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「地元の友達も連れていきます。みんなこんな感じの私服なんでさすがに今度こそビビると思います」



北村が大真面目に言ったので、俺はつい、状況も忘れて噴き出してしまった。



「ほんと……なんなんだよその服……っ、俺だって怖かったよ。今時そんなの東京に売ってないだろ」



アハハ、と笑っていると、なぜか急に瞼が熱くなり涙がこみ上げてきた。

気が抜けた途端、今更ながら安堵感とショックが襲ってきたのかもしれない。

敦と三年間も付き合っていて、最初の数カ月は楽しかった時もあった。

その想い出だけは相手への憎しみで穢さないようにしようと思い、守っていた。

それなのに今はそれすら二度と思い出したくない。終わってみれば最初から最後まで最低最悪の恋になってしまった。



後輩の前でみっともなく泣きださないようにと顔を背ける。



「篠崎さん」



ふわりと温かい感触がして、北村に抱きしめられたのだと分かった。

そうすると、ブワッと涙が溢れ出てきてもう止められなくなってしまった。



「うっ……、ごめ……」



そのまましばらく北村の胸に抱き着いて泣いていた。



「やっぱり、頭粉砕しとけばよかった。いや、それじゃ足りないな。やっぱり東京湾に……」



ボソボソと物騒な呟きが頭上から降ってきて顔を上げると、北村が親指の腹で俺の濡れた目元を優しく拭う。

その温かい指先の温度にまた涙が溢れてくるが、北村はその度にずっと優しく拭ってくれていた。



どれだけ泣いていただろう。一年前、騙されたと分かったときはあまりのショックに涙が出なかった。

その時の失恋の痛みが今、全部流れ出たような気がした。

目が腫れ上がり、ひどく不細工な顔になっていると思う。



「なあ北村」



散々泣いたせいで声もダミ声だ。



「やっぱり今日……抱いてくれないか?」



北村はひどく驚いた顔をした。



「……いいんですか?」

「ああ。いつも見たく優しく抱いて欲しい。あと……キスして欲しい。それから、舐めさせて。北村の」



最後の方はさすがに恥ずかしくて小さな声になってしまった。

北村の返事はない。

怖くなって顔を上げると、不意に肩を思い切り掴まれてキスをされた。

俺が苦しくならない程度に口内を蹂躙し、少し切羽つまったような声で言った。



「優しく出来るように最善の努力をします。だから、あんまり煽らないで下さいね」

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