旦那様に離縁をつきつけたら

cyaru

文字の大きさ
上 下
48 / 56

なにもない部屋

しおりを挟む
侯爵家からの使者は以前と変わらぬ対応でシャロンを
馬車に乗せて侯爵家に向かう。

向かいには侯爵家の侍女が目を閉じて座っている。
今までは天気の話や侯爵家や伯爵家のこんな花が咲いたなど
たわいもない会話しかしたことがない。
だがシャロンは伯爵家に籠っていた期間、
外の情報を全く知らない。侯爵からも手紙の1通もなかったのだ。

ーー籠っていろとは言われたけど・・ーー

「あの…」
「はい」

シャロンは言葉が出ない。何を話せばよいのかわからないのだ。
侯爵家でもシリウスの周りでみたのはごく一部である。
この侍女も馬車を降りると一礼して持ち場に戻るのだ。
聞いても良い事なのかが判らず、言葉に詰まる。

「お嬢様、どうされました?」
「あ、いえ…しばらくお伺いしてなかったものですから
侯爵様はお元気‥‥かと思いまして」

慌てて取り繕うが失敗したと感じる。
もし何かしら病気であれば使者を寄越すことはないからだ。
呆れているのではないかしら?とシャロンは顔を真っ赤にした。

「侯爵様はいつも通りでございます。
ここのところ、少々忙しくされておりましたが
昨日隣国から戻られて、お嬢様をお呼びするように仰せつかりました」

ーー隣国?あぁ…そう言えばお姉様が西の国に嫁がれたのだわーー

「まぁ、ご帰国早々ですのね。お手間を取らせますわ」
「いえ、侯爵様のご要望ですので」

これ以上は私に何も聞くなとばかりに侍女は会話を止めた。
仕方ないとシャロンは小窓の景色を眺める。

侯爵家に到着すると、ここでも以前と同じようにドレーユ侯爵が
シャロンを玄関先で出迎える。

「ご無沙汰しておりました。お変わりありませんでしたか?」
「いえ、こちらこそご無沙汰を致しておりましたわ。
侯爵様、すこしお痩せになられました?」

社交辞令のような会話をして屋敷の中に招き入れられる。

そのままシリウスの眠る部屋に通されるのかと歩みを進めると
少し手前の部屋の扉の前でドレーユ侯爵は歩みを止める。

「今日は、こちらで少しお話を致しましょう」
「は、はい」

嫌ですなどとは言えないので素直に従うシャロンは
初めて見る部屋に驚く。
確かに、この部屋に入るのは初めてではあるがそのような驚きではない。
学園生時代には何人かの女生徒の屋敷に遊びに行った事がある。
公爵家は流石に行った事がないが、同格の伯爵家の他に子爵家、男爵家、
騎士伯の屋敷だが、このような部屋は見たことがない。

大きさとしては、屋敷で行う夜会が十分にできるほどの広さであるが
その部屋のある物は、窓、カーテン、そして4人掛けのテーブルセットのみ。
何もない空間にポツンと置かれているテーブルセットが
奇妙な雰囲気をだしていた。

「どうぞ、お座りください」
「え、えぇ…」

テーブルに座り、壁や天井を眺めるも何もない空間だとしか思えない。
季節も冬なので何もない事でより冷気を感じる。

「ゆっくりしてください」

ーーゆっくり…というか、むしろ不安を煽る部屋だわーー

膝に置いた両手をグッと握りしめる。
そんなシャロンを横目にドレーユ侯爵は小さな箱を
テーブルにそっと置くと、着席をした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

二度目の恋

豆狸
恋愛
私の子がいなくなって半年と少し。 王都へ行っていた夫が、久しぶりに伯爵領へと戻ってきました。 満面の笑みを浮かべた彼の後ろには、ヴィエイラ侯爵令息の未亡人が赤毛の子どもを抱いて立っています。彼女は、彼がずっと想ってきた女性です。 ※上記でわかる通り子どもに関するセンシティブな内容があります。

【完結】旦那に愛人がいると知ってから

よどら文鳥
恋愛
 私(ジュリアーナ)は旦那のことをヒーローだと思っている。だからこそどんなに性格が変わってしまっても、いつの日か優しかった旦那に戻ることを願って今もなお愛している。  だが、私の気持ちなどお構いなく、旦那からの容赦ない暴言は絶えない。当然だが、私のことを愛してはくれていないのだろう。  それでも好きでいられる思い出があったから耐えてきた。  だが、偶然にも旦那が他の女と腕を組んでいる姿を目撃してしまった。 「……あの女、誰……!?」  この事件がきっかけで、私の大事にしていた思い出までもが崩れていく。  だが、今までの苦しい日々から解放される試練でもあった。 ※前半が暗すぎるので、明るくなってくるところまで一気に更新しました。

寡黙な貴方は今も彼女を想う

MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。 ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。 シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。 言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。 ※設定はゆるいです。 ※溺愛タグ追加しました。

【完結】記憶を失くした貴方には、わたし達家族は要らないようです

たろ
恋愛
騎士であった夫が突然川に落ちて死んだと聞かされたラフェ。 お腹には赤ちゃんがいることが分かったばかりなのに。 これからどうやって暮らしていけばいいのか…… 子供と二人で何とか頑張って暮らし始めたのに…… そして………

旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。

アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。 今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。 私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。 これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

もういいです、離婚しましょう。

杉本凪咲
恋愛
愛する夫は、私ではない女性を抱いていた。 どうやら二人は半年前から関係を結んでいるらしい。 夫に愛想が尽きた私は離婚を告げる。

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

処理中です...