年上幼馴染の一途な執着愛

青花美来

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第三章

看病-2

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──ふと、寝ながら咳き込んだ拍子に目が覚めた。
うっすらと開けた目。ぼやけた視界の中で、誰かが私の額に冷却シートを貼ってくれたのがわかる。
その後すぐに体温計が脇に差し込まれたのを感じた。


「……ったく、玄関の鍵くらい閉めろよ。来たのが俺じゃなかったらお前危なかったぞ……」


聞き慣れた声に、身体が無意識に反応する。


「ひ、なた……?」

「っと、ごめん、起こしたか?」


何度か瞬きをすると、そこには心配そうに私の顔を覗き込む日向の姿があった。


「いま、なんじ……?」

「夜の二十時」

「なんで、ひなたがここに……」

「お前からの連絡で仕事終わりに慌てて来たはいいけど、インターホン鳴らしても出ないし電話も出ないし、どうしようって思ってたら鍵開いてたから入らせてもらった」

「そっか……」


スーツ姿の日向を見て申し訳なくなる。


「ひなた、ごめんね。せっかくのやくそく、ダメにしちゃって……」

「んなのどうでもいいよ。メシくらいいつでも行けるし。それより、痛かったりつらいとこ無いか? 苦しいとかしんどいとか、寒いとか暑いとか」

「なんか……暑い」

「じゃあ熱は上がりきったみたいだな。痛いとこは?」

「だいじょぶ……」


ちょうど体温計も鳴ったらしく、それを見て日向はギョッとした顔をした。


「こりゃしんどいわな。本当は病院連れて行きたいとこだけど、もうやってねぇしな……」

「大丈夫だよ、寝てれば治ると思うから」

「大丈夫なわけあるか。今お前三十九度もあるんだぞ?今薬持ってくるから待ってろ」


え、そこまで上がったの?
久しぶりの高熱に驚きを隠せない。
日向は薬と一緒に買ってきてくれていたらしいゼリーも持ってきてくれて、身体を起こしてもらう。


「食べられそうか?」

「わかんないけど……何か食べないと」

「ん。待ってろ、今食べさせてやる」


日向は当たり前のようにゼリーを開けて、私に一口ずつ食べさせてくれた。


「ゆっくりでいいから」

「うん」


半分くらい食べたところでもうお腹いっぱいになり、薬を飲んでから日向の手を借りてメイクを落として歯磨きをする。


「それにしても、夕姫が熱出すなんて珍しいな」

「うん。先輩に言われるまで全然気付かなくて……会社の前で倒れそうになっちゃって、営業部の人に家まで送ってもらったの。次出勤したら謝らないと……」

「そうか、その人には謝罪だけじゃなくてちゃんとお礼も言っとけよ」

「え?」

「俺が来た時、玄関のドアにスポドリとかプリンとか色々入った袋ぶら下がってたから。多分その人だろう」


ほら、と見せられたコンビニの袋には、飲み物や軽めの食べ物がたくさん入っていた。
浅井さん、わざわざあの後買ってきてくれたのかな……?
今度菓子折りでも持って行かなきゃダメだな……。


「ま、なんにせよ今はゆっくり休んで治すことだけ考えろ。今日は金曜だし、土日で治せ」

「うん。わざわざきてくれてありがとう」

「ん。じゃあもう寝ろ。お前が寝るまでそばにいてやるから」

「ありがとう……」


私が眠った後日向が家に帰れるように、スペアの鍵を渡しておく。
それを受け取りつつも、日向は私が一人だと心細いのをわかってくれているのだろう。私が横になったのを確認してからベッドサイドに座って、私の手をぎゅっと握ってくれた。
目を閉じながらその手に擦り寄ると、頬に柔らかい感触がしてうっすら目を開ける。


