最恐魔女の姉に溺愛されている追放令嬢はどん底から成り上がる

盛平

文字の大きさ
上 下
170 / 175

マーサの独白

しおりを挟む
 マーサは玄関に響き渡るどなり声に顔をしかめた。夕方上機嫌で社交界に出かけて行った主人であるベルニ子爵夫人のご機嫌が悪いようだ。

 マーサは心の中で舌打ちしながら、表面時上は無表情を作り、主人たちを迎えに出た。

「旦那さま、奥さまお帰りなさいませ」

 ベルニ子爵はみけんにしわを寄せながら、はおっていたコートを乱暴に使用人に投げつけた。最近入ったメイドのマッジはもたもたしながらベルニ子爵夫人の毛皮のコートを脱がそうとして、身につけている装飾品に引っかけてしまった。

「痛い!」

 たいして痛くもないだろうに、子爵夫人はヒステリックに叫ぶと、マッジの頬を引っ叩いた。小柄なマッジは床に尻もちをついてしまった。

「奥さま、もうしわけございません。この者には後できつく言っておきます」

 マーサは素早く夫人のコートを脱がすと、夫人の後に続いた。背後ではマッジのすすり泣きが聞こえた。

 マーサはベルニ子爵家につかえて五十年になる。母がベルニ子爵家のメイドとしてお屋敷に住み込んでいたため、マーサも同じ道を歩む事になった。

 使用人とは主人に忠誠を誓うものだ。たとえつかえる主人が愚か者であってもだ。先代のベルニ子爵は立派な方だった。だが後を継いだ一人息子は、見栄っ張りの愚か者だった。

 妻にした女性も、貴族である事をはなにかけ、平民であるマーサたちを人間とは思っていないようだった。

 だがそんなベルニ子爵夫婦にも幸せがおとずれた。子供を授かったからだ。長女はエスメラルダという黒髪で黒い瞳の、とても美しい女の子だった。

 次に生まれたのがプリシラという女の子。亜麻色の髪をしてこはく色の瞳をした可愛い女の子だった。

 二人の女の子が生まれてからベルニ子爵家は幸せに包まれた。長女のエスメラルダは気難しくちっとも笑わない女の子だった。次女のプリシラは、まるで天使が地上に舞い降りたかのような天真爛漫な女の子だった。

 プリシラは使用人にも親切で優しかった。とても頭の良い子で、使用人たちの名前をすべて覚えて、いつも名前で呼んでくれた。

 鈴の鳴るような可憐な声で、マーサさんと呼ばれると、思わず顔がほころんでしまい、プリシラをギュッと抱きしめたくなってしまう。

 だがマーサは平民でプリシラは貴族なのだ。気安くプリシラに触れてはいけないのだ。

 天使のようなプリシラのおかげでマーサは幸せだった。だがそのささやかな幸せは突然終わりを迎えた。

 エレメント契約を行ったプリシラが、風のエレメントとだけしか契約できなかったのだ。ベルニ子爵は手のひらを返したようにプリシラに見向きもしなくなった。

 マーサは信じられなかった。プリシラは風のエレメントとしか契約できなかったとしても、とても優しく可愛い女の子なのに。

 マーサはこの時初めてベルニ子爵夫妻を恨んだ。ベルニ子爵夫妻に恨みを持ったのはマーサだけではない。ベルニ子爵家の使用人たちは皆プリシラの事を心から愛していたのだ。

 

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~

さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。 全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。 ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。 これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。

転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。

みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい! だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

処理中です...