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第二四章 たったヒトリの家族

たったヒトリの家族(07)

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 山の奥を進み、さらに裏山を登るカイジン――
 やがて、木々に隠れて建物が現れた。造形は本殿によく似ている。カイジンがさらに足を踏み入れると、侵入者を知らせるけたたましいサイレンが鳴り響く。 

『ぐも……?』

 カイジンは全く気にすることなく歩みを進め、扉を壊しながら建物の中へと進む。
 中には、大きな広間だけが広がっていた。

「――何事であるか」

「まったく、機械でも故障しているのか」

「むっ……入口に――」

 広間には、姿を布で隠した有力者たちが集まっている。布にはシルエットだけが写っているが、カイジンの姿を見て焦っているのがすぐにわかった。

「痴れモノ! ここは醜穢しゅうわいな下等動物が足を踏み入れて良い場所ではないぞ」

「いますぐ立ち去るのじゃ」

「まったく、本殿の守衛はどうなっておる!」

『ぐもも?』

 カイジンは有力者たちに向かって触手を伸ばした。触手は、布を貫通して奥の壁まで突き刺さる。

『な、にを…………ざざ、ざ――』

 布の奥は、どれもモニターになっていた。
 有力者たちを投影していたすべてのモニターが触手によって貫かれ故障する。




「――やはりね」

 イツキが瀕死の状態で何とか同じ場所にたどり着き、その一部始終を眺めていた。

「安全な場所から口を挟んで文句を垂れるだけ、状況を把握すらしていない。する気もない。昔から変わらない、何もかも……」

『ぐももも?』

「まあいい、全て喰らえばいい。どこにいようと、植人の血が根絶えるまで喰い尽くす。そうだろう?」

『ぐもぅ!』

「――と、もうとっくに春歌はいないのか」

 カイジンは気分が良さそうだった。
 イツキの方に振り返り、涎を垂らしながら、子犬のように待つ。

 そんなカイジンに、イツキは最後の力を絞って手を差し出した。
 天高く、なるべく高い位置に――




 その手には、欠けた『不死』のタネが握られていた。




「さあ暴食よ! 喰らえ! 喰らい尽くせ!」

『……』

「この世の数多あるイノチを無限に喰らい尽くせ!」

『……』

「喰って、喰って――そしてこの腐敗した土壌を――」

『あぐっ』

 カイジンは、天高く掲げられた不死のタネに――イツキの体ごと喰らいついた。
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