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22 泣くのは一度で充分◆◆シンシア
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グレイソン先生の事情聴取を受けた翌日の午後だった。
驚いたことに、父がもう到着した。
父は何も言わないけれど。
今朝到着したと言うことは、母から報告を受けて直ぐに切符の手配をして、乗車券だけで供も連れずに単身、昨日午後発の夜行特急に飛び乗ったとしか思えない。
それに、ハミルトン本邸から駅までの整備された大通りを使う馬車は、日中道が混んでいて時間がかかるから、自分で馬を駆った?
いつもの特別室が予約でふさがっていて、個室も一等席も空いていなかったら……
ハミルトンから王都までの20時間強を、自由席で窮屈な思いをさせてしまった可能性も高い。
今回の緊急の父の不在で、本宅家令のベントン、管理人頭のミラーには、予定外の皺寄せが来ているだろう。
特にベントンは来月の婚約披露が中止になったことで、走り回ってくれているのか、母がわたしには見せないようにして、彼とこまめに電話連絡を取り合っているのも知っている。
こんなことになってしまって、領地の皆には申し訳なくて。
帰った時にちゃんと労いを言うのを忘れないようにしなくては。
1日早く姿を見せた父に、明日着くと思っていた母は先に電話だけでも入れて欲しかったと言いながらも、安心したように見えた。
わたしが早退して、その理由を話したのが3日前。
昨日はグレイソン先生の事情聴取。
披露する直前の婚約相手を失った娘を抱えて、王都邸を預かる母は緊張していたのだろう。
微笑みながらも、うっすら浮かぶ涙のせいで、泣き笑いの独特の表情をしていた。
母がこんなにも不安がっていた理由は、レイドだ。
彼は妹のスザナから今回の事情を聞いて。
一昨日、彼はエディに報告する為に、半日邸を留守にした。
わたしの婚約が駄目になったことで、エディがどう動くのか、母は神経質になっていたのだと思う。
大丈夫、彼は動いたりしない。
そんな愚かな真似はしない。
そう言って差し上げたいのに。
それはそれで、言い切れるのは今でも彼と連絡を取り合っているからか等、不要な心配を増やすことになると思うから何も言えない。
スザナには特に口止めしなかったから、レイドに話すのは仕方がなかった。
それがスザナの仕事だから。
大聖堂のキャンセルが伝われば、キャメロンとの話が破談になったことはエディに知られていただろうけれど……
レイドは元々は、エディの護衛だ。
それをお別れの日、彼はわたしにレイドを預けると言った。
既に、陛下と父には許しを得ているとエディは続けた。
「レイドに、僕の代わりにシンディを守れと命じた」
新たな任務を与えられたレイドの表向きの顔は、ハミルトンの執事。
彼の妹のスザナは、わたしの中等学校入学に合わせて、侍女としてハミルトンにやって来た。
彼女は実家で訓練も受けていて、男性のレイドでは常にわたしに張り付いているわけにはいかないから、これもまたエディが送り込んで来たのだった。
彼等の給与は、現在もエディが個人資産から支払っているとスザナ本人から聞いた。
有能なレイドは執事の仕事も難なくこなし、わたしの身辺に目を配り、そして何か起こればエディに会って、報告する。
エディとは約束通り、あれから一度も顔を合わせてもいないし、手紙のやり取りもしていない。
エディは定期的にではないが、レイドに会ってわたしの近況を把握しているようだけれど、わたしにはエディの情報は何ら知らされていなかった。
そんな職務に忠実なレイドとスザナは、わたしがキャメロンと婚約した後はハミルトンを離れる予定になっていたけれど。
来年、エディがこの国を離れるから。
レイドは付いて行きたいだろうと思い、早く解放してあげたかったのに。
これでまた、しばらくは共に居ることになってしまったので、彼等には本当に心苦しく思う。
◇◇◇
「思っていたより、力のある目をしているから安心した」
父が幼い頃と同じように、わたしの頭を撫でた。
こんな風に触れられたのは、随分久し振りだ。
わたしが失った恋と友情を惜しんで、涙に暮れていると父には思われていたの?
残念ながら、キャメロンとアイリスのせいで泣くのは一度で充分。
キャメロンとは政略ではないが、恋愛からの縁でもない。
だからこそ、話が纏まるのが速かった。
わたしの結婚相手は好きだという気持ちだけで選ばないと、彼を紹介してくれたアイリスにも、きちんと伝えていた。
それなのに、どうして彼女もわたしに黙っていたのだろう。
キャメロンが見せる明るさや優しさを好ましく思い、彼に甘えたことも、彼と幸せになりたいと思ったことも事実だけれど。
もっと早い時点で、アイリスがキャメロンを好きだと正直に打ち明けてくれたなら。
こんな形で裏切られなければ、わたしは身を引いたのに。
知らない間に、当て馬から想い合うふたりを引き裂く悪役になるところだったと考えれば。
確かにショックは受けたけれど、婚約する前で良かったとつくづく思う。
こんな、わたしの可愛げの無いところは誰に似たのやら。
驚いたことに、父がもう到着した。
父は何も言わないけれど。
今朝到着したと言うことは、母から報告を受けて直ぐに切符の手配をして、乗車券だけで供も連れずに単身、昨日午後発の夜行特急に飛び乗ったとしか思えない。
それに、ハミルトン本邸から駅までの整備された大通りを使う馬車は、日中道が混んでいて時間がかかるから、自分で馬を駆った?
