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過去に遡って……
28話
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お母様の部屋の前に着くと、サイラスが扉をノックをする。
暫くして中から返事が返って来ると、中が見えない程度に開けて
「アデレード様、マリスお嬢様をお連れ致しました」
「……マリスが?何故かしら」
「どうしても、アデレード様とお話をしたい事があるとのことで……」
「そう、入りなさい」
お母様の言葉に従い室内に入る。
中は見た事も無い動物の頭蓋骨や、何に使うのか分からない薬品の入った瓶。
壁には不思議な像が飾られており、その前にある小さな祭壇には魔法陣の描かれた杯に並々と赤い液体が注がれていて……
「……お母様、お二人でお話をしたいので人払いをお願い出来ますか?」
「二人で?誰かに聞かれたくない話なのかしら?」
「はい、お母様と大事な話をしたいのです」
「……そう」
お母様が室内にいる使用人達に何も言わずに視線を向けると、虚ろな眼をした人達が頭をゆっくりと下げて規則的な動きで部屋の外に出て行く。
「……サイラス、あなたも出て行ってくれるかしら?」
「マリスあなた……使用人の名前を呼ぶなんて何を考えているのかしら?」
「あら?お母様、何かおかしいところがありましたか?」
「あなたは貴族よ?平民の名前を覚える必要は無いの、貴族には貴族の立場、平民には平民の在り方があるのよ?もうすぐ学園に行くのだから、自覚をお持ちなさい」
「……私はそれでも、使用人の名前を呼びます、お世話をしてくれる人に感謝の気持ちを伝えたいですもの」
お母様の目が睨むように細められる。
紫色の髪に、鋭い切れ長の目、逆らう事を許さないと言いたげなその表情は、不快感を露骨に露わにしていて、人生をやり直す前の私だったら間違いなくその空気の飲まれてしまっていただろう。
「あなたの事を思って言ってるのよ?……その考え方を直さないと、学園に行くようになったら苦労する事になるの、だから私の言う通りになさい」
「いいえ、これだけはお母様に言われても譲れません」
「……そう、そこまで言うのならもう何も言わないわ」
お母様が無言で視線を椅子に向ける。
話をしに来たなら座れと言う事だろうけど、机の上に置かれている呪術の触媒に使われているのだろう。
ゆっくりとした所作で椅子に腰かけると、お母様が座るのを待ちってから
「お母様、あの使用人の方達に何をしたの?」
「何をって私の娘らしからぬ事を言うのね、この部屋の事を記憶から消す為の呪術を使っているだけよ?使用人達の中では綺麗な部屋で私のお世話をしている偽の記憶が刷り込まれるだけで、何の危険性は無いわ……で?マリス、あなたはそんな事を話しに来たのかしら?」
「……いえ、お母様はご存じだと思いますが、昨日お父様と共にお忍びで町に行った際に、怪しい人達に会いまして」
お母様の眉がぴくっと動く。
そして口元が一瞬だけ歪んだかと思うと……
「あなた、何が言いたいのかしら?」
「そこには魔族がいて、商売で大金を得て懐があったまったから後は帰るだけみたいな事を言ってたのですけど」
「……もしかして私が魔族と繋がってるとでも言いたいのかしら?」
「飢餓のリプカという魔族が──」
魔族の名前を出した瞬間、お母様から気を抜いたら飲み込まれてしまいそうな程に、怒りを込めた魔力が溢れ出す。
「ふざけないでちょうだい、魔族と取引ですって?確かに私は異国の商人と行方不明になった娘を取り戻す為の、呪術の触媒を得る為の取引を行っているわ、けどね……汚らわしい魔族と手を組み道を踏み外すような事をするつもりはないの」
「……お母様?」
「確かにこの部屋には魔族が作った素材もあるわ?でもね、これは私の為ではなくあなたの姉の為にやっている事なのよ?年齢の割に大人びているあなたの事だから分かってくれるわよね?」
飢餓のリプカの名前を出しただけで……何時ものお母様とは違い、威圧感を感じる程に変わってしまった彼女を見て、思わず言葉が詰まる。
それにこの言い方だと……遠回しに認めてるように聞こえてしまう。
「だからね?マリス、あなたにお願いがあるの」
「お?お願い?」
お母様が室内に置かれている短剣を手に取ると、ゆっくりと近づいて来る。
