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第31話  だから1番は嫌なのよ

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「参ったわね…もう最悪」

サーディスやエルヴィー、プライムにセカンダリにハデスとコハマ侯爵家の義兄男性陣によって事業への出資者は多く、1人当たりの金額もそこそこにある。

なのでルビーの虎の子である150万ピピは手つかずのまま。
しかしそれを上回る額を支払わねばならないのでルビーは悩んだ。

これはルビー個人への支払い命令のようなものだからである。

「父上から口座に金を入れて貰ってるだろう?自由に使えばいいんだよ」

サーディスはそういうが、ルビーは使いたくない。

このところの様子を見るにルワード公爵からは不穏な雰囲気を感じるのだ。
エクセとコリンナに男児が生まれても何だかんだで公爵家を出るのを引き延ばしされそうだし、下手をするとコリンナが懐妊したら毒でも盛って子を流すんじゃないか。

恐ろしい想像だがそれもあり。
そんな風に思える空気をルワード公爵からは感じてしまう。

不思議なことに当初は公爵夫人からも「嫌われてるな~」と感じ取っていたが、今は好意的な空気を感じる。

――事業を勧めたからかなぁ――

以前から他人の考えは読めないけれど嫌悪されているか好かれているか、なんとなく空気は感じることが出来た。だからこそ他人なのにレストランの支配人に現金を預けていた。


ではコハマ侯爵なら安全そうかと言えばそうでもない。
このところ、義兄男性陣には会うので彼らからは感じないがコハマ侯爵も一癖も二癖もありそうな雰囲気は感じ取っていた。

だから、死んだことになりコハマ侯爵家に戻ってほとぼりが冷めた頃に平民として生きていく事になった時のために金は稼いでおきたかったし、コハマ侯爵が口座を開設した時に送金した金に手を付けるとそれが足枷になりそうな気がしていたのだ。


「はぁ…そろそろ鶏舎も棟上だというのに最悪だわ」

時間がかかるのは棟上まで。川の近くにあるので地盤面を嵩上げした上に杭も打ち、強固な造りにしたので骨組みが出来るまでが長い。壁や屋根などは1か月ほどで施工が終わってしまう。

鶏舎が出来ればガーデンバードも運ばれてくる。ノーマル卵になるが初年度の売り上げは見込めているのでウハウハだったはず。

そうなれば「利息も揃えた!もってきな!」と払えるだろうが、払ってやりたいとも思えない。


「こんなところで躓くなんて。ほんと最悪!」

「お嬢様、家族なんて千差万別。ウチも相当ですがお嬢様には敵いません。ワースト1位です」

「ヤメテ…だから1番は嫌なのよ」

ナナの淹れてくれたお茶を飲んで長い溜息を吐くものの、回避する手段がない。
今更「貸さなかったら」と言っても仕方がない。アジメストの授業料だと解っていて金を貸したルビーの落ち度である。

しかしベロリと舐めて数えていたあの金はどうしたんだろう?ふと考えるがアジメストの旅行代と元両親の豪遊に消えたのだろうと思う事にした。


「ナナ、手紙を書くわ。2通分用意してくれる?」

「はい。どこに出すんですが?」

「学問所。それから裁判院よ」

放っておけばルビーの財産が差し押さえられてそれで終わるのだが、そうすると既にコハマ侯爵家からルワード公爵家にルビーの籍は移っているのでルワード公爵家に迷惑が掛かってしまう。

エクセとの初夜の約束でルワード公爵家の家名は出さない事は言われていた。
良い事ならまだしも借金でしかも訴えられているのだから早く手を打たないといけない。

この事でエクセに足元を掬われるような事になっては堪ったものじゃない。

「裁判院は判りますけど…支払う気はあるけど今すぐは無理ってことですよね」

「そう。放っておくと強制執行の対象になっちゃうから」

「でも、学問所は?どうしてです?」

「アジメストを退学させてもらうの。支払いの延期をしてもらう決定が下りたら学問所だってもう1期在籍させるかも知れないでしょう?支払うのはここまでと学問所にも線引きをしておきたいの」


ルビーが警戒をしたのは学問所でアジメストが在籍をする間、学問所を介して更に何かを購入したりすることだった。

「取れるところから回収する」のは取り立ての基本中の基本。

アジメストは学びたいかも知れないが、もう他人であるルビーがこれ以上骨を折ってやる義理は何処にもない。

本当にやる気があれば特待生になっていただろうし、特待生だったらこんな事態になっても授業料が免除なのだから訴えられることもなく卒業出来たはずなのだ。

血を分けた姉妹だとは言え、アジメストとの思い出も良いものがない。
あったとしてもせいぜい自我が芽生える前の数年で、姉よりも自分の方が可愛がられていると自覚した時からアジメストはルビーの事を良くて使用人、通常で奴隷のように見下していた。

今の自分が成功しているとは思わないが、もしも「姉なのに」と言われるのなら引導を渡してやるのも姉の務めだろう。ルビーはそう思い、ペンを走らせた。
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