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6巻
6-3
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素材が足りないから今すぐには無理だけど、マジックバッグ一個自体は半日あれば作れるんだって。さすがライゾウさんだなあ。
マジックバッグの形は、『アーミーズ』が使っているようなリュック型に決まった。私はごく一般的な形のリュックだけど、『アーミーズ』が使っているリュックは軍隊が使っているような、ポケットが多い多機能リュックなのだ。
実物を見たスヴェンさんが背負ったまま動き、動きをまったく阻害しないことから気に入ったようだ。
タンネ組以外の冒険者たちも「欲しい!」と言い出したけど、それは当面の厄介事が片付いてからと言われて頷いている。
同じリュックが必要かライゾウさんに聞かれたけど、私は遠慮した。私のは【無限収納】になっているし、アントス様が丈夫にしてくれているから、必要ない。
今後の動きについてある程度決まったので、今度はポーションの納品日を決める。
納品日は、材料採取から帰って来てから、冒険者の分は一週間後、そして国の分はさらにその二週間後にした。それなりに数が多いから、余裕を持って作りたいよね。
そして騎士団の分に関しては中止になった。冒険者が動くので、通常の量で充分だと判断されたのだ。
そういった事情もあり、ポーションができ次第、『蒼き槍』と『ブラック・オウル』がタンネに出発。タンネにいるAランク、またはBランク冒険者に声をかけたあと、中級と初級に分かれてダンジョンを攻略するんだそうだ。
もし未だに差別があるようなら、領主と一緒にギルドマスターも交代させるらしい。
「言われたことを守らないのが悪いのですから」
「そうだな。以前から話しておったしな」
「そうでございますね。まあ、ちょうどいいのではないでしょうか。そろそろ引退させるつもりでおりましたし」
「よし、領主の選定を急ごう」
「かしこまりました」
王様と宰相様が物騒な話をしてる。
うわあ……。やっぱ怖いよね、国とか貴族って。
二人の話は聞かなかったことにして、冒険者の話に聞き入った。
話し合ったことを紙に書き、纏めていたスヴェンさんが顔を上げる。
「よし。こんなもんか?」
「ああ」
「質問や不満はあるか? 変えるなら今のうちだぞ?」
周囲を見回したヘルマンさんとスヴェンさん。だけど、誰もなにも言わない。
「……よし。じゃあ、これで提出する」
もう一度どのパーティーがどこのダンジョンで採取するか、そしてどこのダンジョンを攻略するか確認する。特に不満もないようで、全員が頷いていた。
そして、ポーションも一チームの数としては、私が作ったハイパー系と万能薬を百本ずつ、神酒を十本ずつ配ることに。
他にも国側が、別の薬師のポーションとハイ系を一人二十本ずつ配ると言っている。
かなり多くのポーションを持っていくんだなとビックリしたんだけど、これで、普通の冒険者が実質いつもダンジョンに潜るときに持っていく数よりも少し多い、って程度になるらしい。今この場にいる冒険者たちはとても優秀だから、ケガをすることも少なく、ポーションの消費量も少ないのだ。それに、私の作るハイパー系は一口飲めば傷が治る。他の薬師が救ったポーションで同様の効果を得るには、何本か飲まなきゃいけないんだって。だから本数が多いのか。
なるほど~。そういう話を聞くと、いかに自分がチートなのかと溜息をつきたくなる。神様に感謝しているけど、それとこれとは別問題。
アントス様のバカーーー!
それはそれとして。国に納品したポーションはこの場にいる冒険者に配ったあと、残りをそれぞれの領地の冒険者に配るんだそうだ。各領地でダンジョンを確認して対応してもらうためにね。
タンネほどではないにしろ、攻略が遅れているところがあるから。
領主がその地にいるSランクやAランクに依頼することになるだろうと、王様と宰相様が言っていたけど、グレイさんもやるんだろうね。頑張ってほしいな。
「ポーションに関してだが、俺たちはリンがいるから、他のチームに多く配分してくれ」
ポーションの配分について相談する中で、エアハルトさんが提案した。
「うちにもミユキがいるし、少なくて大丈夫だ」
「いいのか?」
「「いいよな、リン」」
「いいですよ。私は現地調達で作ろうと思えば作れますし」
「そんな簡単にできるもんじゃないだろうに」
「できます。すっごく修行して、職人としてのランクも高いですから」
それだけ伝えると、魔力だけで作れるとわかった人が息を呑んでいた。
「おいおいおい、リンはどれだけの修行をしたんだよ……」
