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デムーロとリベリオ

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 リベリオが自室でぼんやりと物思いにふけっていると、部屋のドアを誰かが乱暴に叩いた。驚いてイスから立ち上がると、入室の許可もしていないのにガチャリとドアが開いた。中に入って来たのは父であるデムーロ伯爵だった。

「どうしたんですか?父上」

 リベリオは嫌な顔を隠さず言った。また小言を言われると思ったからだ。デムーロ伯爵はツカツカとリベリオの前に歩み寄ると、リベリオの両腕をガッと掴んで叫んだ。

「リベリオ!私はダニエラと一緒になる事に決めた!」
「それはようございました。俺も父上の愛する人を歓迎しますよ?」

 リベリオはホッとした。プリシラが探してくれた母の日記が功を奏して、父の気持ちに変化が起きたのだ。デムーロ伯爵は真顔で言った。

「いいや、ダニエラを屋敷に連れてくるのではない。私が出て行くのだ」
「?。そう申しますと?」
「リベリオ!デムーロ伯爵家をお前に託してよいか?」

 リベリオは父の言葉に一瞬ぼう然としてから、ゲラゲラと笑い出した。

「あはは!面白いですね?!惚れた女のために、地位も名誉も捨てるのですか?実に面白い!いいじゃないですか父上。俺は貴方の事を、何の面白みのない人間だといつも思っておりました。ですがその考えは撤回いたします。父上はとても無鉄砲の考えなして、面白い人だ!いいでしょう。伯爵家の事は俺が適当にやっておきます」
「そうか、適当か。私はこれまでお前のいい加減さが、ほとほと嫌いだった。だが肩の力を抜いて適当にやる事が良いのかもしれないな」

 父と息子は初めて楽しげに笑った。リベリオは父に親しげに口を聞いた。

「やぁ、恋をしている父上はとても楽しそうだ。俺も愉快な恋がしたいものです」
「女遊びもたいがいにしろよ?ああ、だがプリシラは駄目だぞ?彼女はとても素晴らしい女性だ。お前のようなろくでなしには相応しくない」
「まるでプリシラの父親のような口ぶりですね?父上」
「ああ、プリシラにはとても世話になった。わずかな間だったが、私はプリシラの事を娘のように思うようになったのだ。彼女には幸せになってほしいのだ」
「おや、父上。プリシラが俺の妻になれば、プリシラは貴方の娘になるんですよ?」
「むっ?!い、いやそれでも駄目だ!お前のような女ったらしと一緒になったらプリシラが不幸になる」
「ならば俺が、生涯プリシラだけを愛すと誓ったならばどうですか?」

 父は息子を驚いた表情で見つめていた。リベリオ自身も驚いていた。プリシラを生涯愛する。言葉に出してみて、しっくりとくるものがあった。これまで感じていた心のもやか晴れたような気持ちになった。

 そうなのだ。リベリオはプリシラを心から愛しているのだ。自分の気持ちに気づき、リベリオは笑った。父もつられて楽しそうに笑った。
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