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第36話 ゼウスの夢
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「うっわぁ!お姉ちゃん。見て!空に刺さってるよ」
「ゼウス。上ばかり見てないで。転ぶわ」
王都に到着をしたコーディリアは見るもの全てに目を見張るゼウスの手をしっかり握っていた。うっかり手を離してしまうと空の雲の如くどこに流れていくか解らない。
プロテウスが肩車をしていたのだが、高い位置から色々と見えるのでゼウスは過呼吸を起こしそうになるくらい興奮してしまったため、歩かせているのだ。
王都にはオベロンも一緒。あと少しでウーラヌス領だったがこの先の事業の事を考えればコーディリアと共にネプトヌス公爵家に顔を出した方が良いとの判断をした。
河原でプロテウスを治療するにあたり、オベロンも力を貸した。
オベロンもコーディリアほどではないにしても治癒に似た力がある。亡くなったウーラヌス伯爵の家系には同じ加護を持つ者が多く生まれているので系統なのだろう。
しかしオベロンの力は緩やかでどちらかと言えば衝撃波で粉砕をした後の修復が主。
「観念なさいませ。手を当てるのはお兄様もしてくださいますから」
激痛に耐えながらプロテウスも「オベロン殿がするのなら」とやっとシャツを脱いでくれた。尤もオベロンも手伝うけれど衝撃波を与えるのはコーディリアなので「話が違う!」と戦闘の痕跡が残る体を半泣きになって曝け出してはいたのだが。
ネプトヌス公爵家の門をくぐるとゼウスには緊張が見られた。
あんなに王都の街のあちこちを見て燥いでいたのにまるで借りてきた猫。
最上の来客を招き入れる応接室に通されるとゼウスはカチコチになって小さく震えた。
「どうしよう。僕…ご挨拶出来る自信がないよ。おじさん、もう一度練習していいかな」
「大丈夫だ。ゼウスは十分練習もしたじゃないか。怖がることは何もないよ」
ガチャリと扉が開き、ネプトヌス公爵夫妻が入ってくるとゼウスは緊張からバっと立ち上がり突然挨拶を始めた。
「こっこんにちは!ウーラヌス領からちまっ…きましたゼウスですっ。一生懸命勉強する事を約束しまっす!」
「ゼウス、まだよ。先にご挨拶をされてから、よ」
「あ…どうしよう…間違っちゃったよ」
ゼウスの目に涙がぶわっと溢れたが、ネプトヌス公爵が「元気がいいなぁ」と言いながら向かいに陣取り、身を乗り出してゼウスの頭をわしゃわしゃと撫でた。
「この年齢なら元気であることが一番だ。どうだ。ゼウス。何か面白いものは見つけられたか?」
「はいっ!お城の塔が空にササってましたっ!」
「そうか。早速1つ見つけたな。うん。いい子だ」
目上の者から声をかけられる前に話をすると咎められるものだが、ネプトヌス公爵はそんな事は「どうでもいい事だ」と笑い飛ばし、ゼウスの挨拶が気に入った!と褒めまくる。
――プロテウス様と同じで褒めて伸ばす人なんだわ――
夫人も「小さい子、大好き」ともう大昔になってしまった育児がもう一度出来ると大喜びでゼウスを迎えてくれて、ゼウスのために菓子を作らせたとテーブル一杯に菓子を運び込ませる。
「うわぁ‥お姉ちゃん。このキャンディ虹よりも色がいっぱいある」
「本当。綺麗ね。食べるのが勿体ないわ」
「まぁ!気に入ってくれた?ゼウスは何色を食べてみたいかしら」
「ぼ、僕…黄色かな」
「良いわよ、では黄色からどうぞ♡どんな味か教えてくれると嬉しいわ」
キャンディを1つ口の中に放り込むと「甘い!」ゼウスは頬に手を添えてキャンディの甘さを堪能する。