「それはもう、師匠がとても厳しい人でしたからね……残念な人ではありますけど」
「あ~、前も言っていたな」
本当に残念な神様だもんね、アントス様は。
「そのくせ、ポーション作りに関してはとても厳しい人でしたから、数年でできるようになりました」
「そ、そうか」
実際は数時間でできるようになったけど、そんなことは言えないので数年だと言った。だけどよっぽど私が変な顔をしてたんだろう……可哀想な子! って顔で見られてしまった。ぐぬぬ。
話し合いも終わり、議事録というか証拠というか、話し合って決まったことを書いた紙にもう一度目を通したあと、宰相様に提出するヘルマンさんとスヴェンさん。宰相様は確認をしたあと、王様に渡していた。
それを見た王様がひとつ頷く。
「ご苦労であった。他言無用だ、重々頼む」
『御意』
返事をしてからおじぎをする冒険者のみなさんと私。そして結界が消され、王様たちが退室すると、私たちも王宮をあとにする。
王宮を出ても、誰もなにも言わない。話しても各ダンジョンの情報やダンジョン内にいる魔物の攻略方法についてなどだ。
特に特別ダンジョンについてはみんな知りたがっていて、六階以降はどんな魔物が出るのかを攻略した人々に聞いている。もちろんそれらの情報はギルドに渡しているから、基本的なことはみんな知っていると思う。
だけど直接戦った経験者がいるんだから、彼らから聞きたいというのはとてもわかる。生きた情報が大事だって知っているんだろう。
本当にすごい人たちばかりだよね。
西地区だけじゃなくて他の地区に住んでいるSランク冒険者もいることから、辻馬車乗り場で別れる。
手を振って別れ、それぞれの拠点近くに帰ってきた。
第二章 薬草採取
西地区に帰ってきたはいいものの、お昼近くまで話し合いをしていたからご飯を食べていない。お腹がすいた……と思ったときには、キュルル~と鳴ってしまった。
うう……恥ずかしい!
「ははっ! 途中でなにか食べていくか」
「それはようございますね!」
「わたくしもお腹が……あっ」
「ナディ嬢もこの通りですし、どこかに寄っていきましょう、エアハルト様」
「ああ、そうしよう」
お腹を鳴らした私とナディさんのために、エアハルトさんとアレクさんがどこかで食事をしようとお店を探してくれる。全員従魔たちがいるから、入れるところは限られてくる。
どうしようか……と思っていたところで目に入ったのは、『ポルポ焼き』の文字。
「あ、エアハルトさん、ポルポ焼きはどうですか? ここなら拠点に持って帰って食べられますよ?」
「ん? お、あのときのか!」
「エアハルト様がお土産にとくださったものですよね? とても美味しゅうございました」
「ええ、兄様のお土産はとても美味しかったですわ。わたくしもポルポ焼きがいいですわ!」
アレクさんとナディさんも賛成してくれた。
ポルポ焼きを食べることになり、みんなでのぼりが出ているお店に行くと、そこにいたのは、以前屋台をしていたお兄さんたちだった。
「お兄さんたち、こんにちは。お久しぶりです!」
私が声をかけると焼いている手を止めるお兄さんたち。私とエアハルトさんを認識すると、目をみはったあと破顔した。
「ん? おお、あのときのお嬢ちゃんと兄ちゃんやないか!」
「えらい久しぶりやなあ! 元気にしとったか?」
「元気でしたよ~! ここにお店を出したんですね」
「おお! つい先日出したばかりでなあ」
「買うてくれへんか?」
「「「「もちろん!」」」」
四人一斉に返事をすると、お兄さんたちが笑った。安心していられるのも今のうちだけだよ~?
そこから注文ラッシュでした!
エアハルトさんがララさんたちのお土産込みで十個、アレクさんとナディさんが五個。私は二十個。もちろん全員、従魔たちや眷属たちの分を含めての数だ。
それを聞いたお兄さんたちの顔が引きつっていた。
「ははは! 相変わらず豪快やなあ、お嬢ちゃんは!」
「おおきに! 頑張って作るで!」
「ちょっと待っとき」
「すぐに作るさかい」
少しストックがあったけどそれでも足りないからと、どんどんポルポ焼きを作り始めるお兄さんたち。タネを鉄板に入れるとじゅわっと音がして、表面が焼けてくるといい匂いが漂ってくる。
タネの状態を見てポルポを入れ、包み込むようにくるくるまあるくしていくお兄さんたち。その作業を見ているだけで楽しい。
あ~、この匂い、本当に懐かしいなあ。お好み焼きもそうだけど、粉モンが焼ける匂いってたまんないよね。それはこの世界も同じみたいで、匂いにつられてお客さんが覗きに来ている。
そしてくるくると回す作業を見ていた子どもたちが楽しそうにはしゃぎ、大人たちがちらほらと並び始めたころには、私たちの分が焼き上がる。
おお~、早い! そして今回もおまけをくれました!
