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しおりを挟むそれから、少し河川敷を離れてその近くにある学生時代によく行った場所を見て回った。
あの頃と変わらない、活気があるとは言い難い街並みは、だからこそ平和で、特別なことは何もなかったけれどとても幸福だったあの時間を象徴するかのようだ。
竜次郎と話すようになってから卒業までの間には、印象的な出来事や事件はほとんどなく、ただ一緒にいたことしか思い出せない。
道中、当時数少ない学生向けの娯楽施設だった小さなゲームセンターもまだ営業していて、懐かしくて立ち寄ってみた。
「竜次郎、ゲーム上手だったよね」
対戦しても、大抵のものは勝てた覚えがない。
雑誌を読んだり熱心にアプリをいじったりしているところを見たことはなく、ゲーマーという印象はなかったので少し不思議だったが、それを言うと竜次郎は、ふんと鼻をならした。
「博徒系舐めんなよ。俺が勝負事で負けるわけにはいかねえだろうが」
御家業柄ということらしい。
自信満々な代貸様に、折角なのでリベンジしたいというチャレンジ精神が湧いてきた。
「竜次郎、クイズゲームで勝負しよう」
「…………ガンシューティングにしねえか」
互いに得意な方を主張しあって、結局両方楽しんだ。
思いの外ゲームに熱中していたようで、店を出ると空はオレンジ色になっていた。
学校が終わったのだろうか。向こうの通りに制服の男女が楽しそうに歩いているのが見えて、唐突に思いつく。
「あっ、ねえ竜次郎、これってデートかな?」
「まあ……そうか?そうだな」
今更だがあまり認識してなかったなと竜次郎は頭を掻いている。
昔の延長線上だったのは湊も同じで、自分達らしいと思う。
八重崎ではないが、恋愛と友情の境界はやはり曖昧なものだ。
それとも、あの頃からもう友人に向けるものとは別の感情が育っていたのだろうか。
友人としてであっても、竜次郎より親しい人というのはいたことがないのでよくわからないけれど。
境界を決める必要はあまりないのではないかと思う。
「デートって……楽しいね」
二人でいるだけで胸がぽかぽかして、温かい。
ずっとこんな時間が続けばいいのに。
横を歩く竜次郎に笑いかけると、一瞬目を細めた男は、照れているのか視線を外させるように湊の頭をグリグリと撫で回した。
「りゅ、竜次郎、髪がグシャグシャになるよ…!」
「いんだよ。お前はもう少しもさっとしとけ」
じゃれ合いながら、ぐるっと回って河川敷に戻る頃には、空のオレンジは赤に変わっていた。
「竜次郎、」
そろそろ戻らなければいけないかと呼んだ声には寂しさが滲んでいて、我ながら弱いなと、笑顔でなんとか誤魔化そうとした湊の腕を、唐突に竜次郎が掴んだ。
「え?あの?…ちょ……」
視線を合わせないまま歩速を早めた男に引きずられるような状態になって、慌てた声をあげるも物言わぬ背中は振り向かない。
歩いていた土手の上の道から下り、橋の方へとずんずん歩いて行く竜次郎に、戸惑った声をあげつつもついて行く以外できず。
「竜次郎?…っんんっ」
橋の下まで来てようやく立ち止まったので、何事かと話を聞こうと開いた口を、振り向きざまの竜次郎の唇に塞がれて目を見開いた。
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