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マーサの独白2

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 意外だったのは、プリシラの姉エスメラルダもベルニ子爵夫妻に怒りを持ったようだ。

 マーサはエスメラルダの事を、使用人を人間とも思わない根っからの貴族だと思っていた。だが本当は、感情を表に出す事が不器用な妹思いの女の子だった。

 エスメラルダは高い魔力を見込まれ魔法学校に入学する事になった。その前日の夜、エスメラルダがマーサの部屋をたずねて来た。貴族の令嬢が使用人の部屋にやってくるのは前代未聞だった。だがマーサはエスメラルダの目的がわかるような気がした。

「マーサ。こんな事を言ったら貴女はわたくしを調子のいい人間だとけいべつするかもしれません。だけど、それを承知でお願いします。わたくしが屋敷を出て行った後、どうかプリシラを守ってください」

 エスメラルダは大きな美しい瞳をうるませて、必死にお願いをした。エスメラルダは心から妹のプリシラを愛しているのだ。

 マーサはしゃがみこんで、エスメラルダと同じ視線になって答えた。

「もちろんでございます、エスメラルダお嬢さま。プリシラお嬢さまのような心優しい方をないがしろにするなど、いくらご主人さまと奥さまでもあってはならない事です。よくぞ今までプリシラお嬢さまをお守りくださいました。プリシラお嬢さまの事はわたくしどもにお任せください」

 マーサの言葉に、エスメラルダはくしゃりと顔をゆがめた。マーサとエスメラルダはプリシラを守るために協定を結んだのだ。

 マーサは、プリシラの日常的の生活を手紙にして、エスメラルダに送った。プリシラが修道院に送られそうになった時も、マーサはすぐさまエスメラルダに報告した。

 エスメラルダはかねてより、プリシラを召喚士養成学校に入れたいと言っていた。そのためには高額な入学金と学費が必要になる。マーサは執事であるロナルドに相談した。

 ロナルドもマーサと同じように古くからベルニ子爵家につかえる使用人だった。表情をまるで表に出さない男だったが、プリシラの事は自分の孫のように可愛がっていた。

 ロナルドは実直な働きで、ベルニ子爵に信頼されていたので、財産目録を改ざんして、プリシラの入学金や学費をベルニ子爵夫人のドレスと宝石代として書き換える事にした。

 事実ベルニ子爵夫人の散財は目にあまるもので、プリシラの学費を抜いても目立たないほどだった。

 ベルニ子爵はプリシラの保護者欄のサインもしぶったので、便宜上プリシラはロナルドの息子夫婦の養女にする事にした。

 エスメラルダとマーサとロナルドたちが力をあわせて、プリシラを召喚士養成学校に入学させる事に成功したのだ。

 

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