年上幼馴染の一途な執着愛

青花美来

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第三章

鈍感

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*****

「真山さん、おはようございます」

「秋野さん! おはよう! 体調大丈夫だった?」

「はい、おかげさまですっかりよくなりました。先日はご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした」

「ううん、いいのいいの。秋野さんいっつも真面目だし仕事たくさん振っちゃってたから、きっと疲れちゃったんだろうねって皆心配してたくらいだよ。元気になって良かった」

「ありがとうございます」


月曜日、出勤して真山さんにお礼を告げた後、浅井さんの元へ行く。


「浅井さん」

「秋野さん、おはよう」

「おはようございます。あの、金曜日は大変ご迷惑をおかけしました。本当に助かりました。送っていただいただけじゃなくて飲み物とかプリンまで。ありがとうございました」

「全然、気にしないでいいよ。むしろ勝手にドアノブにかけてってごめんね。迷惑じゃなかった?」

「いえ、ありがたかったです。これ、お礼です」

「お礼? そんなの気にしなくていいのに」


浅井さんにお返しを渡すと、困ったような顔をしながらも


「ありがとう」


と受け取ってくれた。
日向に


"看病してくれてありがとう。無事に出勤できました"


とメッセージを送り、最近ゲットしたうさぎのスタンプも送ると、私も仕事を始める。
月曜日は発注や納品が多いためどうしても業務が多く忙しい。
日向にもお礼しないとなあ……。
そう思いつつも、時間がもったいなくてパソコンに集中した。


真山さんにはランチ代を私が払うことでお礼とさせてもらうことにした。


「そういうの別に気にしなくていいのに」

「だめです。こういうのはしっかりしておかないと。それに、部長から聞きました。真山さんが私の残した仕事全部捌いてくれたって」

「あぁ、あんなのいいのよ。困った時はお互い様でしょう?」

「ありがとうございます」


真山さんと一緒にパスタを食べていると、


「で? 例の彼とはあれからどんな感じなの?」


ニヤニヤした視線が正面から飛んでくる。


「いやぁ、それが……まだ返事はできてないんですけど……」

「けど?」

「風邪引いたって連絡したら来てくれて、金曜日から夜通し看病してくれたんです……」

「何それ!? めちゃくちゃ愛されてんじゃん!」


大興奮の真山さんが、根掘り葉掘り聞いてくる。
私も覚えている限りのことを話すと、


「それで付き合ってないとかなんなの? 生殺し状態じゃない! 早く返事しなさいよ」


とごもっともなことを言われる。
途中で日向からメッセージが来て、仕事終わりに電話することになってそれも真山さんにイジられた。
次はいつ会えるかな。そう思いながら会社に戻りマグカップを手に給湯室に向かうと、ばったり浅井さんと鉢合わせた。


「あれ、秋野さんもコーヒー?」

「はい」

「じゃあついでに淹れるよ、待ってて」

「すみません、ありがとうございます」


マグカップを渡すと、淹れたてのおいしそうなコーヒーが注がれた。


「この間の幼馴染って、男の人だったんだね」

「あぁ、はい。兄の親友なんです」

「そうなんだ。彼とは付き合ってるの?」

「え? あ……いや、付き合ってはいない……です」


結局まだ返事もできてないし。
早く会って言いたいのに。
そう思って首を横に振ると、浅井さんが私に向き直る。


「ふーん……じゃあ、まだ俺にも付け入る隙はあるよね? 秋野さんのこと口説いてもいい?」

「……え?」

「俺、結構前から秋野さんのこと、いいなって思ってたんだよね」


驚きすぎて、渡されたマグカップを落としそうになった。
浅井さんが、私のことを?
何かの間違いじゃなくて?


「え……えっと、え?」

「ははっ、動揺しすぎでしょ」

「だって、浅井さんが私のこと……え?」

「俺、どうでもいい子をわざわざ家まで送ったりしないよ」

「……」

「風邪引いてるからって、営業終わりに飲み物買って家まで届けるとか、普段なら絶対しない」

「それって……」


浅井さんは私の耳元に顔を近づける。


「今までもそれなりにアピールしてきたつもりなんだけどなあ……。秋野さん、鈍感すぎない? さすがに鈍すぎてイライラしてきたんだけど」


そして、私が硬直しているのをいいことに頬に手を添えた。


「秋野さんが今フリーなら、俺も頑張るから。だから、ちゃんと意識してよ」

「ちょ、浅井さん? やめてください……」

「いいじゃん。フリーなら口説いたって問題ないでしょ?」

「そういう問題じゃなくて……」


なんで、どうして。嫌だよ。
逃げたいのに。逃げなきゃいけないのに。絶対嫌なのに。


「浅井さん、待って、やめてくださいっ……」

「黙って」


ゆっくりと、確実に顔が近づいてきて。
日向……!
せめてもの抵抗で、目をぎゅっと瞑って手を浅井さんの顔の前に出した時。


「……さすがにその反応は傷付くなあ」

「……え……?」


困ったような言葉と共に手を取られたかと思うと、頬にひんやりとした柔らかい感触。


「……秋野さん、困らせてごめんね。でも、冗談とかじゃないから。少しは考えてくれると嬉しいよ」


ヒラヒラと手を振りながら去っていく浅井さん。
思わず頬を手で押さえて、立ちすくむ。


「なに……今、何が起こったの……?」


しばらく、そこから動くことができなかった。

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