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第32話  気絶からの爆睡

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思いもよらない借金に頭を抱えながらも今日はナナと一緒に朝から厨房の一角を貸してもらって朝から軽食作り。

サーディスに頼まれていた焼き畑の日である。


「フフフ。腕が鳴りますキンコンカーン!」

「お嬢様、それ、腕じゃなくて鐘です」

「ナナ、今は音読みで ”かね” は禁句よ」

「あ、そうでしたね。お嬢様、かなり堪えてますね」

「まぁね。でも今日はそんな事を忘れて思いっきりやるわよ。また新たな秘儀が炸裂するわ」

「今度のネーミングも私の発案ですか?変更可能ならしたいんですけど」

「大丈夫。秘密にしといてあげる」

「すぐ言っちゃう癖に~!!」

吠えるナナに頼んでバスケットにサンドウィッチを詰めて貰うと丁度サーディスが「まだか?」と呼びにやってきた。

馬車に飛び乗り、今日はもう今日中には帰れないと伝えているがかなり遠い所まで出かける。

ガタガタと馬車に揺られて途中の休憩も挟んで4時間。
腰の方がガタガタになりそうだったが、到着した場所は枯草が一面に広がる場所だった。

「わぁ。地平線も見えそうですね。お嬢様。あそこ!何かありますよ」

ナナが指さす方向にはかなり距離があるが建物があるようにも見えた。

「あれが鶏舎だ」とサーディスが教えてくれる。

「え?もしかしてここって?!」

まさかと思ったが鶏舎のガーデンバードに食べさせるトウモロコシや大麦を育てる畑が今、ルビーの立っている場所だった。

「大当たり。ここで育てた作物は全て鶏舎のガーデンバードの胃袋に入るんだ。しっかりやってくれよ」

本来はここに鶏舎を建ててガーデンバードを放し飼いにするはずだったが、川が近い。大雨で氾濫をした時に水没する可能性があったので場所を入れ替えたのだという。

鶏舎が遠くに見えるのはそちらは嵩上げをして地盤面そのものが18m高いので見えているのだとサーディスは言う。同じ高さだと本当に地平線が見えたんじゃないか?ルビーとナナは同じことを考えてしまった。

「じゃぁ行くわよぉ!!」

サーディスとナナ、そして御者たちはルビーが「ここはセーフティゾーン」と指定した個所に下がった。

ルビーは大きく深呼吸をして胸いっぱいに空気を吸い込み、両手を空に向かってあげた。

「あれ?どっちだっけ?」

ルビーはナナに問う。

「ナナ、バーニーだったっけ?」

「お嬢様、それウサちゃんです。バーニ―じゃなくてバーニングです」

「あ、そうだった。ありがと」

こほん。一つ咳ばらいをしてルビーは再度息を吸い込み両手をあげる。

「バーニンッ(グ)」

ルビーの挙げた手から火球が上空に向かってキュルキュル…空気を裂く音を立てて昇っていく。ハッキリ言ってナナの考えてくれたネーミングは全く必要がない。実はルビーは無詠唱型の魔法使いである。

しかし、なんとなくそれっぽいので発声するだけである。

「ファイヤーッ!!」

ルビーの声と同時に今度は上空にブワァっと広がって周囲の枯草から煙が立ち上がり始めた。

燻ぶった枯草は次第に赤い炎を立ち上げて辺り一面を焼き尽くしていく。

「うわぁ…火って赤いかとおもったら青いのもあるんだぁ」

ナナがキャッキャと喜んでいるがセーフティゾーンにいるから出来る事であって燃えている炎の青い部分の温度は1万度超え。骨も残らない温度である。

ここまで温度を一気に上げるのは中途半端な温度で燃やすと有害物質のダイオキシンという物質が発生するからと、ルビーに「思いっきりやりたい」という願望があるから。

灰すら燃えてしまう温度になって5分。

「ナナっ!!ちゃんと見ててよ!」

「はいっ!お嬢様!」

掛け声をかけると今度はルビーが体全体を横に大きく振って再度空に手を翳し掛け声をかける。

「レインボー!ブリィィィーッジッ!!」

今度は先ほどの火球とは違って水の球がいくつも空に昇っていく。

パァン!!パァン!!

弾ける音と共に、周囲は霧に覆われて燃え盛っていた枯草が白い煙を上げていく。

「凄いな…ここまで一気に消火できるものなんだな」

サーディスが目を丸くするとナナが「ちょっと違いますよ」という。

「お嬢様が言うには物が燃えるのに必要なのは3つ。燃える物質、この場合は枯草。そして熱、この場合はお嬢様の火球からくる熱です。それから空気に含まれる酸素だそうです。この霧で温度を下げて発火点、着火点を下げるんです。それで熱が消えます。その上で更に細かい水滴で酸素を遮断するんだそうです。最後に燃える物質はもう灰になっているので燃えるものが無くなる。ここで魔法を終えれば…ほらっ!!」

ナナが空を指さすと白い煙が消えた向こうに大きな虹が何本もかかっていた。


「うわぁ…こんなに一度に沢山の虹なんて初めてみました!!」

御者は身を乗り出して空を見上げる。
サーディスもこんな幻想的な光景を見たのは生まれて初めてだった。

「ナナ!見られたっ?!」

「見えてますよぉ!!お嬢様!!ブラボォ!!ハラショー!!」

「良かったぁ」

気を抜いたのか空に虹はまだかかっているけれどルビーの体がぐらりと傾く。サーディスは駆けだしてルビーの体と地面の間に自分の体を滑り込ませた。

細かい水滴だったのは本当のようでサーディスは水を弾く灰で体が思っていた以上に滑っていった。最後の水魔法で温度は下がっているが滑った摩擦なのか、それとも燃えたからか。サーディスは地面に触れている部分に熱さを感じたがそれどころではない。

「大丈夫かっ?!すまない。無茶をさせた!」

「サーディスさん…最高でしたぁ。気持ちよかったぁ」

「おいっ!ルビー!ルビーっ!!」

魔力を思いっきり放出したルビーはサーディスの腕の中で灰塗れになりながらもクークー。気絶からの爆睡に突入していたのだった。

「寝てるのか…ホンットに…寿命が縮んだぞ」

「あらら…お嬢様寝ちゃいましたか」

「寝ちゃいましたかじゃないだろう」

「だってお嬢様、魔法遊びした後はよく眠れるって言ってたし、思いっきり使ったら爆睡しちゃうかもって。あれ?サーディス様は聞いてない?聞いてない??こりゃまった失礼しましたぁ!」

サーディスは帰ったらナナを〆てやろう。
そう思ったが腕の中で幸せそうに眠るルビーを見て考えを改めた。

――ナナを〆る前に…無茶させるのはこれきりにしよう――
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