大人の難しい話を始める前にはすっかり打ち解けて、庭で遊んで良いと言われると喜んで庭に飛び出て行った。番犬を見つけると犬と一緒に庭を走り回る。
「子供の順応力って凄いな。あの番犬、俺には全然懐いてくれないんだけど」
「プロテウスは屋敷にいないからですよ。どこの大型獣が来たのかと警戒もされてしまうでしょうに」
庭で番犬と一緒に走り回るゼウスを横目で見ながら、コーディリアはゼウスの教育計画の説明を受けた。
「先ずは慣れさせることから。身近なもの、椅子やテーブルなどがどんな文字で書かれているのかなどを覚え、次に書き方。その後はどんどん言葉を覚えていく、そんな段階を踏みたいと思っていますわ」
「母上、ゼウスは本を読みたいと思うんだ。興味のある本を教本としてはどうだろう。年齢的に最初は挿絵が多い本になるだろうが、意外と図鑑の類は面白がってより興味を高めるかも知れない」
「そうね。ゼウスがどの分野に興味を持っているかはとても大事だわ。どうしても大人には遠慮をしてしまうからそこもゆっくりと興味を掘り下げつつ…で確認をしながら進める事にしましょう」
コーディリアが考えていた以上にゼウスには良い教育を与えて貰えそうだと判る。
――有難いわ。領だとここまでは出来なかったでしょうし――
プロテウスがそっとコーディリアに耳打ちをしてくれた。
「ここだけの話だが、ゼウスは魔獣専門の獣医になりたいらしいぞ」
「そうなんですか?!」
それはコーディリアも初耳だった。
「ゼウスはコーディリア殿のように人は癒せないが、動物や治療が必要ないと殺処分される魔獣を救いたいと言ってたよ。ちゃんと背中を見て育ってくれたんだな」
「ゼウスったら…」
「王都から領に帰るときは大好物のソーセージ、作ってやらないとな」
――プロテウス様、それ禁句――
目の前で仲良くひそひそ話をしてしまった2人。
ネプトヌス公爵夫人がボソッと言葉を漏らした。
「フフ♡今日は熱いわね」
コーディリアはハッと気が付き、勘違いを誘引してしまった事を悟ったのだった。
「ゼウス。上ばかり見てないで。転ぶわ」
王都に到着をしたコーディリアは見るもの全てに目を見張るゼウスの手をしっかり握っていた。うっかり手を離してしまうと空の雲の如くどこに流れていくか解らない。
プロテウスが肩車をしていたのだが、高い位置から色々と見えるのでゼウスは過呼吸を起こしそうになるくらい興奮してしまったため、歩かせているのだ。
王都にはオベロンも一緒。あと少しでウーラヌス領だったがこの先の事業の事を考えればコーディリアと共にネプトヌス公爵家に顔を出した方が良いとの判断をした。
河原でプロテウスを治療するにあたり、オベロンも力を貸した。
オベロンもコーディリアほどではないにしても治癒に似た力がある。亡くなったウーラヌス伯爵の家系には同じ加護を持つ者が多く生まれているので系統なのだろう。
しかしオベロンの力は緩やかでどちらかと言えば衝撃波で粉砕をした後の修復が主。
「観念なさいませ。手を当てるのはお兄様もしてくださいますから」
激痛に耐えながらプロテウスも「オベロン殿がするのなら」とやっとシャツを脱いでくれた。尤もオベロンも手伝うけれど衝撃波を与えるのはコーディリアなので「話が違う!」と戦闘の痕跡が残る体を半泣きになって曝け出してはいたのだが。
ネプトヌス公爵家の門をくぐるとゼウスには緊張が見られた。
あんなに王都の街のあちこちを見て燥いでいたのにまるで借りてきた猫。
最上の来客を招き入れる応接室に通されるとゼウスはカチコチになって小さく震えた。
「どうしよう。僕…ご挨拶出来る自信がないよ。おじさん、もう一度練習していいかな」