それに合わせるかのように、身体が無意識に後ろに下がってしまうけど、近くにある扉は誰かが押さえているかのように閉まっていて、外に逃げる事が出来ない。
「祭壇の上に聖杯があるでしょう?あそこにあなたの血を入れて欲しいの」
「……お、おかあ……さま?」
「大事な娘を傷つけるのは心が痛むわ?でもね、これはマリスとあなたのお姉さんの為なのよ?分かってちょうだい」
「や、やめて……」
「ごめんね?マリス」
お母様が私の腕を掴むと、祭壇まで引っ張っていく。
そして指を聖杯と呼ばれた杯の上に持ってくると、短剣の先端を薬指に差す。
チクっとした痛みと共に、血が数滴落ちたかと思うと……中の液体が赤黒く輝き始め……
「あぁ……これで、これで居なくなった娘が帰って来る!やっと……この時を十年以上待ったのよ!あぁ、私の愛しい娘!」
像が音もなく崩れ方と思うと、何もない空間に黒い穴が開く。
そして……何処かへと繋がったのか徐々に何かが見えて来たかと思うと……
「……これは?」
お父様と同じ色の髪と眼をした、優し気な表情の女性が白髪で青い目を持つ男性と紅茶のような物を呑んでいる光景が見える。
「だ、誰よその男はっ!あなたはこのピュガトワール家の娘なのよ!?」
指を強く抑えて、止血をしながら見ると……更に二人と似た顔の人達が出て来たかと思うと、その中の一人が更に幼い子の手を取って歩いてくる。
そして……メイド服を着たそばかすが目立つ女性が、赤ん坊を抱っこして来たかと思うと、私のお姉様に当たるであろう人に優しく降ろす。
優しい顔をして抱きかかえる彼女はふと、何かに気付いたかのようにこちらを見ると……驚いたような表情を浮かべ、指先に魔力の光を灯し始めたかと思うと、何かを切るような仕草をした瞬間、宙に空いた穴が二つに切れて繋がりが断たれ、今までそこにあった光景が幻だったかのように消えてしまった。
「……な、何て事なの、わ、私の娘が、マリス!これはいったいどういう!?」
「お母様……、私はお姉様の事に会った事が無いから分からないわ……でも、行方不明になってから十年以上も経っているのだから、何処かで良い出会いがあって幸せになっててもおかしくないと思いま──」
「私とマリウスがあの時ちゃんとあの子を見て無かったばかりに……」
お母様が頭を掻きむしりながら、小さな声で何かを呟き始める。
すると……室内なのに何処からか風が吹いたかと思うと、一枚の紙が落ちて来て思わず反射的に手に取ると。
「……お母様、これ、お母様へのお手紙です」
「何よ!こんな時に誰からの手紙だって言うの!?」
「……【旧名ダート・アデリー・ピュルガトワール】って書いて──」
「わ、渡しなさい!」
お母様が声を荒げながら手紙を私から奪い取ると、目を血走らせながら声に出して読み始める。
『私は大事な人に出会い幸せな生活をしているので、どうかお母様は隣にいた私の妹だと思われる子を大切にしてあげてください、ちゃんとその子の事を見てあげてね?、大好きですお母様、そしてお父様、あなた達から貰った愛情を私は忘れません、どうかこれからも元気でいてくださいね、あ、後、今世界を越えて異世界に行くための魔術を作っているから、いつか完成したら夫と孫を見せに行くから長い気してね?』
中身はそんな温かみのある内容で、読み終わったお母様がその場に力なく崩れ落ちたかと思うと
「マリス、あなたには全て話すわ……、飢餓のジョーと取引をしたのは私、アデレード・レネ・ピュルガトワールよ」
「……お母様?」
「もはや隠しはしないわ、私は行方不明になったあの子を求め、あなたをあの子の変わりにしようとしたの、けどね?あなたを愛して無かったわけじゃないわ、あなたの事は母親として愛していたわ
「……私はお母様に、そう思われていた事は知ってます、けど……私の大好きなお母様は一人だけだから、大丈夫です」
「あぁ、私はこんな良い子を自分の思うようにしようとしていたのね……、ごめんなさいマリス、独りよがりな最低な母親でごめんなさい」
お母様が手紙をテーブルの上に置くと、私の事を力強く抱きしめる。
それはまるで、今までの事を謝罪するかのようで、声も出さずに無言で涙を流すお母様なりの気持ちの表れなのかもしれない。
「……私、マリウスに今回の事を話して来るわ」
「それなら私も一緒に……」
「いえ、あなたは来ないで大丈夫よ、これは私がしっかりと話さなければいけない事だもの」
