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竜騰がる時、戦いに赴く虎
【Proceedings.63】竜騰がる時、戦いに赴く虎.07
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「おい、虎の威を借る虎の団、団員達よ! 今こそ、応援の時だ! 団長を鼓舞するのだ!」
丑久保修が観客席に向かい声を張り上げる。
それに応えるように観客席に控えていた学ラン姿の厳つい男たちが立ち上がり、旗を振り、太鼓を打ち鳴らし、応援歌を歌いだす。
「フレー、フレー、団長! フレッフレッ団ちょ……」
「うるさいぞ」
と、喜寅景清が一喝する。
「応援歌やめー」
それを聞いた丑久保修は素知らぬ顔でそう言った。
虎の威を借る虎の団員達は黙って静かに観客席についた。
その行為に何か意味があったのか、そう言われれば意味はあった。
そう、あったのだ。
ただし、喜寅景清にではなく天辰葵にだ。
「水を差したな、行くぞ」
喜寅景清は再び神刀を構え戦おうとするが、
「待って」
と、天辰葵は、そう言ってデュエルを一時中断する。
天辰葵から闘志という物が一時的ではあるが、全く消えているので喜寅景清も構えを解く。
「なんだ?」
怪訝そうに喜寅景清は確認する。
「応援。いいね。悪くない。私は普段一人で戦って来たんだけど、応援されるのは悪くないと思うんだ、月子。実力以上の力が出せると思うんだよ、月子!!」
そう力強く言って、天辰葵は喜寅景清を無視し、申渡月子の方を向き直る。
そして、まっすぐに申渡月子の目を、その美しくも力強い瞳をじっと見つめる。
「あー、はいはい…… 葵様、いえ、葵。勝ってください」
天辰葵の熱い視線に一瞬戸惑いはしたものの、それでこの喜寅景清に勝ってくれるならば、と、申渡月子もはじめこそ、仕方なくと言った感じではあったが、最後はしっかりと想いを込めてそう言った。
「ああ、月子に勝ちを捧げるよ」
天辰葵は申渡月子に微笑み返し、力強く答える。
その様子を見て、喜寅景清は歓喜する。
天辰葵の闘志が、先ほどよりも跳ね上がっているからだ。
感情でその能力を大きく増減する者は多くいる。
その最たる例が丑久保修だろうか。
牛来亮の応援を受けて、愛の化身と化した丑久保修は神刀を折らなければ一生止まることはない。
そのように、天辰葵も同様のタイプの人間のようだ。
感情を爆発させることで実力を大きく上昇させる。
申渡月子の応援を受け、天辰葵は、今、実力以上の力を得ているのだろう。
それこそが、それを倒すことこそが、喜寅景清の託された願いへと続く道でもある。
最強へと続く為の道なのだ。
その道を歩めることに喜寅景清は感謝しているのだ。
「他人のために戦うか…… それもまた一つの真理」
喜寅景清は天辰葵と自分を重ね、そう断言する。
喜寅景清もまた他人のために刀を振るう者だ。
「へー、否定するかと思ったけど」
が、天辰葵からはそんな言葉が投げかけられる。
それは仕方がないことだ。
喜寅景清は誤解されやすい男だ。
彼は別に戦闘狂というわけではない。
ただただ願いを叶えたいだけだ。
喜寅景清はただ願われたのだ。誰よりも強くあれと。
それを叶えたいだけだ。それ故に喜寅景清は最強を目指す。
「俺もまたその一人」
普段は誤解されていても、何らかまわないと思っている喜寅景清だが、これほどの強者である天辰葵に誤解されたままでいたくはない。
そう思った喜寅景清はその言葉を口にする。
「そうなんだ、それが誰か聞いても?」
天辰葵も意外と思いながらも、これほどの男がその刀を振るう理由の相手というのは気になる。
「聞くな。もういない」
とだけ、喜寅景清は言った。
