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竜騰がる時、戦いに赴く虎
【Proceedings.62】竜騰がる時、戦いに赴く虎.06
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迫る喜寅景清に天辰葵は、曙光残月、超神速の一撃を放つ構えをする。
喜寅景清もその構えに、ハッ、となり、飛び掛かった空中でも曙光残月に備えようとする。
が、天辰葵は曙光残月を使わず、神速のみを使い喜寅景清から距離をとる。
天辰葵は曙光残月の構えだけをして、喜寅景清の動きを制限し、その隙をついて距離を取ったのだ。
曙光残月をフェイントに使ったのだ。
流石の喜寅景清も、とっさに曙光残月に対応できるわけではない。
未来望にした戦法ではあるが、喜寅景清にはもう通じないだろう。
そして、距離を取った天辰葵はまず左肩の様子を確認する。
痛みがあるだけで、左手の動き自体には問題がないのを確認する。
これであれば問題ない、まだ左手も使えると判断する。
しかし、これで左肩と左腿、これで二回の被弾だ。
かわせると思って、無渺無足を使わなかった結果だ。
いや、無渺無足を使ったら使ったらで、更に酷い結果になっていたかもしれない。
既に喜寅景清に無渺無足は見せている。
無渺無足と言えど、喜寅景清に同じ技は通じないと考えた方がいい。
それにしても、こちらはまともにではないとはいえ、もう二度も攻撃を受けている。
それなのに喜寅景清はまだ一度も天辰葵の攻撃を受けていない。
これでは不公平だ。
と、天辰葵は笑う。
そろそろ相手にも痛い目を見てもらおうと、そう考える。
天辰葵は左手を前に出し構える。
痛みはあるが、今はそんなこと気にならないほど楽しくて仕方がない。
構えた左手に交差するように月下万象も構える。
少し異様な構えだ。
場合によっては左手の甲を自分の刀で傷つけるかのような、そんな構えだ。
それを見た喜寅景清は新しい技かと、備え、そして、やはりうれしそうな表情を浮かべる。
馬乱十風の真空の刃を飛ばし、牽制するかとも考えたが、そんなことをするより突っ込んでいった方が面白い、と、二本の神刀を構え、天辰葵に走り寄る。
「滅神流、無渺回天」
静かにそう言って、異様な構えのまま天辰葵も喜寅景清に向かい走り寄る。
珍しく神速は使っていない。
喜寅景清が大太刀を、剛健一實を、天辰葵に振り下ろす。
それを天辰葵は左手を使い、無渺無足の要領で叩き落す、ではなく、斬撃の方向そのものをずらす。
ずらした先には喜寅景清の右足がある。
剛健一實が大きくその軌道をずらされ、喜寅景清の右足に振り下ろされる。
多少威力を落とすことはできても、すべての力をそぎきることは喜寅景清でもできない。
だが、喜寅景清はそんな状況下でも、顔色一つ変えずに真空の刃を纏わせた馬乱十風を天辰葵に突き出す。
天辰葵の月下万象は、相手の攻撃をずらさせたことで下がった左手を這うように滑るように走る。
馬乱十風の真空の刃のみを薙ぎ払い、そのまま喜寅景清の厚い胸板に月下万象を叩きこむ。
そして、突き出された馬乱十風を見切り、顔だけを的確に動かすことで、寸前のところでかわして見せる。
喜寅景清の胸板に叩きこまれた月下万象も無理やりに無理な体制で撃ち込まれたように見え、観客からは喜寅景清の筋肉の前に簡単に受け止められたようにも見えた。
だが、
「ぬぐっ」
と、喜寅景清が呻く。
更に天辰葵が月下万象を引き戻し、追撃の構えを見せる。
しかし、喜寅景清は馬乱十風を戻しながら振るい、神風を持って天辰葵の間合い外まで後退する。
そこへ天辰葵は追撃をかけたりはしない。
その代わりに得意顔で言葉をかける。
「やられっぱなしは嫌だったからね」
天辰葵はそう言って、神刀を、月下万象を構えなおす。
