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しおりを挟む高層ビルの立ち並ぶオフィス街。
その中の一つを前に、万里はスマホに表示されているマップの現在地と目的地が一致していることを、もう一度確かめた。
目の前に聳え立つ建物は、『SILENT BLUE』の入っているビルにも似た風情で、レストランフロアは誰でも利用できるようになっているとはいえ、平日昼間には万里のようなカジュアルウェアの学生はかなり少ない。
本当にここに自分が入っていって大丈夫なのかと気後れしながら自動ドアをくぐる。
『前回のリベンジ』で、待ち合わせ場所に指定されたのは久世のオフィスだった。
久世が父の会社のことに関わっているか否かを確かめる絶好のチャンスではあるが、またしても『虎穴』である。
無事に帰れるだろうかと思いながら、エレベーターで指定の階に上がる。
靴音のしない廊下を恐々歩き、万里はようやく目的の場所へと辿り着いた。
聞いていた社名らしき『PLEIADES』というネームプレートがあり、そばにはインターフォンがついていた。
押してから、応答されたら何と答えればいいのかと内心慌てたが、誰何する声はなく、代わりに重々しいドアがガチャリと開く。
顔を出したのは久世……ではなく、強面で体格のいいレスラーのような体型の男で、万里は「間違えました」と言って踵を返しそうになった。
「どうぞ」
「ど……どうも」
逃走する前に中へと促されてしまい、万里は恐る恐る久世のオフィス(恐らく)へと足を踏み入れた。
所謂デザイナーズオフィスというものだろうか。広々としたフロアには応接セットと大きめの作業用デスク、あとはファイルの並ぶ背の低い棚くらいしか事務所らしいものが見当たらない。
突き当たりの窓からは東京の街が一望でき、なんとなく久世の居城らしいなと思う。
……万里が場所を間違えていなければ、だが。
強面に応接用の椅子に座るよう促されて、同名のやばい事務所と間違えたんじゃないだろうなと内心青ざめつつ浅く座った。
「君が最近昴がご執心のバンビちゃんか」
どうやら、場所を間違えてはいなかったようではあるが、低い声で上の方から興味深げに観察されて、何と言っていいのかわからずひきつった笑みを浮かべるしかできない。
あの男は会社で何の話をしているのか。
「昴もすぐに来ると思うから、少し待っていてくれ」
そう言って強面は扉の奥へと消えた。
広々としたオフィスはしんとしている。
久世が社長で、今の強面がスタッフで、計二人の会社……なわけはないよなと思いつつ、ここまできてもう一度スマホで社名を確認してしまった。
時間を持て余す間もなく、強面の消えたドアが開かれ、今度こそ久世が顔を出した。
「悪い、バンビちゃん。あと五分だけ待ってくれ。ヤスヒロ、何か飲み物出してもらっていいか」
そう告げると、すぐに引っ込んでしまう。
後から『ヤスヒロ』という名前らしい強面が、肩を竦めながら出てきた。
「すまない、直前に昴でないと対応できない案件ができてな。冷たいお茶でいいか?」
「お、お構いなく」
一応遠慮はしたものの、すぐにトレイに載せたお茶が目の前に置かれて、恐縮しながら礼を言った。
「俺は野木ヤスヒロだ。一応副社長という肩書ではあるが、まあ雑用みたいなものだ。よろしく」
副社長が雑用ということもないだろうが、実際にお茶を出してくれたのは野木だ。
退屈させないようにという配慮が伝わり、万里は少しほっとしながら自らも名乗った。
「鈴鹿万里です」
「うちの社長がいつもお世話になっております」
「あっ、いえ、こちらこそ……」
冗談めかして頭を下げられ、応じながらも笑ってしまった。
どうやら、強面は見た目に反してとても優しくて常識的な人のようだ。久世と違って。
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