不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

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1.シクシクシク……(泣)

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 シクシク


 酷いっす……。


「……おい。酷いのはてめぇだ。何でここにいんだお前?」


 夜の暗さが残っていた空も綺麗に晴れていい天気だ。なのに目の前にいる鬼はゴゴゴッと音が立ちそうなほどの暗雲をその背に背負っている。そして仁王立ちに正座する俺を見下ろしてくるのだ。


 男前の分迫力あって怖いっす……。


「シクシクシクシクシク……」


「誰が怖いだ。俺を褒め称えんのはいいが質問に答えろ!」


「シクシクシクシク……」


 ……答えろと言われてもボスの役に立ちたくて内緒でついて来ただけっす……。


「内緒でついて来んな!」


「シクシクシクシク……!」


 っだってボスが俺を置いて行くっすから! そんな怒らなくてもいいじゃないっすか!


「この状況見て怒らねぇほうがどうかしてんだろうが!」


「っ!? ちょっ! さっきから一言も話してないのに思考を読んで返事してくるのやめてほしいっす! 怖いんっすけど!?」


「てめぇがわかりやすすぎんだよ!!」


「ごめんなさいっす!!」


 ザッとおでこを擦りむく勢いで土下座した。


 うぅ……本当に擦ったっす。痛いっす……。


 シクシクとまた涙を流した。


 崖から落ちた先で始まったボスからのお説教。本当はアジトでお留守番のはずがさっきの出来事でコッソリとついて来ているのがバレてしまってこの状況。


 ……グスン……留守番しとけよって言われたのについて来ちゃっすから、俺が全面的に悪いのはわかってるっす……。わかってるっすけどっ――


「俺だってボスの役に立ちたかったんっずよ!」


「はぁぁ……役に立ちたいっつってもお前、その不幸体質どうにかしてから言えよ……」


「ぞんなのどうにかできるならとっぐにしてるっずよぉ‼︎」


 呆れたように言うボスに俺はそんな無茶なと泣き崩れた。


 ……昔からの生まれ持った体質。どうにかできるのならばとっくにしている。どうにかできないからこそのこの状況なのだ。今日みたいに崖の上にいれば足場が崩れたり、滑ったり、下にいればやっぱり崩れてきたりなんか落ちてきたり。普通に生活をしていても色々な物が飛んできたり落ちてきたりするしで俺だって大変なのだ。ほんと、歩けば穴にハマって転ぶし石に躓いて転ぶしで大変な体質なのだから無茶言わないでほしい。


 これらは決してドジだからではない。ドジだけなら転んだ先で何かの糞にダイブしたり、魔物の巣に突っ込んだりはしない。不幸体質とはドジを超えて問題が起きることを言うのだ。そして、この不幸体質のせいで俺は両親に街中に忘れ去られ、そのまま流れで奴隷狩りに捕まり、奴隷として買われた先でなんやかんやあって最終的には存在を忘れ去られ孤独死ギリギリまで行ったほどだ。


 ……だが、ここで終わるのならまだいい。全て自分だけで完結しているから。俺のこの体質の本当に恐ろしいのはここからなのだ。……俺の不幸体質は昔から自分だけではなく、周りをも巻き込む。だから今日みたいに崖からみんなで落ちるし、俺もボスの仲間の一員なのに全然ボスの役に立てないし、邪魔って言われて置いてけぼりばかりになる。せっかく今日こそはと意気込んだのにやっぱりボスに怒られた。……無念。


 シクシクシクシクシク……


 引き続き、涙を流し悲しんでいると……


「まぁまぁ、ボス落ち着けよ。そんな体質のことをいったらツキが可哀想だろ?」


 焦茶髪の男、俺達の仲間の一人でボスの右腕的存在押し付けられ役のレト兄が仲裁に入ってきてくれた。


 …………神っす!!


 顔を上げて、俺はキラキラとした目で救世主レト兄を見つめた。そんな俺を嫌なものを見る目で見てくるボスは本当に酷い人だと思う。


「……邪魔すんなレト。これで何回目だよ。毎回こんな締まらねぇ登場の仕方してたら舐められんだろ」


「はは……まぁそうだな」


 ボスの言葉にあらぬ方向を向いてしまうレト兄。


 ああ~レト兄負けないでほしいっす。ここでレト兄が負けちゃったらまだまだ説教が続いちゃうっすよ!!


 手を組み、レト兄の勝利を願った。だいたい締まらない登場というのなら戦闘の最中からこうして俺を正座させ、説教しているボスの方こそ人のこと言えないと思うのだ。


「ああ?」


「な、なんでもないっす」


 危ないっす。また心読まれかけたっす!!


「コホンッま、まぁこうして目的は達成できたんだからいいだろ? それにほら? ツキのお陰で隙はつけたわけだしな?」


 俺の心の声が届いたのか、レト兄は気を取り直したかのようにボスに向き直し俺を擁護してくれた。


 流石レト兄っす!!


 レト兄が向く視線の先にはさっき俺達が襲った荷馬車の御者や警護していた男達が縄で縛られていた。そして、その男達が率いていた荷馬車の中からはボロボロの衣服を纏い、怯えた様子の人や獣人、鳥人族の人達が出てくる。


 今日の俺達、『狼絆ろうばんの傭兵団』の任務は攫われた近辺の村人の保護とその輸送犯達の捕縛。レト兄の言う通り当初の予定とはちょっと違う形での襲撃となってしまったが、計画通り保護と捕縛はできたし、もともとはあの崖の上から襲撃をかける予定だったのだ。それが自発的に降りたか偶発的に落ちてしまうことになったかだけの違いなのだから許してほしい。


 いや、許してくださいっす!!!






 
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