不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

タッター

文字の大きさ
上 下
2 / 150

1.シクシクシク……(泣)

しおりを挟む


 シクシク


 酷いっす……。


「……おい。酷いのはてめぇだ。何でここにいんだお前?」


 夜の暗さが残っていた空も綺麗に晴れていい天気だ。なのに目の前にいる鬼はゴゴゴッと音が立ちそうなほどの暗雲をその背に背負っている。そして仁王立ちに正座する俺を見下ろしてくるのだ。


 男前の分迫力あって怖いっす……。


「シクシクシクシクシク……」


「誰が怖いだ。俺を褒め称えんのはいいが質問に答えろ!」


「シクシクシクシク……」


 ……答えろと言われてもボスの役に立ちたくて内緒でついて来ただけっす……。


「内緒でついて来んな!」


「シクシクシクシク……!」


 っだってボスが俺を置いて行くっすから! そんな怒らなくてもいいじゃないっすか!


「この状況見て怒らねぇほうがどうかしてんだろうが!」


「っ!? ちょっ! さっきから一言も話してないのに思考を読んで返事してくるのやめてほしいっす! 怖いんっすけど!?」


「てめぇがわかりやすすぎんだよ!!」


「ごめんなさいっす!!」


 ザッとおでこを擦りむく勢いで土下座した。


 うぅ……本当に擦ったっす。痛いっす……。


 シクシクとまた涙を流した。


 崖から落ちた先で始まったボスからのお説教。本当はアジトでお留守番のはずがさっきの出来事でコッソリとついて来ているのがバレてしまってこの状況。


 ……グスン……留守番しとけよって言われたのについて来ちゃっすから、俺が全面的に悪いのはわかってるっす……。わかってるっすけどっ――


「俺だってボスの役に立ちたかったんっずよ!」


「はぁぁ……役に立ちたいっつってもお前、その不幸体質どうにかしてから言えよ……」


「ぞんなのどうにかできるならとっぐにしてるっずよぉ‼︎」


 呆れたように言うボスに俺はそんな無茶なと泣き崩れた。


 ……昔からの生まれ持った体質。どうにかできるのならばとっくにしている。どうにかできないからこそのこの状況なのだ。今日みたいに崖の上にいれば足場が崩れたり、滑ったり、下にいればやっぱり崩れてきたりなんか落ちてきたり。普通に生活をしていても色々な物が飛んできたり落ちてきたりするしで俺だって大変なのだ。ほんと、歩けば穴にハマって転ぶし石に躓いて転ぶしで大変な体質なのだから無茶言わないでほしい。


 これらは決してドジだからではない。ドジだけなら転んだ先で何かの糞にダイブしたり、魔物の巣に突っ込んだりはしない。不幸体質とはドジを超えて問題が起きることを言うのだ。そして、この不幸体質のせいで俺は両親に街中に忘れ去られ、そのまま流れで奴隷狩りに捕まり、奴隷として買われた先でなんやかんやあって最終的には存在を忘れ去られ孤独死ギリギリまで行ったほどだ。


 ……だが、ここで終わるのならまだいい。全て自分だけで完結しているから。俺のこの体質の本当に恐ろしいのはここからなのだ。……俺の不幸体質は昔から自分だけではなく、周りをも巻き込む。だから今日みたいに崖からみんなで落ちるし、俺もボスの仲間の一員なのに全然ボスの役に立てないし、邪魔って言われて置いてけぼりばかりになる。せっかく今日こそはと意気込んだのにやっぱりボスに怒られた。……無念。


 シクシクシクシクシク……


 引き続き、涙を流し悲しんでいると……


「まぁまぁ、ボス落ち着けよ。そんな体質のことをいったらツキが可哀想だろ?」


 焦茶髪の男、俺達の仲間の一人でボスの右腕的存在押し付けられ役のレト兄が仲裁に入ってきてくれた。


 …………神っす!!


 顔を上げて、俺はキラキラとした目で救世主レト兄を見つめた。そんな俺を嫌なものを見る目で見てくるボスは本当に酷い人だと思う。


「……邪魔すんなレト。これで何回目だよ。毎回こんな締まらねぇ登場の仕方してたら舐められんだろ」


「はは……まぁそうだな」


 ボスの言葉にあらぬ方向を向いてしまうレト兄。


 ああ~レト兄負けないでほしいっす。ここでレト兄が負けちゃったらまだまだ説教が続いちゃうっすよ!!


 手を組み、レト兄の勝利を願った。だいたい締まらない登場というのなら戦闘の最中からこうして俺を正座させ、説教しているボスの方こそ人のこと言えないと思うのだ。


「ああ?」


「な、なんでもないっす」


 危ないっす。また心読まれかけたっす!!