「たくさん買こうてくれたからサービスや」
「わ~! ありがとうございます!」
「また来てな!」
場所を覚えたから、何度でも来るよ! そのうちお好み焼きも食べたいなあ……と思いつつ、拠点に戻る。
全員でアツアツのポルポ焼きを堪能していると、ダンジョンと私のポーション作りの話に。
「リン、王宮で言っていたのは……」
「もしかして、リンは魔力だけで作れますの?」
アレクさんとナディさんが尋ねてくる。
「はい、作れます。ご飯を食べたら、目の前で作りますね」
「あと、ナディ嬢にもリンの話をしたいのです。よろしいですか?」
「いいですよ。ただし、他言無用です」
「まあ……どのようなお話なのかしら」
とてもわくわくしたような顔をしたナディさんだけど、ロキとレンによって厳重な結界が張られると怪訝そうな顔になり、私がこの世界に来た〝渡り人〟だということとその経緯を聞くと絶句してしまった。そしてとても痛ましそうな顔までされてしまう。
そんな顔をしなくていいんだよ、ナディさん。今はとっても楽しいんだから。
「今はみなさんと出会えて、とっても楽しいんです。だからそんな顔をしないでくださいね?」
「わかりましたわ、リン」
ちょっとしんみりしちゃったけど、本当に今は楽しいことばかりだ。もちろんつらいこともあったし悲しいこともあったけど、出会った人たちがいい人ばかりで本当に助かっている。
ま、まあロクデナシもいたけどね!
みんなでわいわいと食事したあと、一旦自宅に帰って薬草を持って戻る。これから三人に魔力だけでポーションを作るのを見せるのだ。
「これがハイポーションの材料で、こっちがハイMPポーションの材料です」
テーブルの上に薬草と砂を分けて置き、まずはハイポーション、次にハイMPポーションを作る。手をかざしてあっという間に三十本ずつポーションが出来上がった。
もちろん、瓶にはお店のロゴ入りだ。
呆気なく、しかも簡単に作ったように見えたみたいで、三人があんぐりと口を開けている。まあ、実際簡単に作ったよ? 神酒やハイパー系、万能薬に比べたら、魔力はそんなに必要ないしね。
ハイ系に必要な魔力なんて、一回につき五百くらいだし。
そんなことを説明したら、絶句されてしまった。
「「「……」」」
「神酒に比べたら材料はとても少ないですし、必要な魔力も少ないですね」
「……ちなみに、神酒で使う魔力はどれくらいだ?」
「一回につき五千くらいだったかな? 渡り人特典というわけではないんですけど、魔力量の上限は魔神族の王族並みにあると、アントス様に言われています」
「どんだけあるんだよ!」
「王族並み、ですか……」
「それは規格外としか言いようがありませんわよ? リン」
いや~、それほどでも。じゃなくて。
この世界に来たとき、元々カンストなんてしてなかったんだよ、魔力に関しては。体力は魔力の半分以下かな?
だけど、ここ最近アントス様のところで何回も魔力がなくなるまでポーションを作り続けてた結果、魔力がカンストしてしまった。しかも、「もうじき限界突破するね♪」なんてアントス様に言われて、顔が引きつったのは言うまでもない。
さすがにその話はできないから、王族並みと誤魔化したけどね!
「ま、まあこんな感じで素材と薬草さえあれば、どこでも作れますから。なので、安心して攻略できますよ~」
「そういう問題ではないんだがな。だが、ポーションの数の心配をしなくていいのは助かる」
「そうでございますね」
「けれど、無茶はいけませんわよ? アレク様も兄様も」
ナディさんの言葉を受けて、わかっている、と頷くエアハルトさんとアレクさん。
いくらポーションの数を心配しなくていいとは言っても、薬草には限りがある。特別ダンジョンのように、全種類の薬草や内臓の素材が採取できるなら話は別だけど、上級北ダンジョンはそうじゃない。
できるだけたくさん用意して、ポーションもある程度作って持っていくつもりではいるが、いつか足りなくなるのは間違いない。幸い、『フライハイト』も『アーミーズ』もヒール系の属性魔法を使える人が複数いるから、回復魔法と併用していかないとね。
そんな話をしていると、あっという間に夜になる。晩ご飯をご馳走になってから自宅に帰ってきた。
みんなで特別ダンジョンに行くまでに休みが一回あったので、アントス様の元へと訪ねた。今回は一週間のお泊りをしてから地上に戻ることになっている。神様の領域だから時間の流れが違うとはいっても長いよね。
一週間で作る目標は各種十万本。
おおう……女神酒で魔力をかさ増しするにしても、そんなにできるんだろうか。
「大丈夫、十万本ずつできるまで地上に戻さないから♪」
「はあっ!?」
「だってダンジョンに潜るんでしょう? その間作れない分を含めての数だから、頑張って作ってね♪」
「鬼か!」
残念な神様のくせに! こういうところは容赦ないんだよね、アントス様って。
それにしても、今回に限ってはいつもと違う。なんだか焦っているようだ。
だけど、なんで焦っているんだろう? あとで聞いてみよう。
「あ、そうだ。先日、王宮に呼ばれて依頼を受けましたよ。あと、王様と宰相様と騎士団長さんに、渡り人であることを話しました」
他にもエアハルトさんと恋人になった話をすると、アントス様は安堵した顔をして、私の頭を撫でる。
「そう……本当に話したんだね。まあ、リンを護るためには必要なことだしねぇ。あの王太子だと不安でしょうがないけれど、現在の王と宰相なら安心かな」
