色地獄 〜会津藩士の美少年が男娼に身を落として〜 18禁 BL時代小説【完結】

丸井マロ

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第1章 川上屋

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「それでは、行ってまいります」

 旅支度をした氷見ひみ 仙千代せんちよは、礼儀正しく頭を下げた。

 まだ十四歳、前髪立ちの少年である。

「必ず迎えに行く、待っててくれ」

 長谷川はせがわ 蔵人くらうどの言葉に、仙千代は悲しい笑みを浮かべた。

 ──かなわぬ夢など見させないでくれ。

 蔵人はすでに元服した大人の武士とはいえ、まだ弱冠二十歳。

 自由になる銭は少なく、今後もよほどの大出世でもしない限り、仙千代を身請けするのは夢のまた夢だ。

 しかし、仙千代は「待っている」とうなずいて見せた。

 もう一度、蔵人の姿を目に焼き付けると、仙千代は背を向けた。

 ──振り返るのはやめよう。

 蔵人の顔を見ると別れの辛さばかりが募る上、涙を見せたくなかったからだ。

 仙千代は、会津西街道を歩いて江戸へ向かった。

 彼の父、氷見ひみ 恭介きょうすけは会津藩の大目付だった。

 武骨で不器用だった父は、派閥争いに巻き込まれ、上手く立ち回ることが出来なかった。

 その結果、家中にいらぬ波風を立てたとして、ひとり責任を押し付けられ、切腹に追い込まれたのは、今から一年前、仙千代が十三歳の時だった。

 一族連座、お家断絶こそはまぬがれたものの、三千石あった知行は召し上げられ、遺族に与えられたのは、わずか五石の捨て扶持のみ。

 母は金銭に換えられる物はすべて売り払い、針仕事や傘張りなどの内職を請け負いながら、三人の子供──仙千代、その兄、そして妹を、なんとか養っていた。

 そんな爪に火を灯すような生活の中、母が病に倒れたのは、三月みつきほど前のこと。

 兄が金策に奔走し、親戚に頼み込んで借りた金で医者を呼び、薬を飲ませたものの、その甲斐もなく、母は息を引き取った。

 遺された兄妹は、親戚の家に身を寄せることになった。

 しかし、その親戚も、武家としての体面を保つだけで精いっぱいで、台所は火の車だった。

 そのため、三人も面倒は見られない、一番下の妹を江戸に奉公に出してはどうかとすすめられた。

 仙千代たちは、この親戚に、母を医者に診せたり薬を買うために借金をしていたことから立場が弱く、その申し出を断ることは出来なかった。

 彼に出来るのは、せめて妹の身代わりとして、次男である自分が奉公に出ることだけだった。

 当時、幕府が人身売買を禁じていた為、表向きは年季奉公という形を取っていたが、実質的な身売りである。

 仙千代は十四歳で、江戸芳町の蔭間茶屋、「川上屋」に売り飛ばされた。

 平安時代から戦国時代にかけて、寺院や武家社会で発展した男色──衆道は、江戸時代になると庶民の間でも大流行。

 芳町の花街には、少年たちが春をひさぐ売春宿──蔭間茶屋が軒を連ねていた。

 この時代、周旋屋に売られるのは女ばかりではなく、とくに武家の少年は躾や教育がきちんと施されていることから高値で売買されていた。

 芳町に売られてくる男娼の中には、貧しい武家の次男三男も少なからずいた。

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