189 / 194
第二四章 たったヒトリの家族
たったヒトリの家族(07)
しおりを挟む山の奥を進み、さらに裏山を登るカイジン――
やがて、木々に隠れて建物が現れた。造形は本殿によく似ている。カイジンがさらに足を踏み入れると、侵入者を知らせるけたたましいサイレンが鳴り響く。
『ぐも……?』
カイジンは全く気にすることなく歩みを進め、扉を壊しながら建物の中へと進む。
中には、大きな広間だけが広がっていた。
「――何事であるか」
「まったく、機械でも故障しているのか」
「むっ……入口に――」
広間には、姿を布で隠した有力者たちが集まっている。布にはシルエットだけが写っているが、カイジンの姿を見て焦っているのがすぐにわかった。
「痴れモノ! ここは醜穢な下等動物が足を踏み入れて良い場所ではないぞ」
「いますぐ立ち去るのじゃ」
「まったく、本殿の守衛はどうなっておる!」
『ぐもも?』
カイジンは有力者たちに向かって触手を伸ばした。触手は、布を貫通して奥の壁まで突き刺さる。
『な、にを…………ざざ、ざ――』
布の奥は、どれもモニターになっていた。
有力者たちを投影していたすべてのモニターが触手によって貫かれ故障する。
「――やはりね」
イツキが瀕死の状態で何とか同じ場所にたどり着き、その一部始終を眺めていた。
「安全な場所から口を挟んで文句を垂れるだけ、状況を把握すらしていない。する気もない。昔から変わらない、何もかも……」
『ぐももも?』
「まあいい、全て喰らえばいい。どこにいようと、植人の血が根絶えるまで喰い尽くす。そうだろう?」
『ぐもぅ!』
「――と、もうとっくに春歌はいないのか」
カイジンは気分が良さそうだった。
イツキの方に振り返り、涎を垂らしながら、子犬のように待つ。
そんなカイジンに、イツキは最後の力を絞って手を差し出した。
天高く、なるべく高い位置に――
その手には、欠けた『不死』のタネが握られていた。
「さあ暴食よ! 喰らえ! 喰らい尽くせ!」
『……』
「この世の数多あるイノチを無限に喰らい尽くせ!」
『……』
「喰って、喰って――そしてこの腐敗した土壌を――」
『あぐっ』
カイジンは、天高く掲げられた不死のタネに――イツキの体ごと喰らいついた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
31
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる