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第二章『罪』
真実への道筋
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空路と空路を乗り継いで、約12~14時間。俺は、漸く自分の生まれ育った国に辿り着いた。途中、プライベートジェットに乗るという手段を強制的に移動手段の中の一つとして選ばれたので、緊張に次ぐ緊張に襲われたけれど。人には置かれている環境に比較的早く慣れるという習性があるからか、単純に緊張感を保つのに疲れただけか、乗り込んでから一時間と経たずに、飛行機のリクライニングを使用してゆったりと外の景色を眺められる様になっていた。
因みに、俺のパスポート問題だけれど、花園に入園する段階で取得してある。いつかは使う様になるだろうからと言って、九條さん主導のもと、花園に入園する薔薇の蕾達はみんな、パスポートを予め取得する流れが常態化していた。それを花園入りして僅か二ヶ月ほどで使用してしまうだなんて、驚きしかない。そして、俺の部屋からそのパスポートをあっさりと見つけ出したらしい慎也さんの華麗なる手腕には、舌を巻くばかりだ。蓮さんを警護する優秀なボディーガードであるだけでなく、空き巣としての才能まであるとは……忍者なの?と、その正体を疑ってしまって、俺を一度現地で送り出す格好を整えていたにも関わらず、結局蓮さんの鶴の一声で俺の付き添い役をしなくてはならなくなった慎也さんに、そわそわと落ち着かない眼差しを送ってしまった。
「あの、慎也さん。真っ直ぐに花園に向かう前に、一度寄っておきたい場所があるんですが、いいでしょうか?」
「別にいいけど、何処に寄るの?」
「バーの店長をしている真智さんに、何も言わずに出てきてしまったので、心配を掛けたんじゃないかと思って。顔を出して、安心させたいんです」
「あー……成る程ね。一応、あの人とも話は付いてるらしいけど、そういう問題じゃねぇもんな」
「はい。そんなに多くは時間を取らせないと思いますので……」
「はいよ。じゃあ、俺いない方がいいよなぁ……真智さんには俺もお世話になってるんだけどね」
「え?なら、別に一緒にいても……」
「これでも俺、問題児だったからさぁ。あの人自身は好きだけど、あんまりあの人との間には、いい思い出がないんだよね」
これでも、という言葉選びに、ついと引っかかってしまいそうになって、グッと言葉を飲み込む。二人の間で何があったのかを聞くのも首を突っ込み過ぎだろうか。俺がなんとなく落ち着かない気持ちでいると、特別俺が聞いてもいないのに、慎也さんは自分が花園にいた時の話と、花園の暗黒時代について、ぽつぽつと語り始めた。
慎也さんが花園に居た頃は、まだ花園は先代の教祖の意向が色濃く反映された場所として機能していた。薔薇や薔薇の蕾という存在があり、特別な教育を施し、会員に向けてその存在を派遣するという大枠の形式は変わっていなかったらしいのだが、薔薇や薔薇の蕾達は会員達からは『切り花』として愛でられる傾向が強く、より交配に特化した教育を施されていたのだという。
花園がそんな、一般的な会員制高級ボーイズクラブと同様の場所として開かれてしまったその理由として、教祖によるハーレムの形成が一番の要因となっていた。教祖は、正妻には子供を道連れにしようとしてまで自死という道を選ばれ、可愛がっていた愛妾には水面下で派閥を形成されるという経験から、酷い女性不審に陥っていた。その為、心身の癒しを見目麗しい若い男性の中に見出す様になり、自分のハーレムを作って、懇意にしている人間のみ会員に出迎え、時折、その会員に薔薇や薔薇の蕾を派遣する、という行為を繰り返していたのだという。
まだ教育が進んでいない薔薇の蕾まで駆り出されていたのは、単純に人員不足という理由もあったのだが、まだ薔薇として開花する前のウブな反応をする薔薇の蕾を手籠にしたいという会員の欲求に応えた教祖が、貴方様だけは特別ですよ、という含みを持たせる為に派遣していたという経緯もあったそうだ。