「ですよね~」
神酒を作りながら話をするんだけど、一回につき十本しか作れないっていうのは痛い。だけどちゃっちゃと作らないといつまでたっても終わらないので、アントス様に薬草や砂を目の前に出してもらい、私が作るという流れ作業をしていた。
それにしても……最初にアントス様からスタンピードの話を聞いたときは、私しか知っている人がいなくて不安しかなかったけど、冒険者仲間と話し合いをしてからは最初に言われたときほどの不安はない。やっぱり相談できる人がいると違うし、みんながいれば大丈夫な気がする。
私の魔力がなくなった時点で休憩し、女神酒を飲む。
もうね……十本も飲むとお腹がタプタプになるしトイレも近くなるんだよね。
まあそうまでして、一日がかりで三万本だから、どれだけ神酒を作るのが大変かわかる。一番時間がかかる神酒さえ数を揃えてしまえば、あとはどうにでもなるので頑張りますよ~。
そんなこんなで、結局神酒とエリクサーをそれぞれ十万本を、十日がかりで作った。
「ご苦労様。ダンジョンから帰ってきたら、またやろうね」
「……ハイ」
アントス様によると各種百万本、しかも二種類のレベルのものを作らないといけないのでまだまだ先は長い。
なんでも、アントス様の神託を受け、五大陸のうち四つの大陸にある国々はそれぞれ対策をし始めたという。問題は北大陸の国々で、まったく動いていないとアントス様が愚痴る。
焦っている理由はそれかなあ……なんて考えていたら、アントス様が物騒なことを言い出した。
「あの大陸の人間――特に、召喚ばかりしていたいくつかの国の王族と住民は、一度滅ぼさないとダメですかねぇ」
「はい?」
「神の神託を無視するなんて、いい度胸だと思わない? 神罰が下っても文句は言えないよねぇ」
真っ黒い笑みを浮かべて物騒なことを呟くアントス様。
……うん、私は聞かなかったことにした。
地上に戻してもらい、自宅へ帰る。本来ならば採取に行かないといけないんだけど、精神的に疲れてしまった。
だけど、行かないと明日以降店で売るためのポーションの素材がなくなる可能性があるので、準備をしてから特別ダンジョンに向かった。
あと五日営業すれば、みんなで薬草採取に行く日にちになる。Aランク以下の冒険者たちはいつも通りに過ごしているし不穏な話も聞こえてこないので、王宮に呼ばれた冒険者たちはしっかり口を噤んでいるんだろう。
そして薬草採取をする日。今日から五日間、みっちり採取をしますよ~。
「よし。じゃあ手筈通りに頼む」
ヘルマンさんの言葉を受けておう! と元気よく返事をした冒険者のみなさん。どのみちみんな北にあるふたつのダンジョン……特別ダンジョンと上級北ダンジョンに向かうので、街道の分岐点まで一緒に行動する。
私たち薬草採取チームとイビルバイパー狩りチームは特別ダンジョンへと向かう。まずは第三階層に行かないといけないイビルバイパーチームが先行。それを見送ったあと、私たちも行動を開始した。
第一階層だとギルドで依頼を受けている人がいると困るし、あれこれ詮索されても嫌なので、できるだけ彼らがいない第二階層へと降りる階段付近で採取をすることにした。
『フライハイト』と『アーミーズ』は薬草の種類がわかっているから単独で、私とラズ、両親はその他のパーティーの冒険者たちに知らない薬草を教えながらセーフティーエリアを目指す。
「ラズ、本当に一人で大丈夫?」
〈大丈夫。できればスミレとリュイに一緒に来てほしいけど……〉
〈ラズト一緒ニイク〉
《ボクもー》
「ありがとう。ちゃんと教えるんだよ?」
〈うん!〉
「みなさんもよろしくお願いします」
「おう、任せておけ!」
スミレ、空を飛べるグリフォンのリュイがラズに指名されて、喜んで頷いている。一緒に行く冒険者パーティーにもしっかりお願いし、そこで分かれた。
薬草チーム全員の集合時間はお昼だ。夜が明ける前に王都を出発したから、六時間ほど余裕がある。
といっても、採取しながら階段付近のセーフティーエリアに行くとなると、結局はそれくらいの時間がかかってしまうんだけどね。
「リンちゃん、頼むな」
「はい。どの薬草がわからないんですか?」
「名前のところに丸が付いている五種類だな」
一緒に採取しているみなさんは薬草の勉強になると喜んでいる。生のままでも使える薬草があるから、知っていて損はないと思ったみたい。特に傷や毒に効く薬草は食いつきが半端なかった。
ポーションがなくなったあと地上に戻るまでの間に合わせとはいえ、薬草があるのとないのとでは生存率がまったく違うと教えてくれた。なるほど~。
マジックバッグの形は、『アーミーズ』が使っているようなリュック型に決まった。私はごく一般的な形のリュックだけど、『アーミーズ』が使っているリュックは軍隊が使っているような、ポケットが多い多機能リュックなのだ。
実物を見たスヴェンさんが背負ったまま動き、動きをまったく阻害しないことから気に入ったようだ。
タンネ組以外の冒険者たちも「欲しい!」と言い出したけど、それは当面の厄介事が片付いてからと言われて頷いている。
同じリュックが必要かライゾウさんに聞かれたけど、私は遠慮した。私のは【無限収納】になっているし、アントス様が丈夫にしてくれているから、必要ない。
今後の動きについてある程度決まったので、今度はポーションの納品日を決める。
