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ダニエラの気持ち

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 ダニエラは今週の花が届くのを今か今かと待ち続けていた。花を贈ってくれるのは、愛しい愛しい相手。

 この国の貴族、デムーロ伯爵だ。市井の民であるダニエラが何故伯爵から花を受け取る事になったのか。ダニエラはデムーロ伯爵がまだ爵位を継ぐ以前の恋人だったのだ。

 デムーロ伯爵は元々次男で、伯爵家は兄が継ぐはずだった。ダニエラはその当時デムーロ伯爵家のメイドをしていた。ダニエラはデムーロ伯爵家の次男イヴァンから手紙を受け取った。そこには切々と愛の言葉が記されていた。

 最初ダニエラはイヴァンの手紙を、貴族の火遊びだと考え、無視をした。だが手紙はそれからも続き、イヴァンの誠実な人柄を知ると、ダニエラも貴族の子息であるイヴァンに恋をした。

 イヴァンは貴族らしくない気さくな青年だった。ダニエラとイヴァンは結婚の約束をした。それはダニエラを貴族の妻とするのではなく、イヴァンが貴族の身分を捨てるという選択だった。

 ダニエラは貴族のイヴァンではなく、人としてのイヴァンに恋をしていたので、その申し出を受け入れた。だが状況が変わった。

 跡を継ぐはずだった兄が事故死してしまったのだ。そのためイヴァンがデムーロ伯爵家を継がなければいけなくなった。

 イヴァンは泣きながらダニエラに言った。

「私はこれから兄の許嫁と結婚する。だが生涯愛するのは、ダニエラそなただけだ」

 ダニエラは伯爵家を出て、一人村で暮らす事になった。一人で暮らすようになると、デムーロ伯爵家の使用人が、生活に必要な高価な家財道具を持ってやって来た。

 おそらくイヴァンが、ダニエラが生活に困らないようにと命じたものなのだろう。ダニエラはイヴァンからの最後の贈り物を丁重に断った。

 やがてイヴァンが結婚し、デムーロ伯爵家を継いだ事を知った。それから十数年の歳月が経った。

 風のうわさで、デムーロ伯爵の妻が病死した事を聞いた。ダニエラは少しだけ期待していたのだ。愛しいイヴァンが自分を迎えに来てくれるかもしれないと。

 だがイヴァンはやって来なかった。代わりにデムーロ伯爵家の使用人が、またもや高価な生活用品を持ってやって来た。

 ダニエラはその時も受け取りを拒否した。イヴァンはとても自分に厳しい人だった。ダニエラに二度と会わないと宣言した通り、この世では二度と会えないのかもしれない。

 優しいイヴァンの事だ。結婚して妻の事を深く愛するようになったのかもしれない。亡くなっても妻の事を深く愛しているのかもしれない。

 ダニエラはイヴァンの事を思い、毎日泣いて過ごしていると、小さな男の子が一輪の花を持ってやって来た。トビーという可愛い子だ。トビーはある人からダニエラに花を贈ってくれと頼まれた。だけど相手の事は絶対に話してはいけないと言われている、と。

 ダニエラはトビーをお茶に招くと、お菓子を食べさせてそれとなく会話をした。トビーは無邪気な子供なので、ちょっと話しを振ると、ダニエラの耳元に口を寄せて、小声で言った。

「おばちゃん、内緒だぜ?この花はなぁ、なんと貴族のおじちゃんがよこしたんだぜ?」

 やはり花の贈り主はイヴァンだったのだ。ダニエラはイヴァンからの贈り物を喜んで受け取った。

 イヴァンからの花の贈り物は半年ほど続いていた。トビーともすっかり仲良くなった。花の届かない週は、風が強かったり、雨が降っていたりしていたのでトビーがやって来られないのだ。次の週には、二輪の花をたずさえてトビーはやって来た。

 そんなある日、プリシラという美しい女性が花を届けにやって来た。プリシラはトビーの後輩だという。彼女は見た目の美しさだけではなく、とても綺麗な心の持ち主だった。ダニエラはすぐに彼女と友達になった。

 ダニエラがプリシラに刺繍をしたハンカチをプレゼンすると、彼女はこんな事を言った。自分の会社の社長も刺繍のハンカチが欲しいから、仕事の依頼として受けてほしいと。

 ダニエラは直感した。これはイヴァンがダニエラのハンカチを求めているのではないかと。

 ダニエラはイヴァンにだけわかるように、水色のハンカチに白いアマリリスを刺繍してプレゼントした。

 プリシラは、ハンカチを受け取った相手はとても喜んでいたと話してくれた。あのハンカチは、プリシラの言葉通り社長が受け取ったのか、それとも愛しいイヴァンが受け取ったのかわからなかった。

 答えを知る事ができないもどかしさに、ダニエラはヤキモキした。
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