もういない、と。
「そう…… じゃあ、待たせたね。再開しようか。月子に応援された私の力を見せてあげるよ」
その言葉に天辰葵もなんとなくだが悟る。
天辰葵が、今、喜寅景清に出来ることはより強い自分を見せつけることだ。
「それは楽しみだ」
喜寅景清も猛獣のように笑うだけだ。
天辰葵は様々な技を、滅神流の技を思い浮かべる。
喜寅景清を倒せる技を。
いくつかある。
初見なら、喜寅景清とてどうしようもない、そんな技も、それこそ所見殺しのような技も滅神流の中には存在する。
だが、天辰葵が選んだのは、最速の技、曙光残月だ。
喜寅景清はそれを、天辰葵が最も得意とする速度を活かした最速の一撃を防いで見せた。
なら、天辰葵はその曙光残月で勝つ。
それは意地というやつだ。
強いから無理やりを通せるというのが神刀、武陵刀玄の力だ。
ならば、喜寅景清の強さが届かないほどの速度の一撃であれば、喜寅景清を打ち破ることは可能なはずだ。
理屈としては至極単純な話だ。
だが問題として、そんな速度で動いて天辰葵の肉体の方が持つのか、そんな疑問がある。
実際、神速、天駆での移動の負荷はかなり大きい。
のだが、天辰葵がその負荷を被ることはない。
物理的な抵抗は、無渺無足使用時の左手の時のようにすべての力を受け流しているからこそ、神速は可能なのだ。
そもそも無渺無足という技は何なのか。
その本質、奥義ともいえるのは超集中による力の受け流しだ。
もはや魔法の様な、それこそ仙術のような話だが、天辰葵は、いや、滅神流の使い手は超集中することにより、力も受け流すことが出来る力場ともいえるものを意識して作り出すことが出来る。
その力場を左手に集中させればすべての攻撃を受け流せる最強の盾となる。
全身に万遍なく展開させれば、抵抗力を極力受けなくなり常識外れの速度で負荷もなく移動することが出来る。
天駆も無渺無足も、全て、この奥義が元となっている。
天辰葵は神速の様な速度で移動しても、それで負荷や空気抵抗すらも感じることはない。
すべての負荷を力場により受け流しているからだ。
だが、それとて限界はある。
一点に集中させれば最高の盾となり大きな力をも受け流せるが、全身に広げればその効果も薄くなる。
つまり、天辰葵の速度の上限は、その力場の強さに依存する。
曙光残月はその力場を最大限にまで高めた結果、神速を超える超神速を生み出す一撃である。
ならば、その力場を限界以上に強めれば、最速を超えた最速も可能となるのだ。
今の、申渡月子の応援を得た天辰葵なら、それも可能のはずだと天辰葵はそう考え、思い込んでいる。
天辰葵は構える。曙光残月の構えを。
「その技か。がっかりさせるなよ」
喜寅景清はその構えを見て意外だったが、あの天辰葵がそのまま破られた技で来るわけはない、と、いうのは理解、いや、確かな信頼がある。
だからこそ、喜寅景清も無理を押し通す。
自らの最大の技で押し通るつもりだ。
天辰葵は極限まで集中する。
いや、極限を越えて、限界を超えて集中し、力場で全身を覆い、その力場の強度を増していく。
狙うのは折りやすいはずの馬乱十風ではなく、最も折れにくいとされる剛健一實、その一点だ。
より強い自分を見せるなら、当たり前の選択だ。
天辰葵の視線が、剛健一實に集中する。
喜寅景清もそれに気づき笑う。
まさか剛健一實の方を狙ってくるとは思わなかったからだ。
ならば、喜寅景清もそれに応えるのが礼儀だ。
最強の自分を見せるだけだ。
「獣王哮吼剛剣」
喜寅景清は技の名を叫び、二本の神刀を大きく振り上げる。
獣王がうなり咆哮を上げ襲い来る剛の剣。
剛の剣を極めた喜寅景清、最強の技は力任せの絶対的一撃だ。
天辰葵の無渺無足に対しては圧倒的に悪手ではあるが、喜寅景清はそんなことは考えない。