いつもの特別室が予約でふさがっていて、個室も一等席も空いていなかったら……
ハミルトンから王都までの20時間強を、自由席で窮屈な思いをさせてしまった可能性も高い。
今回の緊急の父の不在で、本宅家令のベントン、管理人頭のミラーには、予定外の皺寄せが来ているだろう。
特にベントンは来月の婚約披露が中止になったことで、走り回ってくれているのか、母がわたしには見せないようにして、彼とこまめに電話連絡を取り合っているのも知っている。
こんなことになってしまって、領地の皆には申し訳なくて。
帰った時にちゃんと労いを言うのを忘れないようにしなくては。
1日早く姿を見せた父に、明日着くと思っていた母は先に電話だけでも入れて欲しかったと言いながらも、安心したように見えた。
わたしが早退して、その理由を話したのが3日前。
昨日はグレイソン先生の事情聴取。
披露する直前の婚約相手を失った娘を抱えて、王都邸を預かる母は緊張していたのだろう。
微笑みながらも、うっすら浮かぶ涙のせいで、泣き笑いの独特の表情をしていた。
母がこんなにも不安がっていた理由は、レイドだ。
彼は妹のスザナから今回の事情を聞いて。
一昨日、彼はエディに報告する為に、半日邸を留守にした。
わたしの婚約が駄目になったことで、エディがどう動くのか、母は神経質になっていたのだと思う。
大丈夫、彼は動いたりしない。
そんな愚かな真似はしない。
そう言って差し上げたいのに。
それはそれで、言い切れるのは今でも彼と連絡を取り合っているからか等、不要な心配を増やすことになると思うから何も言えない。
スザナには特に口止めしなかったから、レイドに話すのは仕方がなかった。
それがスザナの仕事だから。
大聖堂のキャンセルが伝われば、キャメロンとの話が破談になったことはエディに知られていただろうけれど……
レイドは元々は、エディの護衛だ。
それをお別れの日、彼はわたしにレイドを預けると言った。
既に、陛下と父には許しを得ているとエディは続けた。
「レイドに、僕の代わりにシンディを守れと命じた」
新たな任務を与えられたレイドの表向きの顔は、ハミルトンの執事。
彼の妹のスザナは、わたしの中等学校入学に合わせて、侍女としてハミルトンにやって来た。
彼女は実家で訓練も受けていて、男性のレイドでは常にわたしに張り付いているわけにはいかないから、これもまたエディが送り込んで来たのだった。
彼等の給与は、現在もエディが個人資産から支払っているとスザナ本人から聞いた。
有能なレイドは執事の仕事も難なくこなし、わたしの身辺に目を配り、そして何か起こればエディに会って、報告する。
エディとは約束通り、あれから一度も顔を合わせてもいないし、手紙のやり取りもしていない。
エディは定期的にではないが、レイドに会ってわたしの近況を把握しているようだけれど、わたしにはエディの情報は何ら知らされていなかった。
そんな職務に忠実なレイドとスザナは、わたしがキャメロンと婚約した後はハミルトンを離れる予定になっていたけれど。
来年、エディがこの国を離れるから。
レイドは付いて行きたいだろうと思い、早く解放してあげたかったのに。
これでまた、しばらくは共に居ることになってしまったので、彼等には本当に心苦しく思う。
◇◇◇
「思っていたより、力のある目をしているから安心した」
父が幼い頃と同じように、わたしの頭を撫でた。
こんな風に触れられたのは、随分久し振りだ。
わたしが失った恋と友情を惜しんで、涙に暮れていると父には思われていたの?
残念ながら、キャメロンとアイリスのせいで泣くのは一度で充分。
キャメロンとは政略ではないが、恋愛からの縁でもない。
だからこそ、話が纏まるのが速かった。
わたしの結婚相手は好きだという気持ちだけで選ばないと、彼を紹介してくれたアイリスにも、きちんと伝えていた。
それなのに、どうして彼女もわたしに黙っていたのだろう。
キャメロンが見せる明るさや優しさを好ましく思い、彼に甘えたことも、彼と幸せになりたいと思ったことも事実だけれど。
もっと早い時点で、アイリスがキャメロンを好きだと正直に打ち明けてくれたなら。
こんな形で裏切られなければ、わたしは身を引いたのに。
知らない間に、当て馬から想い合うふたりを引き裂く悪役になるところだったと考えれば。
確かにショックは受けたけれど、婚約する前で良かったとつくづく思う。
こんな、わたしの可愛げの無いところは誰に似たのやら。
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