納品日は、材料採取から帰って来てから、冒険者の分は一週間後、そして国の分はさらにその二週間後にした。それなりに数が多いから、余裕を持って作りたいよね。
そして騎士団の分に関しては中止になった。冒険者が動くので、通常の量で充分だと判断されたのだ。
そういった事情もあり、ポーションができ次第、『蒼き槍』と『ブラック・オウル』がタンネに出発。タンネにいるAランク、またはBランク冒険者に声をかけたあと、中級と初級に分かれてダンジョンを攻略するんだそうだ。
もし未だに差別があるようなら、領主と一緒にギルドマスターも交代させるらしい。
「言われたことを守らないのが悪いのですから」
「そうだな。以前から話しておったしな」
「そうでございますね。まあ、ちょうどいいのではないでしょうか。そろそろ引退させるつもりでおりましたし」
「よし、領主の選定を急ごう」
「かしこまりました」
王様と宰相様が物騒な話をしてる。
うわあ……。やっぱ怖いよね、国とか貴族って。
二人の話は聞かなかったことにして、冒険者の話に聞き入った。
話し合ったことを紙に書き、纏めていたスヴェンさんが顔を上げる。
「よし。こんなもんか?」
「ああ」
「質問や不満はあるか? 変えるなら今のうちだぞ?」
周囲を見回したヘルマンさんとスヴェンさん。だけど、誰もなにも言わない。
「……よし。じゃあ、これで提出する」
もう一度どのパーティーがどこのダンジョンで採取するか、そしてどこのダンジョンを攻略するか確認する。特に不満もないようで、全員が頷いていた。
そして、ポーションも一チームの数としては、私が作ったハイパー系と万能薬を百本ずつ、神酒を十本ずつ配ることに。
他にも国側が、別の薬師のポーションとハイ系を一人二十本ずつ配ると言っている。
かなり多くのポーションを持っていくんだなとビックリしたんだけど、これで、普通の冒険者が実質いつもダンジョンに潜るときに持っていく数よりも少し多い、って程度になるらしい。今この場にいる冒険者たちはとても優秀だから、ケガをすることも少なく、ポーションの消費量も少ないのだ。それに、私の作るハイパー系は一口飲めば傷が治る。他の薬師が救ったポーションで同様の効果を得るには、何本か飲まなきゃいけないんだって。だから本数が多いのか。
なるほど~。そういう話を聞くと、いかに自分がチートなのかと溜息をつきたくなる。神様に感謝しているけど、それとこれとは別問題。
アントス様のバカーーー!
それはそれとして。国に納品したポーションはこの場にいる冒険者に配ったあと、残りをそれぞれの領地の冒険者に配るんだそうだ。各領地でダンジョンを確認して対応してもらうためにね。
タンネほどではないにしろ、攻略が遅れているところがあるから。
領主がその地にいるSランクやAランクに依頼することになるだろうと、王様と宰相様が言っていたけど、グレイさんもやるんだろうね。頑張ってほしいな。
「ポーションに関してだが、俺たちはリンがいるから、他のチームに多く配分してくれ」
ポーションの配分について相談する中で、エアハルトさんが提案した。
「うちにもミユキがいるし、少なくて大丈夫だ」
「いいのか?」
「「いいよな、リン」」
「いいですよ。私は現地調達で作ろうと思えば作れますし」
「そんな簡単にできるもんじゃないだろうに」
「できます。すっごく修行して、職人としてのランクも高いですから」
それだけ伝えると、魔力だけで作れるとわかった人が息を呑んでいた。
「おいおいおい、リンはどれだけの修行をしたんだよ……」
「それはもう、師匠がとても厳しい人でしたからね……残念な人ではありますけど」
「あ~、前も言っていたな」
本当に残念な神様だもんね、アントス様は。
「そのくせ、ポーション作りに関してはとても厳しい人でしたから、数年でできるようになりました」
「そ、そうか」
実際は数時間でできるようになったけど、そんなことは言えないので数年だと言った。だけどよっぽど私が変な顔をしてたんだろう……可哀想な子! って顔で見られてしまった。ぐぬぬ。
話し合いも終わり、議事録というか証拠というか、話し合って決まったことを書いた紙にもう一度目を通したあと、宰相様に提出するヘルマンさんとスヴェンさん。宰相様は確認をしたあと、王様に渡していた。
それを見た王様がひとつ頷く。
「ご苦労であった。他言無用だ、重々頼む」
『御意』
返事をしてからおじぎをする冒険者のみなさんと私。そして結界が消され、王様たちが退室すると、私たちも王宮をあとにする。
王宮を出ても、誰もなにも言わない。話しても各ダンジョンの情報やダンジョン内にいる魔物の攻略方法についてなどだ。
特に特別ダンジョンについてはみんな知りたがっていて、六階以降はどんな魔物が出るのかを攻略した人々に聞いている。もちろんそれらの情報はギルドに渡しているから、基本的なことはみんな知っていると思う。
だけど直接戦った経験者がいるんだから、彼らから聞きたいというのはとてもわかる。生きた情報が大事だって知っているんだろう。
本当にすごい人たちばかりだよね。
西地区だけじゃなくて他の地区に住んでいるSランク冒険者もいることから、辻馬車乗り場で別れる。
手を振って別れ、それぞれの拠点近くに帰ってきた。
第二章 薬草採取
西地区に帰ってきたはいいものの、お昼近くまで話し合いをしていたからご飯を食べていない。お腹がすいた……と思ったときには、キュルル~と鳴ってしまった。
うう……恥ずかしい!