「大丈夫だ。ゼウスは十分練習もしたじゃないか。怖がることは何もないよ」
ガチャリと扉が開き、ネプトヌス公爵夫妻が入ってくるとゼウスは緊張からバっと立ち上がり突然挨拶を始めた。
「こっこんにちは!ウーラヌス領からちまっ…きましたゼウスですっ。一生懸命勉強する事を約束しまっす!」
「ゼウス、まだよ。先にご挨拶をされてから、よ」
「あ…どうしよう…間違っちゃったよ」
ゼウスの目に涙がぶわっと溢れたが、ネプトヌス公爵が「元気がいいなぁ」と言いながら向かいに陣取り、身を乗り出してゼウスの頭をわしゃわしゃと撫でた。
「この年齢なら元気であることが一番だ。どうだ。ゼウス。何か面白いものは見つけられたか?」
「はいっ!お城の塔が空にササってましたっ!」
「そうか。早速1つ見つけたな。うん。いい子だ」
目上の者から声をかけられる前に話をすると咎められるものだが、ネプトヌス公爵はそんな事は「どうでもいい事だ」と笑い飛ばし、ゼウスの挨拶が気に入った!と褒めまくる。
――プロテウス様と同じで褒めて伸ばす人なんだわ――
夫人も「小さい子、大好き」ともう大昔になってしまった育児がもう一度出来ると大喜びでゼウスを迎えてくれて、ゼウスのために菓子を作らせたとテーブル一杯に菓子を運び込ませる。
「うわぁ‥お姉ちゃん。このキャンディ虹よりも色がいっぱいある」
「本当。綺麗ね。食べるのが勿体ないわ」
「まぁ!気に入ってくれた?ゼウスは何色を食べてみたいかしら」
「ぼ、僕…黄色かな」
「良いわよ、では黄色からどうぞ♡どんな味か教えてくれると嬉しいわ」
キャンディを1つ口の中に放り込むと「甘い!」ゼウスは頬に手を添えてキャンディの甘さを堪能する。
大人の難しい話を始める前にはすっかり打ち解けて、庭で遊んで良いと言われると喜んで庭に飛び出て行った。番犬を見つけると犬と一緒に庭を走り回る。
「子供の順応力って凄いな。あの番犬、俺には全然懐いてくれないんだけど」
「プロテウスは屋敷にいないからですよ。どこの大型獣が来たのかと警戒もされてしまうでしょうに」
庭で番犬と一緒に走り回るゼウスを横目で見ながら、コーディリアはゼウスの教育計画の説明を受けた。
「先ずは慣れさせることから。身近なもの、椅子やテーブルなどがどんな文字で書かれているのかなどを覚え、次に書き方。その後はどんどん言葉を覚えていく、そんな段階を踏みたいと思っていますわ」
「母上、ゼウスは本を読みたいと思うんだ。興味のある本を教本としてはどうだろう。年齢的に最初は挿絵が多い本になるだろうが、意外と図鑑の類は面白がってより興味を高めるかも知れない」
「そうね。ゼウスがどの分野に興味を持っているかはとても大事だわ。どうしても大人には遠慮をしてしまうからそこもゆっくりと興味を掘り下げつつ…で確認をしながら進める事にしましょう」
コーディリアが考えていた以上にゼウスには良い教育を与えて貰えそうだと判る。
――有難いわ。領だとここまでは出来なかったでしょうし――
プロテウスがそっとコーディリアに耳打ちをしてくれた。
「ここだけの話だが、ゼウスは魔獣専門の獣医になりたいらしいぞ」
「そうなんですか?!」
それはコーディリアも初耳だった。
「ゼウスはコーディリア殿のように人は癒せないが、動物や治療が必要ないと殺処分される魔獣を救いたいと言ってたよ。ちゃんと背中を見て育ってくれたんだな」
「ゼウスったら…」
「王都から領に帰るときは大好物のソーセージ、作ってやらないとな」
――プロテウス様、それ禁句――
目の前で仲良くひそひそ話をしてしまった2人。
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