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プロローグ

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 二人の姉弟の神が治める多種多様な種族が生き、暮らしている世界。そんな世界のとある国の北方に位置する場所にフォレスティア辺境伯が治める領地があった。


 代々と受け継がれるその地は、様々な山地山脈に囲まれた自然豊かな広い地であったが、その分魔物や猛獣などによる襲撃・被害が多い土地でもあった。だが、そんな有事の際には即領主自らが先頭に立ち対処に当たるなど、領民達と共に戦い悩み笑う、そんな精神を持った領主の元にある良政のしかれた地でもあった。そこに住まう者達も、人情味や活気に溢れた者達が多く、皆領主を慕い尊敬し、領主領民共に仲のいい平和な地だった。


 ……しかし、そんな平和な地も約十数年前、その時の領主の弟が欲に駆られ、地位の簒奪を企て領主夫婦を事故に見せかけ殺すことを成功させてしまったがために荒れに荒れることになってしまった。


ーー


 ……痛いっす!


 隠れた茂みの小枝に髪が絡まってしまう。急げ急げと解き、乱れてしまった髪を後ろに結び直せばピョンっと首元辺りで跳ねる自分の茶髪。パッと顔を上げるとボス達が位置についている。


 急がないとっす!


 俺は気配を消しつつコソコソと四つん這いで切りだつ崖の上に佇むボスの隣へと移動した。そして、崖下を覗き込む。


 まだ暗さが残る明け方。起伏や石が多く、道と呼ぶには忌避されるであろう岩肌の多い山中を二台の荷馬車がまるで人目を避けるかのように走っていた。その周囲には荷馬車を護衛するかのような数人のガタイのいい男達もいる。


「――あれだな」


 そんな言葉に隣に立つボスを見上げた。ボスは野生味滲む様相の中にどこか気品もある整った顔立ちの男前だ。肩下ほどの闇には染まりきらない濃紺の髪は結んで前へと流している。そして、まだ十九歳と若いながらに貫禄ある立ち姿でそこに佇み、その金の眼はまるで獲物を見定めるかのように眼下を走る荷馬車を見下ろしていた。


「準備はいいかてめぇら」


「「「「おう!!!」」」」


 ボスが後ろにいる仲間達へと声をかける。筋骨隆々な仲間達はニヤリとした笑みを浮かべ、やる気満々だ。高まっていくその場の士気に、自ずと気合が入るというもの。


 今日こそは上手くやるっす!


 ふんす! と鼻息荒く意気込み、俺も尊敬するボスの役に立つためにと、ボスと同じく焦茶の自分の目をキリリと尖らせ、標的を見定めようとグッと崖上から身を乗り出した瞬間――


 ピシッ! 


 嫌な音が響いた。


 ガラッ

「あ」


「は?」


「「「「「え? ……あ」」」」」


 俺達がいた崖が崩れ、下へと落ちていく。――そして、バッチリ合う俺とボスの目。


「っツキ!! てめぇ何でここにいる!!」


「うわぁぁあん!! ボスごめんなさいっす!!」


「「「「「ギャャャァァアーーーー!!!」」」」」


 そうして俺達は荷馬車の元へと落ちていった……。



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