「ははっ! 途中でなにか食べていくか」
「それはようございますね!」
「わたくしもお腹が……あっ」
「ナディ嬢もこの通りですし、どこかに寄っていきましょう、エアハルト様」
「ああ、そうしよう」
お腹を鳴らした私とナディさんのために、エアハルトさんとアレクさんがどこかで食事をしようとお店を探してくれる。全員従魔たちがいるから、入れるところは限られてくる。
どうしようか……と思っていたところで目に入ったのは、『ポルポ焼き』の文字。
「あ、エアハルトさん、ポルポ焼きはどうですか? ここなら拠点に持って帰って食べられますよ?」
「ん? お、あのときのか!」
「エアハルト様がお土産にとくださったものですよね? とても美味しゅうございました」
「ええ、兄様のお土産はとても美味しかったですわ。わたくしもポルポ焼きがいいですわ!」
アレクさんとナディさんも賛成してくれた。
ポルポ焼きを食べることになり、みんなでのぼりが出ているお店に行くと、そこにいたのは、以前屋台をしていたお兄さんたちだった。
「お兄さんたち、こんにちは。お久しぶりです!」
私が声をかけると焼いている手を止めるお兄さんたち。私とエアハルトさんを認識すると、目をみはったあと破顔した。
「ん? おお、あのときのお嬢ちゃんと兄ちゃんやないか!」
「えらい久しぶりやなあ! 元気にしとったか?」
「元気でしたよ~! ここにお店を出したんですね」
「おお! つい先日出したばかりでなあ」
「買うてくれへんか?」
「「「「もちろん!」」」」
四人一斉に返事をすると、お兄さんたちが笑った。安心していられるのも今のうちだけだよ~?
そこから注文ラッシュでした!
エアハルトさんがララさんたちのお土産込みで十個、アレクさんとナディさんが五個。私は二十個。もちろん全員、従魔たちや眷属たちの分を含めての数だ。
それを聞いたお兄さんたちの顔が引きつっていた。
「ははは! 相変わらず豪快やなあ、お嬢ちゃんは!」
「おおきに! 頑張って作るで!」
「ちょっと待っとき」
「すぐに作るさかい」
少しストックがあったけどそれでも足りないからと、どんどんポルポ焼きを作り始めるお兄さんたち。タネを鉄板に入れるとじゅわっと音がして、表面が焼けてくるといい匂いが漂ってくる。
タネの状態を見てポルポを入れ、包み込むようにくるくるまあるくしていくお兄さんたち。その作業を見ているだけで楽しい。
あ~、この匂い、本当に懐かしいなあ。お好み焼きもそうだけど、粉モンが焼ける匂いってたまんないよね。それはこの世界も同じみたいで、匂いにつられてお客さんが覗きに来ている。
そしてくるくると回す作業を見ていた子どもたちが楽しそうにはしゃぎ、大人たちがちらほらと並び始めたころには、私たちの分が焼き上がる。
おお~、早い! そして今回もおまけをくれました!