今、自分に出せる最大最強の技で挑み、すべてをねじ伏せるだけだ。
それこそが喜寅景清の戦い方であり、最強への道だからだ。
「滅神流、神域、曙光残月」
それに相対するのは、最速の剣だ。
人智を超えた最速の剣。
夜に取り残され、朝日を浴びた月が輝く。
喜寅景清が二本の神刀を振り上げ渾身の力で振り下ろす。
そこに超神速の一撃が重なり合う。
極限の力同士がぶつかり合い、凄まじい衝撃が円形闘技場に巻き起こり走り抜ける。
だが、その衝撃すら天辰葵の作り出した力場は受け流す。
逆に喜寅景清はまともにその衝撃を受ける。
それが勝敗の差だった。
わずかにだが、その衝撃で喜寅景清が体勢を崩したのだ。
その後は一瞬だ。
剛健一實だけでなく馬乱十風までもが、その均衡し一点に集中していた力が、剛の剣と最速の剣がぶつかり合った生じた物凄い力が、崩れたところへ目掛け一気に流れ込む。
それをまともに受け、二本の神刀が粉々にはじけ飛ぶ。
二本の神刀はまるで喜寅景清に被害が及ばないかのように、それらの力を引き受け砕け散って行った。
「ぬぅ……」
それでも衝撃波を受けた喜寅景清が片膝をつく。
全身に痛みはあるが、その衝撃も神刀を起因とした事象故に喜寅景清に怪我はない。
天辰葵もふらつき、片膝をつく。
完全に反動を殺しきれたわけではない。
多少なりとも衝撃と神速の負荷を体が受けている。
ただそれだけではない。
限界を超えて集中しすぎたためか、脳への負荷のほうが大きい。
外傷は見られないが、頭痛と眩暈が止まらない。
これらは神刀が起因とする事象ではない。
デュエルが終わっても、しばらくは治りはしないだろう。
天辰葵は月下万象を杖代わりにして、なんとか立ち続ける。
「私の勝ちだ」
と、高らかに、そして、嬉しそうに宣言する。
「ああ、俺の完敗だ」
喜寅景清も、項垂れてはいるがそれを認める。
「じゃあ、命令…… だよね。えっと…… このまま最強を目指して。そして、私とその内もう一度勝負してよ」
天辰葵はそう言った。
喜寅景清は驚いた顔をして顔を上げる。
そして、
「お前もそう言うのか…… いや、分かった。約束しよう」
と、快くその命令、いや、約束を受け入れる。
倒れそうになる葵を月子がやさしく抱きかかえる。
そして、葵にしか聞こえない声でつぶやく様にいう。
「お疲れ様です」
と。
ここに竜虎の戦いに決着がついた。
━【次回議事録予告-Proceedings.64-】━━━━━━━
猿が招き入れる運命は竜に何をもたらすのか。
━次回、揺蕩う竜と運命を招き入れる猿.01━━━━━
丑久保修が観客席に向かい声を張り上げる。
それに応えるように観客席に控えていた学ラン姿の厳つい男たちが立ち上がり、旗を振り、太鼓を打ち鳴らし、応援歌を歌いだす。
「フレー、フレー、団長! フレッフレッ団ちょ……」
「うるさいぞ」
と、喜寅景清が一喝する。
「応援歌やめー」
それを聞いた丑久保修は素知らぬ顔でそう言った。
虎の威を借る虎の団員達は黙って静かに観客席についた。
その行為に何か意味があったのか、そう言われれば意味はあった。
そう、あったのだ。
ただし、喜寅景清にではなく天辰葵にだ。
「水を差したな、行くぞ」
喜寅景清は再び神刀を構え戦おうとするが、
「待って」
と、天辰葵は、そう言ってデュエルを一時中断する。
天辰葵から闘志という物が一時的ではあるが、全く消えているので喜寅景清も構えを解く。
「なんだ?」
怪訝そうに喜寅景清は確認する。
「応援。いいね。悪くない。私は普段一人で戦って来たんだけど、応援されるのは悪くないと思うんだ、月子。実力以上の力が出せると思うんだよ、月子!!」
そう力強く言って、天辰葵は喜寅景清を無視し、申渡月子の方を向き直る。
