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3 物事には順番がある◆◆シンシア
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「ねぇ教えてくださる、アイリス・マーフィー様。
貴女、今でもオースティン・グローバー様が好きなんじゃなかったの?
どうして、単なる幼馴染みだと言っていた、あの御方の弟とキスしてるの?」
『今でもオースティン・グローバー様が好き』
『単なる幼馴染みだと言っていた、あの御方の弟』
わざと、そう口にした。
子供の頃初めて会った時にキャメロンのお兄様であるオースティン様に一目惚れして、今でもずっと片想いをしていると。
わたしはアイリスから打ち明けられていた。
キャメロン本人も、アイリスにとって自分のお兄様がずっとそんな存在だったと知っていただろうけれど。
貴方が今抱き締めていた幼馴染みは、わたしにも貴方のお兄様の事をそう説明していたのよ、と聞かせたくて。
案の定それをキャメロンの目の前で、改めて彼に向かって聞かせたくなかったアイリスは俯いていた顔を上げ、わたしを一瞬睨んだ。
一方、クズの方はわたしの右腕を掴んだ。
「だから、シンシア!
アイリスじゃなくて、俺を責めろ、って!」
今朝も始業前に会った時に、わたしに甘い言葉を囁いていた二枚舌男とはもう話したくもなかったが、身体に触れられたから仕方なくその汚れた手を払い除けた。
「その手で、わたしの身体に触れないでいただけますか。
穢らわしくて吐き気がします。
責めているのではなく、彼女に事情を尋ねているのです。
わたしは冷静に対処しようとしています」
「……」
「物事には順番がありますでしょう?
貴方達はふたり、わたしはひとり。
一度にふたりはお相手出来ません。
ですから先に、彼はお薦めだと言いながら貴方みたいな男を、わたしに紹介してきたマーフィー様にお尋ねしているのです。
グローバー様のご事情は別の時間にお聞きしますから、今は席を外してくださいますか?」
名前ではなく、グローバーと姓で呼ばれて、クズが黙った。
他人行儀な物言いと『穢らわしくて吐き気がする』と言われたことでショックを受けたのかもしれないが、こんな密会現場を見せられたわたしが、おとなしく言うことを聞くとでも思っていたのだろうか。
舐めないで欲しい、わたしはハミルトンだ。
何ひとつ、誰ひとり残らなくなっても。
この手から離れていくものにすがったりしない。
「そういうわけなので、今日はグローバー様のお話はうかがえません。
父と相談して、ハミルトンからサザーランド侯爵家へ後日連絡を差し上げますので、お待ちくださいませ」
正式な婚約は結んではいないが、お互いの親同士も顔合わせは済ませていて、婚姻についての取り決めも話し合っているところだ。
わたし達ふたりだけで、この場で別れる別れないの話をする段階は過ぎている。
秋に予定されていた婚約式の式場も既に押さえていたから、そのキャンセルによって起こるであろう問題も想像出来て……わたし達の破談はそんなに簡単には片付かないだろう。
わざと爵位名を出し、下げたくもない頭を丁寧に下げた。
わたしは伯爵家の娘で、キャメロンは侯爵令息だ。
学院内では親の爵位は関係なしとされているが、それはあくまで建前。
友人でもない限り、生徒同士のその線引きはきちんとされている。
もう私達は友人でさえ、ない。
貴女、今でもオースティン・グローバー様が好きなんじゃなかったの?
どうして、単なる幼馴染みだと言っていた、あの御方の弟とキスしてるの?」
『今でもオースティン・グローバー様が好き』
『単なる幼馴染みだと言っていた、あの御方の弟』
わざと、そう口にした。
子供の頃初めて会った時にキャメロンのお兄様であるオースティン様に一目惚れして、今でもずっと片想いをしていると。
わたしはアイリスから打ち明けられていた。
キャメロン本人も、アイリスにとって自分のお兄様がずっとそんな存在だったと知っていただろうけれど。
貴方が今抱き締めていた幼馴染みは、わたしにも貴方のお兄様の事をそう説明していたのよ、と聞かせたくて。
案の定それをキャメロンの目の前で、改めて彼に向かって聞かせたくなかったアイリスは俯いていた顔を上げ、わたしを一瞬睨んだ。
一方、クズの方はわたしの右腕を掴んだ。
「だから、シンシア!
アイリスじゃなくて、俺を責めろ、って!」
今朝も始業前に会った時に、わたしに甘い言葉を囁いていた二枚舌男とはもう話したくもなかったが、身体に触れられたから仕方なくその汚れた手を払い除けた。
「その手で、わたしの身体に触れないでいただけますか。
穢らわしくて吐き気がします。
責めているのではなく、彼女に事情を尋ねているのです。
わたしは冷静に対処しようとしています」
「……」
「物事には順番がありますでしょう?
貴方達はふたり、わたしはひとり。
一度にふたりはお相手出来ません。
ですから先に、彼はお薦めだと言いながら貴方みたいな男を、わたしに紹介してきたマーフィー様にお尋ねしているのです。
グローバー様のご事情は別の時間にお聞きしますから、今は席を外してくださいますか?」
名前ではなく、グローバーと姓で呼ばれて、クズが黙った。
他人行儀な物言いと『穢らわしくて吐き気がする』と言われたことでショックを受けたのかもしれないが、こんな密会現場を見せられたわたしが、おとなしく言うことを聞くとでも思っていたのだろうか。
舐めないで欲しい、わたしはハミルトンだ。
何ひとつ、誰ひとり残らなくなっても。
この手から離れていくものにすがったりしない。
「そういうわけなので、今日はグローバー様のお話はうかがえません。
父と相談して、ハミルトンからサザーランド侯爵家へ後日連絡を差し上げますので、お待ちくださいませ」
正式な婚約は結んではいないが、お互いの親同士も顔合わせは済ませていて、婚姻についての取り決めも話し合っているところだ。
わたし達ふたりだけで、この場で別れる別れないの話をする段階は過ぎている。
秋に予定されていた婚約式の式場も既に押さえていたから、そのキャンセルによって起こるであろう問題も想像出来て……わたし達の破談はそんなに簡単には片付かないだろう。
わざと爵位名を出し、下げたくもない頭を丁寧に下げた。
わたしは伯爵家の娘で、キャメロンは侯爵令息だ。
学院内では親の爵位は関係なしとされているが、それはあくまで建前。
友人でもない限り、生徒同士のその線引きはきちんとされている。
もう私達は友人でさえ、ない。
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