「たくさん買こうてくれたからサービスや」
「わ~! ありがとうございます!」
「また来てな!」
場所を覚えたから、何度でも来るよ! そのうちお好み焼きも食べたいなあ……と思いつつ、拠点に戻る。
全員でアツアツのポルポ焼きを堪能していると、ダンジョンと私のポーション作りの話に。
「リン、王宮で言っていたのは……」
「もしかして、リンは魔力だけで作れますの?」
アレクさんとナディさんが尋ねてくる。
「はい、作れます。ご飯を食べたら、目の前で作りますね」
「あと、ナディ嬢にもリンの話をしたいのです。よろしいですか?」
「いいですよ。ただし、他言無用です」
「まあ……どのようなお話なのかしら」
とてもわくわくしたような顔をしたナディさんだけど、ロキとレンによって厳重な結界が張られると怪訝そうな顔になり、私がこの世界に来た〝渡り人〟だということとその経緯を聞くと絶句してしまった。そしてとても痛ましそうな顔までされてしまう。
そんな顔をしなくていいんだよ、ナディさん。今はとっても楽しいんだから。
「今はみなさんと出会えて、とっても楽しいんです。だからそんな顔をしないでくださいね?」
「わかりましたわ、リン」
ちょっとしんみりしちゃったけど、本当に今は楽しいことばかりだ。もちろんつらいこともあったし悲しいこともあったけど、出会った人たちがいい人ばかりで本当に助かっている。
ま、まあロクデナシもいたけどね!
みんなでわいわいと食事したあと、一旦自宅に帰って薬草を持って戻る。これから三人に魔力だけでポーションを作るのを見せるのだ。
「これがハイポーションの材料で、こっちがハイMPポーションの材料です」
テーブルの上に薬草と砂を分けて置き、まずはハイポーション、次にハイMPポーションを作る。手をかざしてあっという間に三十本ずつポーションが出来上がった。
もちろん、瓶にはお店のロゴ入りだ。
呆気なく、しかも簡単に作ったように見えたみたいで、三人があんぐりと口を開けている。まあ、実際簡単に作ったよ? 神酒やハイパー系、万能薬に比べたら、魔力はそんなに必要ないしね。
ハイ系に必要な魔力なんて、一回につき五百くらいだし。
そんなことを説明したら、絶句されてしまった。
「「「……」」」
「神酒に比べたら材料はとても少ないですし、必要な魔力も少ないですね」
「……ちなみに、神酒で使う魔力はどれくらいだ?」
「一回につき五千くらいだったかな? 渡り人特典というわけではないんですけど、魔力量の上限は魔神族の王族並みにあると、アントス様に言われています」
「どんだけあるんだよ!」
「王族並み、ですか……」
「それは規格外としか言いようがありませんわよ? リン」
いや~、それほどでも。じゃなくて。
この世界に来たとき、元々カンストなんてしてなかったんだよ、魔力に関しては。体力は魔力の半分以下かな?
だけど、ここ最近アントス様のところで何回も魔力がなくなるまでポーションを作り続けてた結果、魔力がカンストしてしまった。しかも、「もうじき限界突破するね♪」なんてアントス様に言われて、顔が引きつったのは言うまでもない。
さすがにその話はできないから、王族並みと誤魔化したけどね!
「ま、まあこんな感じで素材と薬草さえあれば、どこでも作れますから。なので、安心して攻略できますよ~」
「そういう問題ではないんだがな。だが、ポーションの数の心配をしなくていいのは助かる」
「そうでございますね」
「けれど、無茶はいけませんわよ? アレク様も兄様も」
ナディさんの言葉を受けて、わかっている、と頷くエアハルトさんとアレクさん。
いくらポーションの数を心配しなくていいとは言っても、薬草には限りがある。特別ダンジョンのように、全種類の薬草や内臓の素材が採取できるなら話は別だけど、上級北ダンジョンはそうじゃない。
できるだけたくさん用意して、ポーションもある程度作って持っていくつもりではいるが、いつか足りなくなるのは間違いない。幸い、『フライハイト』も『アーミーズ』もヒール系の属性魔法を使える人が複数いるから、回復魔法と併用していかないとね。
そんな話をしていると、あっという間に夜になる。晩ご飯をご馳走になってから自宅に帰ってきた。
みんなで特別ダンジョンに行くまでに休みが一回あったので、アントス様の元へと訪ねた。今回は一週間のお泊りをしてから地上に戻ることになっている。神様の領域だから時間の流れが違うとはいっても長いよね。
一週間で作る目標は各種十万本。
おおう……女神酒で魔力をかさ増しするにしても、そんなにできるんだろうか。
「大丈夫、十万本ずつできるまで地上に戻さないから♪」
「はあっ!?」
「だってダンジョンに潜るんでしょう? その間作れない分を含めての数だから、頑張って作ってね♪」
「鬼か!」
残念な神様のくせに! こういうところは容赦ないんだよね、アントス様って。
それにしても、今回に限ってはいつもと違う。なんだか焦っているようだ。
だけど、なんで焦っているんだろう? あとで聞いてみよう。