聞いているだけで、反吐が出る。そして、その当時あった話を、こうだった、ああだった、と平然と話している慎也さんにも、複雑な感情を抱いた。まるで他人事の様な、それでいて何でもない事の様に、えげつない過去の出来事を口にする慎也さんの目は、何処までも澄んでいたからだ。
なんで、こんなにも綺麗な瞳で、過去にあった凄惨な現実を話せるんだろうと不思議な気持ちになる。俺は、決してこの人の様に、ごくあっさりとした態度で、自分の暗い過去を話せる人間にはなれそうにない。人としての、経験の差なんだろうか。それとも、工藤 慎也という男の、人としての格に要因があるんだろうか。この短い交流の中では、まだその判断を下すにしては、俺には時間が足りなさ過ぎた。
真智さんは、傷付き疲れていた薔薇や薔薇の蕾達にとっての、希望の様な存在だった。薔薇として重用されるよりも、その管理に回る経験の方が多く、派遣先の会員に人道に反する様な行いをされて深く傷ついた薔薇や薔薇の蕾達の気持ちに寄り添って、時にはその身を顧みずに、当時の総取締役に待遇の改善を提案したりしていたらしい。その度に当時の総取締役から酷い扱いを受けていたらしいのだけど、悲しい事に、真智さんのその苦労に見合った実りは少なかった。
それでも花園から逃げ出す人間が少なかったのは、やはり宗教によって、その心身を縛り上げられている所が大きかった。花園で『修行』を果たせば、自分自身や、時にはその家族共々、いつかは支配者階級に取り立てて見せるという飴をチラつかせ続け、その飴という存在は、薔薇や薔薇の蕾達に僅かな光を齎していた。それが太陽の様な光源として絶対的で恒久的な意味合いを持つ明かりでは無く、いつでも花園管理者達によって点灯と消灯とが切り替え可能な人工的な灯りであっても。それだけ、支配者階級に寄せる信者達の憧れと渇望は強烈だったのだ。
しかし、教祖が死に、現在の御方が代替わりを行った事により、支配者階級・被支配者階級という枠組み自体が崩壊した。私利私欲に満ちていた花園関係者は悉く粛清の対象となり、花園は御方の手により大胆な改革がなされ、その存在そのものが御方の強靭な権力の庇護下に置かれる事となったのだ。そして、九條さん主導の元、今現在の花園の形式が構築されてから、真智さんは花園を去って行った。その瞳に、深い安堵の色を浮かべて。
「何故、御方は花園の為に、そこまでの強権を振るう様な行動を起こしたんでしょうか。はっきり言って、花園という存在自体を抹消してしまった方が、何倍も労力が掛かりませんよね?」
当然頭に浮かんでくる疑問に、慎也さんは、空港に降り立った俺達の為に手配された黒塗りの高級車に乗り込んで腰を落ち着けてから、その疑問に答えてくれた。
「それは、やっぱり御方が、『俺達みたいな人間』だったからだと俺は思っているよ。あまり花園について、というか、ご自分についても多くを語らない方だから、その本当の意図は分からないけどな」
御方は、預けられた先にある教会の司祭から、性的な虐待を受けていた。それが後々の性的嗜好に影響を与えたのかどうかは、分からない。しかし、生まれつきそうであったとしても、虐待から受ける心理的ダメージに違いや差などないんだ。だから、同じ様に心に傷を負った人間達を集めて、その心の傷を癒やして、教育を施し、気品と誇りを持たせてから、自分の名の下に、その将来性と安全性が保証された職場や居場所を用意して、そこに薔薇を送り届けるという行為には、深く傷付いた経験のある自分自身を癒やすための代償行為でもあるんじゃないかと思えた。
だとしたら、そんな御方の気持ちや考え方、それに基づいた行動に共感し、花園や御方本人を支えたいと思ってしまう人間が現れても、何ら不思議ではない……そう、あの、ロサ・フェティダさんの様に。
「お前の御方や花園に対する気持ちも、最初の頃とはだいぶ変わって来たんじゃないか?」
