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しおりを挟むよく竜次郎がしてくれるように、慈しむ手つきで膝の上の頭を撫でる。
昼下がりののんびりとした空気が心地よい。
時折通りかかる老夫婦や、ゆったりと走る自転車。遠くからは野球をする音が聞こえて、日常の音がとても優しく感じた。
ぽかぽかとやわらかい日差しを浴びていると眠くなってしまいそうだ。
それは、何なら寝ているのかと思われた竜次郎も同じ気持ちだったらしい。
「マジ寝するな、これ」
のっそりと身を起して、欠伸している竜次郎はとても眠そうだ。
「寝てもいいよ?」
「足の痺れたお前を責めるプレイってのもちょっと燃えるか」
「ええ…竜次郎の新たな性癖が」
「人をマニアック扱いするなよ」
「うーん…燃えるかな…。竜次郎、試してみていい?」
「やめろ」
やってみればわかるかと思ったが、そのプレイのための膝枕は許可されなかった。
するのはいいがされるのは燃えないようだ。
いつものやり取りをしていると、不意に竜次郎は、「お前に話しておかなきゃならねえことがある」と表情を引き締めた。
「………関白宣言?」
「ああ。お前を嫁にもらう前に……いや違うやめろ著作権使用料取られるだろ」
律儀に無責任発言を拾ってくれる竜次郎に水を差したことを謝りつつ、「聞かせて?」と居住まいを正した。
「この間、俺と日守でお前ん家に乗り込んだだろ」
「うん。俺のこと、助けに来てくれた」
感謝の眼差しを向けるが、竜次郎は眉を寄せて首を振った。
「そのせいでお前の母親はうちの関係者と見なされるようになった可能性がある」
既に万が一のために護衛をつけているという。
「そっか。うん、でも、それは……そうだよね」
言いにくそうに告げられたことは、竜次郎の祖父が狙われたことや、中尾のことを考えると、それは当然の用心と思えた。
湊はあの時竜次郎が助けに来てくれることを期待した。一人でなんとかなればとももちろん思っていたが、きっとどうにもならなかっただろう。
肝心な時に頼っておきながら、家族は巻き込まないで欲しいというのは都合がよすぎる。
全て自分が望んだ結果なのだから、覚悟はできていた。あんなことがあったばかりの母に更なるダメージを与えることになるかもしれないことは気がかりだが、彼女もまた竜次郎に助けられている。
「大丈夫。母さんには今度話しておくよ」
「…俺が話すか?」
気遣いに、首を振った。
「ううん、自分で話す。でも、そんなところにまで人を割いて大丈夫?負担になってないかな」
「それは心配しなくていい。護衛っつっても二十四時間見張ってるわけでもねえし」
守り方というのも色々あるようだ。
湊も、守られるばかりではなく何か竜次郎の役に立てればいいのにと思った。
「竜次郎」
「ん?」
「俺にできることがあるときは、何でも言ってね。……カチコミとかでは役に立たないかもしれないけど……」
具体的にどうという考えはなく、こんな言い方しかできない自分が少し嫌になる。
俯くと、優しい手がぽんぽんと頭を撫でる。
そっと視線を上げるとその先の竜次郎は、驚きの混じった感動を伝えてきた。
「お前はかっこいいな」
「ええ?突然どうしたの?」
今の情けない言動のどこがかっこよかったのかと目を瞠った。
「普通はこんなことに巻き込まれればびびったり引いたりするもんだ。…そういうお前だから、背中を預けられる」
「……竜次郎」
「お前はお前が一番いいと思うことをしろ。……たぶんそれが、俺にとっても一番いいことだ」
そんな風に思っていてもらえた事が嬉しくて、誇らしい。分不相応だと思わなくもないけれど。
その信頼に応えられたらと思う。
「うん。……竜次郎の相棒でいられるように頑張る」
「お前はすぐ頑張るから、まあほどほどでいいけどな」
「いいと思うこと……。竜次郎をみだりに誘惑するとか?」
「違うそうじゃねえ。………………まあ、俺にとってはある意味一番いいことではあるけどよ」
いやだが誘惑に負けてやり過ぎた結果後悔することを考えると安易にいいこととは言えねえがいやしかし……と本気で考え込んでしまった竜次郎が可笑しくて、声をあげて笑った。
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