「コホンッま、まぁこうして目的は達成できたんだからいいだろ? それにほら? ツキのお陰で隙はつけたわけだしな?」


 俺の心の声が届いたのか、レト兄は気を取り直したかのようにボスに向き直し俺を擁護してくれた。


 流石レト兄っす!!


 レト兄が向く視線の先にはさっき俺達が襲った荷馬車の御者や警護していた男達が縄で縛られていた。そして、その男達が率いていた荷馬車の中からはボロボロの衣服を纏い、怯えた様子の人や獣人、鳥人族の人達が出てくる。


 今日の俺達、『狼絆ろうばんの傭兵団』の任務は攫われた近辺の村人の保護とその輸送犯達の捕縛。レト兄の言う通り当初の予定とはちょっと違う形での襲撃となってしまったが、計画通り保護と捕縛はできたし、もともとはあの崖の上から襲撃をかける予定だったのだ。それが自発的に降りたか偶発的に落ちてしまうことになったかだけの違いなのだから許してほしい。


 いや、許してくださいっす!!!






 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。

カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。 異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。 ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。 そして、コスプレと思っていた男性は……。

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する

SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので) ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

【完結】元騎士は相棒の元剣闘士となんでも屋さん営業中

きよひ
BL
 ここはドラゴンや魔獣が住み、冒険者や魔術師が職業として存在する世界。  カズユキはある国のある領のある街で「なんでも屋」を営んでいた。  家庭教師に家業の手伝い、貴族の護衛に魔獣退治もなんでもござれ。  そんなある日、相棒のコウが気絶したオッドアイの少年、ミナトを連れて帰ってくる。  この話は、お互い想い合いながらも10年間硬直状態だったふたりが、純真な少年との関わりや事件によって動き出す物語。 ※コウ(黒髪長髪/褐色肌/青目/超高身長/無口美形)×カズユキ(金髪短髪/色白/赤目/高身長/美形)←ミナト(赤髪ベリーショート/金と黒のオッドアイ/細身で元気な15歳) ※受けのカズユキは性に奔放な設定のため、攻めのコウ以外との体の関係を仄めかす表現があります。 ※同性婚が認められている世界観です。

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

BLR15【完結】ある日指輪を拾ったら、国を救った英雄の強面騎士団長と一緒に暮らすことになりました

厘/りん
BL
 ナルン王国の下町に暮らす ルカ。 この国は一部の人だけに使える魔法が神様から贈られる。ルカはその一人で武器や防具、アクセサリーに『加護』を付けて売って生活をしていた。 ある日、配達の為に下町を歩いていたら指輪が落ちていた。見覚えのある指輪だったので届けに行くと…。 国を救った英雄(強面の可愛い物好き)と出生に秘密ありの痩せた青年のお話。 ☆英雄騎士 現在28歳    ルカ 現在18歳 ☆第11回BL小説大賞 21位   皆様のおかげで、奨励賞をいただきました。ありがとう御座いました。    

【完結】僕はキミ専属の魔力付与能力者

みやこ嬢
BL
【2025/01/24 完結、ファンタジーBL】 リアンはウラガヌス伯爵家の養い子。魔力がないという理由で貴族教育を受けさせてもらえないまま18の成人を迎えた。伯爵家の兄妹に良いように使われてきたリアンにとって唯一安らげる場所は月に数度訪れる孤児院だけ。その孤児院でたまに会う友人『サイ』と一緒に子どもたちと遊んでいる間は嫌なことを全て忘れられた。 ある日、リアンに魔力付与能力があることが判明する。能力を見抜いた魔法省職員ドロテアがウラガヌス伯爵家にリアンの今後について話に行くが、何故か軟禁されてしまう。ウラガヌス伯爵はリアンの能力を利用して高位貴族に娘を嫁がせようと画策していた。 そして見合いの日、リアンは初めて孤児院以外の場所で友人『サイ』に出会う。彼はレイディエーレ侯爵家の跡取り息子サイラスだったのだ。明らかな身分の違いや彼を騙す片棒を担いだ負い目からサイラスを拒絶してしまうリアン。 「君とは対等な友人だと思っていた」 素直になれない魔力付与能力者リアンと、無自覚なままリアンをそばに置こうとするサイラス。両片想い状態の二人が様々な障害を乗り越えて幸せを掴むまでの物語です。 【独占欲強め侯爵家跡取り×ワケあり魔力付与能力者】 * * * 2024/11/15 一瞬ホトラン入ってました。感謝!

処理中です...