俺の心理を突くように、慎也さんが窓の外の流れていく景色を目に映しながら、話し始めた。
「このまま、あいつから御方や花園を単純に取り上げようとしたら、必ずあいつの反発を食う。だから、お前の行動は盛大な徒労に終わってしまうかもしれない。それでも、まだあいつの自由というものに拘り続けるのなら、その理由を明確にしていないと、御方にも、あいつの意思にも、確実にお前は負ける。誰かや何かを信仰するって気持ちはさ、それだけ強いんだよ……好きだって気持ち一つじゃ、動かせられないくらいにな」
『どうする気なの、お前』という視線を慎也さんから投げ掛けられる。慎也さんは、俺の事はもう心配していないと言いながら、こんな風にして再び探りを入れてきた。言動が一貫していないとは思いつつも、それも仕方がないのかなと思った。実際に御方やロサ・フェティダさんと対峙する時が刻一刻と近付いてくる中で、この人なりに不安に思う気持ちが、また沸々と湧き上がってきたとしてもおかしくはない。
そもそも、俺には今のところ、御方とロサ・フェティダさんの両者を説得するに足りる説得材料を持ち合わせていないのだから、そんな俺を見て慎也さんが不安に思うのも当然なんだ。もしも俺が説得に失敗でもしたら、それこそ、もう本当の意味でロサ・フェティダさんは、今まで以上に御方や花園に固執するようになってしまうかもしれない。それだけは避けたいと慎也さんが考えるのは、当然の流れだった。だから、俺はそんな慎也さんを少しでも安心させるべく、ある可能性を提示したんだ。
「俺が、どうすれば御方やロサ・フェティダさんを説得出来るのか、そして、ロサ・フェティダさんに本当の自由を得て貰う為には、どうすればいいのか。その答えの手掛かりを手にしている人を、俺は知っています」
「まさか……お前、その為に?」
「はい。だから、慎也さん。このまま俺に着いてきてくれませんか?」
「……乗るよ。そして、お前のお手並みを拝見させて貰うとしようか」
慎也さんは、スッと俺の顔の前に、手を差し出した。だから、俺には、それが正解かどうかは分からなかったけれど、反射的に身体が動いてしまって。
『……ッパン』
その差し出された手を、力強くハイタッチした。
空路と空路を乗り継いで、約12~14時間。俺は、漸く自分の生まれ育った国に辿り着いた。途中、プライベートジェットに乗るという手段を強制的に移動手段の中の一つとして選ばれたので、緊張に次ぐ緊張に襲われたけれど。人には置かれている環境に比較的早く慣れるという習性があるからか、単純に緊張感を保つのに疲れただけか、乗り込んでから一時間と経たずに、飛行機のリクライニングを使用してゆったりと外の景色を眺められる様になっていた。
因みに、俺のパスポート問題だけれど、花園に入園する段階で取得してある。いつかは使う様になるだろうからと言って、九條さん主導のもと、花園に入園する薔薇の蕾達はみんな、パスポートを予め取得する流れが常態化していた。それを花園入りして僅か二ヶ月ほどで使用してしまうだなんて、驚きしかない。そして、俺の部屋からそのパスポートをあっさりと見つけ出したらしい慎也さんの華麗なる手腕には、舌を巻くばかりだ。蓮さんを警護する優秀なボディーガードであるだけでなく、空き巣としての才能まであるとは……忍者なの?と、その正体を疑ってしまって、俺を一度現地で送り出す格好を整えていたにも関わらず、結局蓮さんの鶴の一声で俺の付き添い役をしなくてはならなくなった慎也さんに、そわそわと落ち着かない眼差しを送ってしまった。
「あの、慎也さん。真っ直ぐに花園に向かう前に、一度寄っておきたい場所があるんですが、いいでしょうか?」
「別にいいけど、何処に寄るの?」
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「はい。そんなに多くは時間を取らせないと思いますので……」
「はいよ。じゃあ、俺いない方がいいよなぁ……真智さんには俺もお世話になってるんだけどね」