お母様は覚悟を決めたような顔で立ち上がると、私を置いて部屋を出て行く。
そして一人残されると、この手紙を書いた人がどんな人なのだろうかと思いながら帰って来るのを待つことにした。
暫くして中から返事が返って来ると、中が見えない程度に開けて
「アデレード様、マリスお嬢様をお連れ致しました」
「……マリスが?何故かしら」
「どうしても、アデレード様とお話をしたい事があるとのことで……」
「そう、入りなさい」
お母様の言葉に従い室内に入る。
中は見た事も無い動物の頭蓋骨や、何に使うのか分からない薬品の入った瓶。
壁には不思議な像が飾られており、その前にある小さな祭壇には魔法陣の描かれた杯に並々と赤い液体が注がれていて……
「……お母様、お二人でお話をしたいので人払いをお願い出来ますか?」
「二人で?誰かに聞かれたくない話なのかしら?」
「はい、お母様と大事な話をしたいのです」
「……そう」
お母様が室内にいる使用人達に何も言わずに視線を向けると、虚ろな眼をした人達が頭をゆっくりと下げて規則的な動きで部屋の外に出て行く。
「……サイラス、あなたも出て行ってくれるかしら?」
「マリスあなた……使用人の名前を呼ぶなんて何を考えているのかしら?」
「あら?お母様、何かおかしいところがありましたか?」
「あなたは貴族よ?平民の名前を覚える必要は無いの、貴族には貴族の立場、平民には平民の在り方があるのよ?もうすぐ学園に行くのだから、自覚をお持ちなさい」
「……私はそれでも、使用人の名前を呼びます、お世話をしてくれる人に感謝の気持ちを伝えたいですもの」
お母様の目が睨むように細められる。
紫色の髪に、鋭い切れ長の目、逆らう事を許さないと言いたげなその表情は、不快感を露骨に露わにしていて、人生をやり直す前の私だったら間違いなくその空気の飲まれてしまっていただろう。
「あなたの事を思って言ってるのよ?……その考え方を直さないと、学園に行くようになったら苦労する事になるの、だから私の言う通りになさい」
「いいえ、これだけはお母様に言われても譲れません」
「……そう、そこまで言うのならもう何も言わないわ」
お母様が無言で視線を椅子に向ける。
話をしに来たなら座れと言う事だろうけど、机の上に置かれている呪術の触媒に使われているのだろう。
ゆっくりとした所作で椅子に腰かけると、お母様が座るのを待ちってから
「お母様、あの使用人の方達に何をしたの?」
「何をって私の娘らしからぬ事を言うのね、この部屋の事を記憶から消す為の呪術を使っているだけよ?使用人達の中では綺麗な部屋で私のお世話をしている偽の記憶が刷り込まれるだけで、何の危険性は無いわ……で?マリス、あなたはそんな事を話しに来たのかしら?」
「……いえ、お母様はご存じだと思いますが、昨日お父様と共にお忍びで町に行った際に、怪しい人達に会いまして」
お母様の眉がぴくっと動く。
そして口元が一瞬だけ歪んだかと思うと……
「あなた、何が言いたいのかしら?」
「そこには魔族がいて、商売で大金を得て懐があったまったから後は帰るだけみたいな事を言ってたのですけど」
「……もしかして私が魔族と繋がってるとでも言いたいのかしら?」
「飢餓のリプカという魔族が──」
魔族の名前を出した瞬間、お母様から気を抜いたら飲み込まれてしまいそうな程に、怒りを込めた魔力が溢れ出す。
「ふざけないでちょうだい、魔族と取引ですって?確かに私は異国の商人と行方不明になった娘を取り戻す為の、呪術の触媒を得る為の取引を行っているわ、けどね……汚らわしい魔族と手を組み道を踏み外すような事をするつもりはないの」
「……お母様?」
「確かにこの部屋には魔族が作った素材もあるわ?でもね、これは私の為ではなくあなたの姉の為にやっている事なのよ?年齢の割に大人びているあなたの事だから分かってくれるわよね?」
飢餓のリプカの名前を出しただけで……何時ものお母様とは違い、威圧感を感じる程に変わってしまった彼女を見て、思わず言葉が詰まる。
それにこの言い方だと……遠回しに認めてるように聞こえてしまう。
「だからね?マリス、あなたにお願いがあるの」
「お?お願い?」
お母様が室内に置かれている短剣を手に取ると、ゆっくりと近づいて来る。
それに合わせるかのように、身体が無意識に後ろに下がってしまうけど、近くにある扉は誰かが押さえているかのように閉まっていて、外に逃げる事が出来ない。
