出戻り巫女の日常

饕餮

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ボルダード編

では、そろそろ参りましょうかな

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「そのドレスとこのドレスはこちらに! 他のは売って下さって構いませんわ!」
「畏まりました!」
「奥様、宝石商と美術商の方がおみえになりました」
「この箱とこの箱、それとこの箱以外の宝石類はわたくしに、この箱はフリディカに、それ以外の宝石類は別の部屋に纏めてある美術品や骨董品と一緒に売って構いませんわ!」
「畏まりました!」

 背後にある屋敷の開け放たれた窓から漏れ聞こえる声に「ドレスや宝石類、美術品や骨董品まで売るんかい」と突っ込みを入れながら、私は屋敷の裏に生えていた毒草を解毒薬に、薬草を傷薬に変えていた。きちんと囲いが成されているから、生えているというよりは栽培されている、といった感じの方が強い。

 その屋敷の中はてんやわんやの大騒ぎである。

 現在私やカムイがいるのはルガトの家だったりする。アストとルガトが「どうしても私と一緒に過ごしたい」と言ったせいだった。因みにジェイド達は、怪我をしたおじさんやペロ、エクウスと一緒にデューカスの屋敷にいる。
 そのルガトの家は現在引越し作業に伴い、いるものといらないもの、長男とその嫁に贈るものと屋敷に残る二人が使うと言ったもの、屋敷に残しておくものの整理の真っ最中なのだ。
 表向きは病弱な娘に会いに行くという話になっているだけなのに、ルガトやその奥さん、アストの二番目の兄も一緒になって住まいと住む国自体も変えてしまおうというのだから、なんとも豪快な一家である。
 宰相を辞めたルガトはともかく、二番目の兄の仕事は大丈夫なのか、そこまでする必要はあるのかと心配するものの結局は自分の家のことではないし、残る本人達も出ていく本人達も大丈夫と言っているのだから大丈夫なんだろう。

 私の隣では、アストが同じく屋敷の一角に生えている火炎草を、そこら辺に落ちている石に合成して魔導石を作っていた。

 魔導石とは、謂わば時代劇なんかに出てくる火打石みたいなもので、竈や暖炉に魔導石をいれ、その魔導石に薪や火を起こすための木を打ち付けると石自体が発火するのだ。
 魔導石を作れるのは、今のところ神殿関係だとアストのような最高位の巫女や神官や巫女の一部と、巫女から知識を授けられた一部の専門職のみ。一本の火炎草から、大小様々な石一キロ前後(場合によっては二キロ近く)を魔導石に変える事が出来るので、作れる人が少なくても需要と供給が充分間に合うのだ。

 火炎草自体を直接入れてもいいのだが、火炎草を使う場合は草を乾燥させて粉にし、火の中にくべないと使えない上、使い方を間違えると火傷をするという素人では何とも扱いづらい草なのだ。生のまま使えなくもないが、魔導石や粉のように火力が上がるわけではないため、かなり使い勝手が悪い。
 因みに、商人がダンジョンに潜ってアイテムを集めるとあるゲームみたいに、口に含んで口から火を吐いてモンスターを倒す、なんてことは出来ない。
 私自身は合成は出来ないが、解毒薬や薬草のように丸薬の形にすることが出来る。それを投げつけて小さな爆発を起こすことが出来るのだが、正直、需要がない上に危ないので作ったりはしない。なんせ、爆竹以上ダイナマイト未満の威力が高過ぎる代物だから、投げた本人も怪我しかねないのが難点だったりする。

「んー、私の方はこんなもんかな。アストの方はどう?」
「わたくしもだいたい出来ましたわ。それにしても、サクラが下さったこのキンチャクと言う小さな袋は、サイズを分けて入れられるからとても便利ですわね」
「そうだね。印を決めて巾着に印をつけておけば、誰が見ても中に何が入っているかすぐに分かるし」
「そうですわね。お母様も『宝石を入れるのに便利ですわ』なんて仰っていました」

 にっこり笑ってそう言ったアストに、思わず苦笑してしまう。

 そもそも、巾着のことを母親に話したのはアストだ。私がリュックの中身を整理するために中身を出していると、アストに「その袋状の布は何ですの?」と聞かれたことから巾着の説明をしたら、アストが欲しいと言いだしたのだ。
 いらない紐をもらって使っていない巾着に紐を通してからそれを渡して使い方を説明したのだが、アストがそれを母親に見せたところ、母親も、アストの兄嫁も、屋敷で働く女性達も欲しいと言ったがために、いらない布と紐を使って作り方を説明する羽目になってしまったのだ。
 アストに至っては「子供たちにはキンチャクではなく、サクラが使っているそのカバンが欲しいのですが」と言ったのだが、布は重ねれば丈夫になるからいいとして、太めの糸がないとのことなのでそれが手に入るまで保留である。