「え?なら、別に一緒にいても……」
「これでも俺、問題児だったからさぁ。あの人自身は好きだけど、あんまりあの人との間には、いい思い出がないんだよね」
これでも、という言葉選びに、ついと引っかかってしまいそうになって、グッと言葉を飲み込む。二人の間で何があったのかを聞くのも首を突っ込み過ぎだろうか。俺がなんとなく落ち着かない気持ちでいると、特別俺が聞いてもいないのに、慎也さんは自分が花園にいた時の話と、花園の暗黒時代について、ぽつぽつと語り始めた。
慎也さんが花園に居た頃は、まだ花園は先代の教祖の意向が色濃く反映された場所として機能していた。薔薇や薔薇の蕾という存在があり、特別な教育を施し、会員に向けてその存在を派遣するという大枠の形式は変わっていなかったらしいのだが、薔薇や薔薇の蕾達は会員達からは『切り花』として愛でられる傾向が強く、より交配に特化した教育を施されていたのだという。
花園がそんな、一般的な会員制高級ボーイズクラブと同様の場所として開かれてしまったその理由として、教祖によるハーレムの形成が一番の要因となっていた。教祖は、正妻には子供を道連れにしようとしてまで自死という道を選ばれ、可愛がっていた愛妾には水面下で派閥を形成されるという経験から、酷い女性不審に陥っていた。その為、心身の癒しを見目麗しい若い男性の中に見出す様になり、自分のハーレムを作って、懇意にしている人間のみ会員に出迎え、時折、その会員に薔薇や薔薇の蕾を派遣する、という行為を繰り返していたのだという。
まだ教育が進んでいない薔薇の蕾まで駆り出されていたのは、単純に人員不足という理由もあったのだが、まだ薔薇として開花する前のウブな反応をする薔薇の蕾を手籠にしたいという会員の欲求に応えた教祖が、貴方様だけは特別ですよ、という含みを持たせる為に派遣していたという経緯もあったそうだ。
聞いているだけで、反吐が出る。そして、その当時あった話を、こうだった、ああだった、と平然と話している慎也さんにも、複雑な感情を抱いた。まるで他人事の様な、それでいて何でもない事の様に、えげつない過去の出来事を口にする慎也さんの目は、何処までも澄んでいたからだ。
なんで、こんなにも綺麗な瞳で、過去にあった凄惨な現実を話せるんだろうと不思議な気持ちになる。俺は、決してこの人の様に、ごくあっさりとした態度で、自分の暗い過去を話せる人間にはなれそうにない。人としての、経験の差なんだろうか。それとも、工藤 慎也という男の、人としての格に要因があるんだろうか。この短い交流の中では、まだその判断を下すにしては、俺には時間が足りなさ過ぎた。
真智さんは、傷付き疲れていた薔薇や薔薇の蕾達にとっての、希望の様な存在だった。薔薇として重用されるよりも、その管理に回る経験の方が多く、派遣先の会員に人道に反する様な行いをされて深く傷ついた薔薇や薔薇の蕾達の気持ちに寄り添って、時にはその身を顧みずに、当時の総取締役に待遇の改善を提案したりしていたらしい。その度に当時の総取締役から酷い扱いを受けていたらしいのだけど、悲しい事に、真智さんのその苦労に見合った実りは少なかった。
それでも花園から逃げ出す人間が少なかったのは、やはり宗教によって、その心身を縛り上げられている所が大きかった。花園で『修行』を果たせば、自分自身や、時にはその家族共々、いつかは支配者階級に取り立てて見せるという飴をチラつかせ続け、その飴という存在は、薔薇や薔薇の蕾達に僅かな光を齎していた。それが太陽の様な光源として絶対的で恒久的な意味合いを持つ明かりでは無く、いつでも花園管理者達によって点灯と消灯とが切り替え可能な人工的な灯りであっても。それだけ、支配者階級に寄せる信者達の憧れと渇望は強烈だったのだ。
しかし、教祖が死に、現在の御方が代替わりを行った事により、支配者階級・被支配者階級という枠組み自体が崩壊した。私利私欲に満ちていた花園関係者は悉く粛清の対象となり、花園は御方の手により大胆な改革がなされ、その存在そのものが御方の強靭な権力の庇護下に置かれる事となったのだ。そして、九條さん主導の元、今現在の花園の形式が構築されてから、真智さんは花園を去って行った。その瞳に、深い安堵の色を浮かべて。