「あ、そうだ。先日、王宮に呼ばれて依頼を受けましたよ。あと、王様と宰相様と騎士団長さんに、渡り人であることを話しました」
他にもエアハルトさんと恋人になった話をすると、アントス様は安堵した顔をして、私の頭を撫でる。
「そう……本当に話したんだね。まあ、リンを護るためには必要なことだしねぇ。あの王太子だと不安でしょうがないけれど、現在の王と宰相なら安心かな」
「ですよね~」
神酒を作りながら話をするんだけど、一回につき十本しか作れないっていうのは痛い。だけどちゃっちゃと作らないといつまでたっても終わらないので、アントス様に薬草や砂を目の前に出してもらい、私が作るという流れ作業をしていた。
それにしても……最初にアントス様からスタンピードの話を聞いたときは、私しか知っている人がいなくて不安しかなかったけど、冒険者仲間と話し合いをしてからは最初に言われたときほどの不安はない。やっぱり相談できる人がいると違うし、みんながいれば大丈夫な気がする。
私の魔力がなくなった時点で休憩し、女神酒を飲む。
もうね……十本も飲むとお腹がタプタプになるしトイレも近くなるんだよね。
まあそうまでして、一日がかりで三万本だから、どれだけ神酒を作るのが大変かわかる。一番時間がかかる神酒さえ数を揃えてしまえば、あとはどうにでもなるので頑張りますよ~。
そんなこんなで、結局神酒とエリクサーをそれぞれ十万本を、十日がかりで作った。
「ご苦労様。ダンジョンから帰ってきたら、またやろうね」
「……ハイ」
アントス様によると各種百万本、しかも二種類のレベルのものを作らないといけないのでまだまだ先は長い。
なんでも、アントス様の神託を受け、五大陸のうち四つの大陸にある国々はそれぞれ対策をし始めたという。問題は北大陸の国々で、まったく動いていないとアントス様が愚痴る。
焦っている理由はそれかなあ……なんて考えていたら、アントス様が物騒なことを言い出した。
「あの大陸の人間――特に、召喚ばかりしていたいくつかの国の王族と住民は、一度滅ぼさないとダメですかねぇ」
「はい?」
「神の神託を無視するなんて、いい度胸だと思わない? 神罰が下っても文句は言えないよねぇ」
真っ黒い笑みを浮かべて物騒なことを呟くアントス様。
……うん、私は聞かなかったことにした。
地上に戻してもらい、自宅へ帰る。本来ならば採取に行かないといけないんだけど、精神的に疲れてしまった。
だけど、行かないと明日以降店で売るためのポーションの素材がなくなる可能性があるので、準備をしてから特別ダンジョンに向かった。
あと五日営業すれば、みんなで薬草採取に行く日にちになる。Aランク以下の冒険者たちはいつも通りに過ごしているし不穏な話も聞こえてこないので、王宮に呼ばれた冒険者たちはしっかり口を噤んでいるんだろう。
そして薬草採取をする日。今日から五日間、みっちり採取をしますよ~。
「よし。じゃあ手筈通りに頼む」
ヘルマンさんの言葉を受けておう! と元気よく返事をした冒険者のみなさん。どのみちみんな北にあるふたつのダンジョン……特別ダンジョンと上級北ダンジョンに向かうので、街道の分岐点まで一緒に行動する。
私たち薬草採取チームとイビルバイパー狩りチームは特別ダンジョンへと向かう。まずは第三階層に行かないといけないイビルバイパーチームが先行。それを見送ったあと、私たちも行動を開始した。
第一階層だとギルドで依頼を受けている人がいると困るし、あれこれ詮索されても嫌なので、できるだけ彼らがいない第二階層へと降りる階段付近で採取をすることにした。
『フライハイト』と『アーミーズ』は薬草の種類がわかっているから単独で、私とラズ、両親はその他のパーティーの冒険者たちに知らない薬草を教えながらセーフティーエリアを目指す。
「ラズ、本当に一人で大丈夫?」
〈大丈夫。できればスミレとリュイに一緒に来てほしいけど……〉
〈ラズト一緒ニイク〉
《ボクもー》
「ありがとう。ちゃんと教えるんだよ?」
〈うん!〉
「みなさんもよろしくお願いします」
「おう、任せておけ!」
スミレ、空を飛べるグリフォンのリュイがラズに指名されて、喜んで頷いている。一緒に行く冒険者パーティーにもしっかりお願いし、そこで分かれた。
薬草チーム全員の集合時間はお昼だ。夜が明ける前に王都を出発したから、六時間ほど余裕がある。
といっても、採取しながら階段付近のセーフティーエリアに行くとなると、結局はそれくらいの時間がかかってしまうんだけどね。
「リンちゃん、頼むな」
「はい。どの薬草がわからないんですか?」
「名前のところに丸が付いている五種類だな」
一緒に採取しているみなさんは薬草の勉強になると喜んでいる。生のままでも使える薬草があるから、知っていて損はないと思ったみたい。特に傷や毒に効く薬草は食いつきが半端なかった。
ポーションがなくなったあと地上に戻るまでの間に合わせとはいえ、薬草があるのとないのとでは生存率がまったく違うと教えてくれた。なるほど~。
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