「これだけあればあのおじさんも喜ぶね」
「そうですわね。後はお父様達の準備が整うのを待つだけですわ」

 わくわくしながら楽しそうに話すアスト。自分の両親や兄、子供たちや好きな人、懐かしい神殿関係者と一緒に旅が出来ることがよっぽど嬉しいのだろう。

 そもそも傷薬や解毒薬、魔導石を作っていたのは私が助けたおじさんが自分の国で道具屋を営んでいて、店に置く商品を仕入れるためにユースレスに行く途中だったらしい。傷が癒えたおじさんがどうしてもユースレスに行かなけばならないと言ったのでその理由を聞くと、傷薬や解毒薬はシュタールよりもユースレスの方が上質な物が多く、それなりに安く買えるからといった理由だった。
 だが、現在のユースレスは治安が危ないこと、私やアストがそういったものを作れることを理由にデューカスの屋敷に留まるように言い、その見返りとしておじさんの国に着いていくことなどを承諾させて商談成立となった。

 おじさんがいる国は、レーテが嫁いだセレーノ国よりも更に東にある。ユースレスから直線距離で東の方にあたるが、その国とユースレスの間には山脈があり、道も整備されていないために山脈を迂回するようにボルダードやセレーノを経由しないとシュタールやユースレスに行けないらしい。シュタールに来るまで十日間ほどで、商品仕入れの旅としてはかなり早いペースだったそうだ。

 おじさんとアストを助け、ルガトの屋敷に来てそろそろ十日。商品の目処がついたおじさんが「そろそろ国に帰りたい」と漏らしたことで、ルガト達は慌てて出発と言う名の引越し準備を始めたのだった。

「トリィ、セレシェイラ殿、準備が整ったよ」
「え、たった今まで、お屋敷の中はバタバタしてましたよね?!」
「ん? ああ、あれは本当に必要のないものを処分しているだけですからな。出立しようと思えば、いつでも出来るのです」
「はあ、そうですか……」
「後は、デューカス殿の準備が整えば……おや、噂をすれば」

 ルガトの声に振り向くと、デューカスとイプセンとおじさん、ラーディやジェイド達がルガトの家の門番と話しているところだった。それを見やると立ち上がって土や薬草なんかの葉を掃うと、側に置いていたリュックを背負って刀を腰に差す。少し離れた場所にいたカムイは、私が立ち上がると同時に側に寄って来ている。 

「では、そろそろ参りましょうかな」
「…………この大所帯で、ですか?」

 ルガトの家の玄関先には、ルガトとその奥さんのユディエラ、アストの次兄のロルフ、アスト、アストの息子二人、その乳母二人。

 デューカス達は、デューカス、イプセン、侍女らしき女性。

 ジェイド達七人。

 道具屋のおじさん――ウォーグさんと言う――の側には、ペロとエクウス。

 そして、私とカムイ。

 人間だけでも二十人になってしまい、その全員の格好だけをみれば、商人とその雇い主と護衛騎士や兵士と言った感じで、一体何処の商隊キャラバンだといった感じだった。これはこれで旅は楽しいだろうし安心だろうけど、今の私は一人旅がしてみたい。もしくは、暫く皆一緒に旅をして拠点となるところや住むところを見つけてから一人旅をするかの二つに一つだが、ジェイド達に見つかってしまった以上、暫く一人旅は無理っぽい。
 でも。それでも私は、一人旅がしてみたいのだ。

 そう思いつつも、とりあえず皆と一緒にルガトの屋敷を後にする。抜け出す機会を窺いながら。でも。


 ――こっそりカムイの背に揺られて逃げ出す筈が必ず誰かに見つかってしまい、暫く大所帯で移動する羽目になった。


 しかも、あれだけ人数がいるのにも関わらず、釣りや狩りが出来ても料理が出来るのはハンナとスニルのみと聞いてしまっては、逃げるに逃げられなくなってしまった。
 サバイバルや大所帯の合宿に慣れている私にしてみれば、大所帯の料理を作ったことがない二人では心もとなかったのだ。最初の夜営でそれが判ってしまったのだから、どうしようもない。

(私ってばお人好しなのかな……)

 何気に厄介事に巻き込まれ体質なのかも……と内心溜息をつきながらも、料理を覚えたいと言ったユディエラとアルブルク家の侍女のミュラ、ハンナとスニルの五人で晩ごはんを作るのだった。

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