を上げた瞬間思いっきりボスの顎を頭で殴打してしまった。声も出ない様子のボスにこれは不味いと膝から降り、距離を取った。頭が痛い。だが、顔に当たったグネッ? ネチョ? とした柔らかな感触が消えない。粘りも消えない。なんだこれは。


 一体何が飛んできたんっすか? ……ってあれ? 


「袋どこいったっすか?」


 いつの間にか手に持っていた袋が消えている。おかしいなと辺りを見回せばすぐ側の、部屋の真ん中辺りの床に落ちていた。


「なんっすかこれ……蛙?」


 袋に近づき、しゃがんでよく見てみれば、袋の上に小さな蛍光の黄緑っぽい一匹の蛙の姿がある。


「……」


 ……蛙……この蛙は食べたことないっすし見たことないっすね……。虫とかこれとはちょっと違う蛙は昔、どうしてもお腹が空いて食べちゃったり、三人のお土産とかで食べたことはあるっすけどこれは……。


 そのままじーっと蛙を見ていると蛙も目を逸らさずこちらをじっと見つめてくる。それになんだか目を逸らせば負けのような気がして、蛙と見つめ合った。


 ……なんかこうやって見てたら可愛いっすね。余計に食べられないっすよ。……ん?


 目の前の蛙を見つめていると視界で何かがぴょんぴょん跳ね回っていた。


「…………あ! しまったっす!」


 急いで袋を持ち上げ中身を確認するとそこにはもう何も入っておらず、部屋の中を何匹もの蛙がぴょんぴょん飛び回っていた。ボス愛用謙仮眠用ソファの上でもぴょんぴょん跳ねており、粘液を利用してか壁や天井に張り付いているものすらいる。


「ああ……ダメっすよ! 怒られるっすよ!」


 飛び回る蛙を捕まえようとするもすんでのところで避けられ転ぶ。上手いこと捕まえられたとしても……


「ギャッ!! やっぱなんか変な感触っす!!」


 グネなのかネチョなのか蛙を掴んだ時の感触に慣れずに手を離してしまう。


 どうしようっす。全然捕まえられないっす!


「~~もう!! やっぱりあの三人許さないっす!!」


 絶対これを楽しむためにわざとお土産を生きた蛙にしたっすよあの三人!! もう三人のニヤニヤ笑う顔が目に浮かぶようっす!!


「待ってくださいっす!!」


 そうして袋を片手に蛙を追いかけ回していると……


「…………っうるっせぇツキ!!!! てめぇほんといい加減にしろよ!?!?」


「いだっ!?」


 頭に落とされる拳骨。


 うぅ~ごめんなさいっす!


 ……その後、レト兄が晩ご飯に呼びに来るまでボスの説教は続き、蛙はいつの間にかそれぞれどこかへと旅立っていった。




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