「……おやすみ、夕姫」


その優しい声を聞いて、もう一度目を閉じた。




翌朝、目が覚めたのはお出汁の良い香りがしたからだった。


「ん……」


身体を伸ばしたら、頭がガンガンして唸る。
その声を聞いたのか、


「夕姫? 起きた?」


と日向がやってきた。


「ひなた……? あれ……? かえったんじゃ……」

「まさか。こんな病人一人置いて家で寝てられるかよ。途中で着替え取りに帰っただけで、悪いけどソファで仮眠させてもらったよ。ほら、飲め」


渡された麦茶を一口飲む。


「私なら大丈夫なのに……」

「うるさい。黙って俺に看病されてろ」

「はい……」


日向は本当に一度家に帰ったらしく、服装はスーツじゃなくラフなものに変わっていた。


「勝手にキッチン借りてお粥作ったんだけど食べられそうか?」

「うん、食べたい」


昨日よりも食欲が湧いてきたような気がする。
お出汁の香りはお粥のものだったのか。


「じゃあまず熱測って。汗もかいてるだろうから着替えてからな」

「うん」

「俺あっちでお粥用意してるから」


日向に言われるがまま着替えて、体温計で熱を測る。
顔もベタベタする気がする。熱測ったら洗いに行こう。


「ひなたー、三十七度二分ー」

「おー、下がってきたな、えらいえらい」

「顔洗ってくる」

「気を付けろよー」


適当に顔を洗って、日向の元へ戻る。
一人用の土鍋で作られたお粥は、卵で閉じてあっておいしそうな匂いが漂っていた。


「今お椀によそうから待ってろ」

「うん」

「はい」

「ありがとう」


お椀を受け取り、一口ずつ冷ましながらゆっくり食べ進める。
出汁が効いていてとてもおいしい。身体も温まるし、何よりもその優しい味わいに心が満たされる。


「おいしい」

「良かった。食べられるだけでいいから、たくさん食えよ」

「うん」


日向も向かいに座り、コンビニで買ってきたであろうおにぎりを食べている。
私にはこんなに丁寧にご飯を作ってくれたのに、肝心の日向のご飯がコンビニだなんて申し訳ない。


「……日向もお粥食べて」

「俺はいいよ。夕姫が食べな」


そんな私の思いも察してくれているのか、優しく頭を撫でてくれた。


「日向も忙しいのにごめんね。いろいろありがとう」

「いや、俺が夕姫と一緒にいたかっただけだし。気にすんな。看病とは言え、夕姫の顔見れて良かったよ」

「……ありがとう」


日向は結局その後の後片付けまでしてくれて、私は寝ろと言われてしまいまた布団に逆戻りすることに。
次に起きると日向の姿は無く、


"また明日来るからゆっくりしてろ。食べ物は冷蔵庫の中に入ってるから無理せず食べられるだけ食べるように。他に必要なものがあったら連絡して"


というメモに書かれた手紙が置いてあって、心が温まる。
本当なら昨日、告白の返事をするはずだったのに。
日向の優しさに、私がさらに心を奪われただけだったのがなんとも悔しい。
そんな日向の看病のおかげか、熱はほとんど下がったようで身体が軽い。
浅井さんにももちろんお礼しなきゃだけど、日向にもちゃんとお礼しないと。


「だけど、明日まで会えないのか……」


ついさっきまで会っていたのに、もう会いたいだなんて。


「早く明日にならないかな……」


そう、願わずにはいられない。



手紙に書いてあったとおり、日向は翌朝すぐにやってきた。


「日向、おはよ」

「夕姫、もう動いて大丈夫か?」

「うん。日向のおかげでほとんど治ったよ。明日からは普通に会社行けそう」

「そうか、良かった」


聞けば日向もまだ朝ごはんを食べていないと言うから、お礼も兼ねて料理をする。
と言っても冷蔵庫の中はゼリーやプリンだらけのため、お米と納豆と卵焼きにお味噌汁というなんとも手作り感の無い簡単なご飯。
だけど日向は


「嬉しい。ありがとう」


と言ってくれて、一緒に食べる朝ごはんは格別においしかった。
私が元気になったのを見届けたからか、日向は昼前には


「実は急ぎの案件が入ってこれから出勤なんだ。ごめんな、また連絡するから」


と言って慌ただしく出ていってしまった。
そんな時にわざわざ朝から家まで顔を見に来てくれたのかと思うと、嬉しくて泣けてきそうだ。
もしかしたら昨日も仕事で帰ったのかもしれない。

日向の優しさが、ただただ嬉しい。
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