「祭壇の上に聖杯があるでしょう?あそこにあなたの血を入れて欲しいの」
「……お、おかあ……さま?」
「大事な娘を傷つけるのは心が痛むわ?でもね、これはマリスとあなたのお姉さんの為なのよ?分かってちょうだい」
「や、やめて……」
「ごめんね?マリス」
お母様が私の腕を掴むと、祭壇まで引っ張っていく。
そして指を聖杯と呼ばれた杯の上に持ってくると、短剣の先端を薬指に差す。
チクっとした痛みと共に、血が数滴落ちたかと思うと……中の液体が赤黒く輝き始め……
「あぁ……これで、これで居なくなった娘が帰って来る!やっと……この時を十年以上待ったのよ!あぁ、私の愛しい娘!」
像が音もなく崩れ方と思うと、何もない空間に黒い穴が開く。
そして……何処かへと繋がったのか徐々に何かが見えて来たかと思うと……
「……これは?」
お父様と同じ色の髪と眼をした、優し気な表情の女性が白髪で青い目を持つ男性と紅茶のような物を呑んでいる光景が見える。
「だ、誰よその男はっ!あなたはこのピュガトワール家の娘なのよ!?」
指を強く抑えて、止血をしながら見ると……更に二人と似た顔の人達が出て来たかと思うと、その中の一人が更に幼い子の手を取って歩いてくる。
そして……メイド服を着たそばかすが目立つ女性が、赤ん坊を抱っこして来たかと思うと、私のお姉様に当たるであろう人に優しく降ろす。
優しい顔をして抱きかかえる彼女はふと、何かに気付いたかのようにこちらを見ると……驚いたような表情を浮かべ、指先に魔力の光を灯し始めたかと思うと、何かを切るような仕草をした瞬間、宙に空いた穴が二つに切れて繋がりが断たれ、今までそこにあった光景が幻だったかのように消えてしまった。
「……な、何て事なの、わ、私の娘が、マリス!これはいったいどういう!?」
「お母様……、私はお姉様の事に会った事が無いから分からないわ……でも、行方不明になってから十年以上も経っているのだから、何処かで良い出会いがあって幸せになっててもおかしくないと思いま──」
「私とマリウスがあの時ちゃんとあの子を見て無かったばかりに……」
お母様が頭を掻きむしりながら、小さな声で何かを呟き始める。
すると……室内なのに何処からか風が吹いたかと思うと、一枚の紙が落ちて来て思わず反射的に手に取ると。
「……お母様、これ、お母様へのお手紙です」
「何よ!こんな時に誰からの手紙だって言うの!?」
「……【旧名ダート・アデリー・ピュルガトワール】って書いて──」
「わ、渡しなさい!」
お母様が声を荒げながら手紙を私から奪い取ると、目を血走らせながら声に出して読み始める。
『私は大事な人に出会い幸せな生活をしているので、どうかお母様は隣にいた私の妹だと思われる子を大切にしてあげてください、ちゃんとその子の事を見てあげてね?、大好きですお母様、そしてお父様、あなた達から貰った愛情を私は忘れません、どうかこれからも元気でいてくださいね、あ、後、今世界を越えて異世界に行くための魔術を作っているから、いつか完成したら夫と孫を見せに行くから長い気してね?』
中身はそんな温かみのある内容で、読み終わったお母様がその場に力なく崩れ落ちたかと思うと
「マリス、あなたには全て話すわ……、飢餓のジョーと取引をしたのは私、アデレード・レネ・ピュルガトワールよ」
「……お母様?」
「もはや隠しはしないわ、私は行方不明になったあの子を求め、あなたをあの子の変わりにしようとしたの、けどね?あなたを愛して無かったわけじゃないわ、あなたの事は母親として愛していたわ
「……私はお母様に、そう思われていた事は知ってます、けど……私の大好きなお母様は一人だけだから、大丈夫です」
「あぁ、私はこんな良い子を自分の思うようにしようとしていたのね……、ごめんなさいマリス、独りよがりな最低な母親でごめんなさい」
お母様が手紙をテーブルの上に置くと、私の事を力強く抱きしめる。
それはまるで、今までの事を謝罪するかのようで、声も出さずに無言で涙を流すお母様なりの気持ちの表れなのかもしれない。
「……私、マリウスに今回の事を話して来るわ」
「それなら私も一緒に……」
「いえ、あなたは来ないで大丈夫よ、これは私がしっかりと話さなければいけない事だもの」
お母様は覚悟を決めたような顔で立ち上がると、私を置いて部屋を出て行く。
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