喜寅景清は剛健一實で打ってしまった自分の右足を確認する。
多少、痛みはあるが、こちらは問題はない。
胸の方が問題だ。
胸に撃ち込まれる寸前に天辰葵は神速を使い、月下万象を無理やり加速させたのだ。
見た目以上にダメージが大きい。
肋骨数本は折られたような、そんな痛みを感じる。
神速にはこういった使い方もあるのだと喜寅景清は思い知らされる。
実に厄介で応用の効く技だ。
神速を使える状態であれば、どんなにも酷い態勢からのカス当たりでも、致命傷に成り得るということだ。
恐らく天辰葵は月下万象の力も、自身に宿っているはずの神刀、両方の力を使っていない。
これで、この結果なのだから、喜寅景清も舌を巻くしかない。
本物の化け物だ。だから自分の前に現れた、喜寅景清はそう理解する。
天辰葵は想像以上に強い。
喜寅景清も嬉しさに心躍るほどにだ。
喜寅景清は無言で刀を構える。
自分の目指す道はこの先にあると確信する。
「二人とも恐ろしいほどの使い手だ…… 天辰葵…… ボクは彼女に勝つことができるか?」
戌亥道明が険しい表情を見せてその言葉を口からこぼした。
「い、今のは何となく見えました! よくは分かりませんが…… な、なんかすごい試合です!」
神速をほぼ使っていないので、猫屋茜にも今のはそれなりに見えたようだ。
だが、それは逆に猫屋茜の目を奪い、実況する暇を与えなかった。
「確かに凄い試合だ。実況も解説も不要なほどにね」
「そ、そんなこと言わないでくださいよ!」
戌亥道明の言葉に猫屋茜は文句を言うが、その気持ちが猫屋茜にも分からないわけではない。
「素晴らし名作の映画を見るとき、集中できる環境で見たくはないかい? ボクは今そんな気分だよ」
そうして、再び戌亥道明は円形闘技場のステージに意識を集中する。
「そうかもしれないですが、そんなこと言わないで下さいよ!」
悲しそうに猫屋茜は言うのだが、その言葉は誰の耳にも届いてはいない。
━【次回議事録予告-Proceedings.63-】━━━━━━━
竜虎の決着がつくとき。
また一つの運命が役割を終える。
━次回、竜騰がる時、戦いに赴く虎.07━━━━━━━
喜寅景清もその構えに、ハッ、となり、飛び掛かった空中でも曙光残月に備えようとする。
が、天辰葵は曙光残月を使わず、神速のみを使い喜寅景清から距離をとる。
天辰葵は曙光残月の構えだけをして、喜寅景清の動きを制限し、その隙をついて距離を取ったのだ。
曙光残月をフェイントに使ったのだ。
流石の喜寅景清も、とっさに曙光残月に対応できるわけではない。
未来望にした戦法ではあるが、喜寅景清にはもう通じないだろう。
そして、距離を取った天辰葵はまず左肩の様子を確認する。
痛みがあるだけで、左手の動き自体には問題がないのを確認する。
これであれば問題ない、まだ左手も使えると判断する。
しかし、これで左肩と左腿、これで二回の被弾だ。
かわせると思って、無渺無足を使わなかった結果だ。
いや、無渺無足を使ったら使ったらで、更に酷い結果になっていたかもしれない。
既に喜寅景清に無渺無足は見せている。
無渺無足と言えど、喜寅景清に同じ技は通じないと考えた方がいい。
それにしても、こちらはまともにではないとはいえ、もう二度も攻撃を受けている。
それなのに喜寅景清はまだ一度も天辰葵の攻撃を受けていない。
これでは不公平だ。
と、天辰葵は笑う。
そろそろ相手にも痛い目を見てもらおうと、そう考える。
天辰葵は左手を前に出し構える。
痛みはあるが、今はそんなこと気にならないほど楽しくて仕方がない。
構えた左手に交差するように月下万象も構える。
少し異様な構えだ。
場合によっては左手の甲を自分の刀で傷つけるかのような、そんな構えだ。
それを見た喜寅景清は新しい技かと、備え、そして、やはりうれしそうな表情を浮かべる。