「何故、御方は花園の為に、そこまでの強権を振るう様な行動を起こしたんでしょうか。はっきり言って、花園という存在自体を抹消してしまった方が、何倍も労力が掛かりませんよね?」
当然頭に浮かんでくる疑問に、慎也さんは、空港に降り立った俺達の為に手配された黒塗りの高級車に乗り込んで腰を落ち着けてから、その疑問に答えてくれた。
「それは、やっぱり御方が、『俺達みたいな人間』だったからだと俺は思っているよ。あまり花園について、というか、ご自分についても多くを語らない方だから、その本当の意図は分からないけどな」
御方は、預けられた先にある教会の司祭から、性的な虐待を受けていた。それが後々の性的嗜好に影響を与えたのかどうかは、分からない。しかし、生まれつきそうであったとしても、虐待から受ける心理的ダメージに違いや差などないんだ。だから、同じ様に心に傷を負った人間達を集めて、その心の傷を癒やして、教育を施し、気品と誇りを持たせてから、自分の名の下に、その将来性と安全性が保証された職場や居場所を用意して、そこに薔薇を送り届けるという行為には、深く傷付いた経験のある自分自身を癒やすための代償行為でもあるんじゃないかと思えた。
だとしたら、そんな御方の気持ちや考え方、それに基づいた行動に共感し、花園や御方本人を支えたいと思ってしまう人間が現れても、何ら不思議ではない……そう、あの、ロサ・フェティダさんの様に。
「お前の御方や花園に対する気持ちも、最初の頃とはだいぶ変わって来たんじゃないか?」
俺の心理を突くように、慎也さんが窓の外の流れていく景色を目に映しながら、話し始めた。
「このまま、あいつから御方や花園を単純に取り上げようとしたら、必ずあいつの反発を食う。だから、お前の行動は盛大な徒労に終わってしまうかもしれない。それでも、まだあいつの自由というものに拘り続けるのなら、その理由を明確にしていないと、御方にも、あいつの意思にも、確実にお前は負ける。誰かや何かを信仰するって気持ちはさ、それだけ強いんだよ……好きだって気持ち一つじゃ、動かせられないくらいにな」
『どうする気なの、お前』という視線を慎也さんから投げ掛けられる。慎也さんは、俺の事はもう心配していないと言いながら、こんな風にして再び探りを入れてきた。言動が一貫していないとは思いつつも、それも仕方がないのかなと思った。実際に御方やロサ・フェティダさんと対峙する時が刻一刻と近付いてくる中で、この人なりに不安に思う気持ちが、また沸々と湧き上がってきたとしてもおかしくはない。
そもそも、俺には今のところ、御方とロサ・フェティダさんの両者を説得するに足りる説得材料を持ち合わせていないのだから、そんな俺を見て慎也さんが不安に思うのも当然なんだ。もしも俺が説得に失敗でもしたら、それこそ、もう本当の意味でロサ・フェティダさんは、今まで以上に御方や花園に固執するようになってしまうかもしれない。それだけは避けたいと慎也さんが考えるのは、当然の流れだった。だから、俺はそんな慎也さんを少しでも安心させるべく、ある可能性を提示したんだ。
「俺が、どうすれば御方やロサ・フェティダさんを説得出来るのか、そして、ロサ・フェティダさんに本当の自由を得て貰う為には、どうすればいいのか。その答えの手掛かりを手にしている人を、俺は知っています」
「まさか……お前、その為に?」
「はい。だから、慎也さん。このまま俺に着いてきてくれませんか?」
「……乗るよ。そして、お前のお手並みを拝見させて貰うとしようか」
慎也さんは、スッと俺の顔の前に、手を差し出した。だから、俺には、それが正解かどうかは分からなかったけれど、反射的に身体が動いてしまって。
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