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第六章 明かされた出自と失われた時間

29話 新しい能力の確認

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 眼が覚めるとそこは泊っている屋敷だった……。
さっきまでいた世界は夢か何かだったんじゃないかと思うけど、マリステラの事は思い出せるし母さんの事もしっかりと記憶にある。
だからあの出来事は真実だったと思うし、それにぼくの身体が悲鳴をあげているから現実で間違えは無いと思う。

「ぼくの身体を奪って動かしていた――か、あれ?――、ん?名前が言えない?」

 【天魔】シャルネ・ヘイルーンの名前を言おうとしたら口から名前が出ない。
もしかして名前が言えないように何かをされたのかもしれないけど、もしそうならマリステラの干渉だろうか。

「でも彼女は友好的だったからそんな事は無いとは思うけど……、でも確かマリステラの魔力特性に【精神干渉】があったから、親である――も同じ特性を持っているのかもしれない?、もしそうだったらぼくが彼女の名前を言えなくなっている事に何となく説明が付くのかも?、――が相手の精神面に影響を与える事で名前を言おうとすると言えなくなるのかもしれない、……という事はトレーディアスで出会ったスイもぼくと同じように精神に何らかの干渉を受けている?」

 もしそうだったら、自分の都合が悪い時は相手に干渉して今のぼくみたいな状況に出来たり記憶から消す事が出来る事になる。
特にシャルネは世界中を行商人として回っているから彼女の事を知らない人はいない……、そもそも何で世界を回っているんだろうか……。

「もしかして異世界から転移又は転生した人を探して捕まえる為だったりするのかな、ぼくの心器の能力の一つ【空間移動】のように――が欲しがっていた能力をその人が持っていたら、間違いなく干渉してくるだろうし今回のぼくみたいに身体を乗っ取って来てもおかしくない、それに【次元断】という能力や時空間に干渉する能力が必要という言葉……、後者に至ってはダリアが【時空間魔術】を使う事が出来るからそれが――に知られたらぼくの娘である彼女の身が危険だし、もし次元断を持っている人を見つける事があったら力尽くで手に入れようとしてきてもおかしくはない」

 多分だけどこの事をダート達に話そうとしたら言葉にする事が出来なくなる可能性がある以上は、この考えは誰にも言わずに今は心の内に秘めておくべきなんだろうけど、仮に伝えたとして上手く説明出来る自信がない。
それにマリステラに『ここで聞いた事は誰にも言わないで欲しい』と言う約束をしてるから、もしかしたら言おうとしたら余計な事まで言ってしまって彼女との約束を破ってしまう可能性がある。

「それを考えるとぼく自身が強くなってダリアを守るしかないんだろうけど、これ以上はどうしたら強くなれるのかな……、治癒術は正直これ以上伸びないだろうし、魔術に関してはこの国に来てから使える物が増えたからいいけど正直そこまで戦闘面では伸びてない」

 これはメセリーに帰ったら師匠に連絡を取って魔術の修行を付けて貰った方がいいのかもしれないけど、果たしてそれでダリアがシャルネに見つかる前に強くなれるんだろうか。
せめてぼくの心器にもっと強力な能力があったらと思いながら、ベッドから起き上がって床に立ち上がり手元に雪で出来た長杖を顕現させると何ていうか違和感がある。
体が異様に軽いというか自分の身体が以前よりも上手く使えてるようなそんな感覚が気持ち悪い。

「なんだこれ気持ち悪い、ぼくの身体が自分の物じゃないみたいだ……」

 それに心器の能力が増えている、ぼくの能力は【高速詠唱、多重発動、空間移動】だけだった筈なのに更に【自動迎撃、魔力暴走、怪力】が追加されている。

「もしかしてこれが母さんが言っていた何れ使えるようになる筈だった能力かな……、でも実際に使おうとすると何か頭の中に浮かび上がって来る物が?」

 自動迎撃を使おうと想像してみると自分の周囲を薄い魔力の膜が展開されてどんな能力か頭に浮かび上がる様に流れ込んで来るけど、どうやらこれは自分が攻撃だと思った相手の行動を自身の魔力属性で迎撃する能力らしい。
本来は攻撃用の魔術で反撃するらしいけど、ぼくの覚えている魔術だと迎撃に使える物は雪の壁を作って防御する位だから現状は【自動迎撃】というよりも【自動防御】と言った方が響きが良い気がする。

「魔力暴走は明らか危険な気がするから最後に使うとして……、次に怪力だけど」

 怪力を発動してみると頭の中に、【肉体強化適正+7、力+5】という謎の数値と【一時的限界到達と自壊】の不穏な言葉が浮かぶと同時に身体の内側から身体が壊れる音がする。
身体を動かそうとする度に骨が悲鳴をあげて折れそうになるし、筋肉が千切れるような嫌な感覚のせいで凄まじい痛みが全身を襲う。

「……っ!」

 口を開いて声を出そうとするだけで顔が激しい痛みに襲われる。
母さんはこの能力をどうやって使っていたんだと疑問に思うけど、まずは怪力を解除して治癒術で身体を治す方が先か……。
落ち着いて能力を解くとゆっくりと損傷した部分を治して行くけど、もしかしてあの人は怪力発動時は何らかの方法で常に治癒術を発動させ続けていたのかもしれない、そうじゃないとこんな危険な能力を使う事なんて出来ないと思う。
もしかしたら……、アキラさんから肉体強化と魔術を同時に使う方法を教わっているからそれを応用すれば出来るかもしれない?、でも能力を使う時はそっちに意識を集中してしまうから難しい気がする。

「でも確かジラルドは、心器の能力を使いながら戦技を使っていたから使えるのは間違いない……、彼の場合は感覚でやってそうだけどどうすればその感覚を覚える事が出来るのかな」

 トレーディアスで商王クラウズと戦った時の事を思い出すけど、そこはどうやればいいのかジラルドに聞いた方がいいのかもしれない。
まぁ、『やったら出来た』って反応しか貰えないと思うけど、そこからどんな風にやろうとしたのかを聞いてぼくなりに論理立てをしてみようか……

「じゃあ……次は最後の魔力暴走だけどって心器に魔力が吸い上げられてっ!?」

 魔力暴走を使おうとした瞬間に身体の魔力が際限無く心器に吸い上げられて行く。
そして頭の中に浮かんだ使い方は【全魔力消費】と言う不穏な言葉しか浮かばない、それに杖が白く輝いて雪の結晶が形作られていくのを見るとこれが成長しきった時がぼくの魔力を全部吸い終わったタイミング何だと思う。

「……成長が止まったけどこれどうすればいいんだろう、この状態だと心器を消す事も出来ないみたいだから何らかの魔術を使うしかないみたいだけど……、でもこれってこのまま雪の結晶を飛ばしても充分強力な攻撃になるんじゃ?、室内で使うとどうなるか分からないけどやるしかないか」

……完成した雪の結晶を窓に向けて打ち出すと、凄まじい轟音と共に壁を破壊して外へと飛んで行きそのまま村の外側へと消えてしまう。
あ、これやらかした奴だと思いながら魔力欠乏によって起きる身体のだるさに耐えていると外から『な、なに!?敵襲っ!?僕戦えないんだけど!?助けてミュラッカ様ーっ!』という知らない人の叫び声が部屋の外から聞こえるのだった。
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