馬乱十風の真空の刃を飛ばし、牽制するかとも考えたが、そんなことをするより突っ込んでいった方が面白い、と、二本の神刀を構え、天辰葵に走り寄る。
「滅神流、無渺回天」
静かにそう言って、異様な構えのまま天辰葵も喜寅景清に向かい走り寄る。
珍しく神速は使っていない。
喜寅景清が大太刀を、剛健一實を、天辰葵に振り下ろす。
それを天辰葵は左手を使い、無渺無足の要領で叩き落す、ではなく、斬撃の方向そのものをずらす。
ずらした先には喜寅景清の右足がある。
剛健一實が大きくその軌道をずらされ、喜寅景清の右足に振り下ろされる。
多少威力を落とすことはできても、すべての力をそぎきることは喜寅景清でもできない。
だが、喜寅景清はそんな状況下でも、顔色一つ変えずに真空の刃を纏わせた馬乱十風を天辰葵に突き出す。
天辰葵の月下万象は、相手の攻撃をずらさせたことで下がった左手を這うように滑るように走る。
馬乱十風の真空の刃のみを薙ぎ払い、そのまま喜寅景清の厚い胸板に月下万象を叩きこむ。
そして、突き出された馬乱十風を見切り、顔だけを的確に動かすことで、寸前のところでかわして見せる。
喜寅景清の胸板に叩きこまれた月下万象も無理やりに無理な体制で撃ち込まれたように見え、観客からは喜寅景清の筋肉の前に簡単に受け止められたようにも見えた。
だが、
「ぬぐっ」
と、喜寅景清が呻く。
更に天辰葵が月下万象を引き戻し、追撃の構えを見せる。
しかし、喜寅景清は馬乱十風を戻しながら振るい、神風を持って天辰葵の間合い外まで後退する。
そこへ天辰葵は追撃をかけたりはしない。
その代わりに得意顔で言葉をかける。
「やられっぱなしは嫌だったからね」
天辰葵はそう言って、神刀を、月下万象を構えなおす。
喜寅景清は剛健一實で打ってしまった自分の右足を確認する。
多少、痛みはあるが、こちらは問題はない。
胸の方が問題だ。
胸に撃ち込まれる寸前に天辰葵は神速を使い、月下万象を無理やり加速させたのだ。
見た目以上にダメージが大きい。
肋骨数本は折られたような、そんな痛みを感じる。
神速にはこういった使い方もあるのだと喜寅景清は思い知らされる。
実に厄介で応用の効く技だ。
神速を使える状態であれば、どんなにも酷い態勢からのカス当たりでも、致命傷に成り得るということだ。
恐らく天辰葵は月下万象の力も、自身に宿っているはずの神刀、両方の力を使っていない。
これで、この結果なのだから、喜寅景清も舌を巻くしかない。
本物の化け物だ。だから自分の前に現れた、喜寅景清はそう理解する。
天辰葵は想像以上に強い。
喜寅景清も嬉しさに心躍るほどにだ。
喜寅景清は無言で刀を構える。
自分の目指す道はこの先にあると確信する。
「二人とも恐ろしいほどの使い手だ…… 天辰葵…… ボクは彼女に勝つことができるか?」
戌亥道明が険しい表情を見せてその言葉を口からこぼした。
「い、今のは何となく見えました! よくは分かりませんが…… な、なんかすごい試合です!」
神速をほぼ使っていないので、猫屋茜にも今のはそれなりに見えたようだ。
だが、それは逆に猫屋茜の目を奪い、実況する暇を与えなかった。
「確かに凄い試合だ。実況も解説も不要なほどにね」
「そ、そんなこと言わないでくださいよ!」
戌亥道明の言葉に猫屋茜は文句を言うが、その気持ちが猫屋茜にも分からないわけではない。
「素晴らし名作の映画を見るとき、集中できる環境で見たくはないかい? ボクは今そんな気分だよ」
そうして、再び戌亥道明は円形闘技場のステージに意識を集中する。
「そうかもしれないですが、そんなこと言わないで下さいよ!」
悲しそうに猫屋茜は言うのだが、その言葉は誰の耳にも届いてはいない。
━【次回議事録予告-Proceedings.63-】━━━━━━━
竜虎の決着がつくとき。
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