そして、まっすぐに申渡月子の目を、その美しくも力強い瞳をじっと見つめる。
「あー、はいはい…… 葵様、いえ、葵。勝ってください」
天辰葵の熱い視線に一瞬戸惑いはしたものの、それでこの喜寅景清に勝ってくれるならば、と、申渡月子もはじめこそ、仕方なくと言った感じではあったが、最後はしっかりと想いを込めてそう言った。
「ああ、月子に勝ちを捧げるよ」
天辰葵は申渡月子に微笑み返し、力強く答える。
その様子を見て、喜寅景清は歓喜する。
天辰葵の闘志が、先ほどよりも跳ね上がっているからだ。
感情でその能力を大きく増減する者は多くいる。
その最たる例が丑久保修だろうか。
牛来亮の応援を受けて、愛の化身と化した丑久保修は神刀を折らなければ一生止まることはない。
そのように、天辰葵も同様のタイプの人間のようだ。
感情を爆発させることで実力を大きく上昇させる。
申渡月子の応援を受け、天辰葵は、今、実力以上の力を得ているのだろう。
それこそが、それを倒すことこそが、喜寅景清の託された願いへと続く道でもある。
最強へと続く為の道なのだ。
その道を歩めることに喜寅景清は感謝しているのだ。
「他人のために戦うか…… それもまた一つの真理」
喜寅景清は天辰葵と自分を重ね、そう断言する。
喜寅景清もまた他人のために刀を振るう者だ。
「へー、否定するかと思ったけど」
が、天辰葵からはそんな言葉が投げかけられる。
それは仕方がないことだ。
喜寅景清は誤解されやすい男だ。
彼は別に戦闘狂というわけではない。
ただただ願いを叶えたいだけだ。
喜寅景清はただ願われたのだ。誰よりも強くあれと。
それを叶えたいだけだ。それ故に喜寅景清は最強を目指す。
「俺もまたその一人」
普段は誤解されていても、何らかまわないと思っている喜寅景清だが、これほどの強者である天辰葵に誤解されたままでいたくはない。
そう思った喜寅景清はその言葉を口にする。
「そうなんだ、それが誰か聞いても?」
天辰葵も意外と思いながらも、これほどの男がその刀を振るう理由の相手というのは気になる。
「聞くな。もういない」
とだけ、喜寅景清は言った。
もういない、と。
「そう…… じゃあ、待たせたね。再開しようか。月子に応援された私の力を見せてあげるよ」
その言葉に天辰葵もなんとなくだが悟る。
天辰葵が、今、喜寅景清に出来ることはより強い自分を見せつけることだ。
「それは楽しみだ」
喜寅景清も猛獣のように笑うだけだ。
天辰葵は様々な技を、滅神流の技を思い浮かべる。
喜寅景清を倒せる技を。
いくつかある。
初見なら、喜寅景清とてどうしようもない、そんな技も、それこそ所見殺しのような技も滅神流の中には存在する。
だが、天辰葵が選んだのは、最速の技、曙光残月だ。
喜寅景清はそれを、天辰葵が最も得意とする速度を活かした最速の一撃を防いで見せた。
なら、天辰葵はその曙光残月で勝つ。
それは意地というやつだ。
強いから無理やりを通せるというのが神刀、武陵刀玄の力だ。
ならば、喜寅景清の強さが届かないほどの速度の一撃であれば、喜寅景清を打ち破ることは可能なはずだ。
理屈としては至極単純な話だ。
だが問題として、そんな速度で動いて天辰葵の肉体の方が持つのか、そんな疑問がある。
実際、神速、天駆での移動の負荷はかなり大きい。
のだが、天辰葵がその負荷を被ることはない。
物理的な抵抗は、無渺無足使用時の左手の時のようにすべての力を受け流しているからこそ、神速は可能なのだ。
そもそも無渺無足という技は何なのか。
その本質、奥義ともいえるのは超集中による力の受け流しだ。
もはや魔法の様な、それこそ仙術のような話だが、天辰葵は、いや、滅神流の使い手は超集中することにより、力も受け流すことが出来る力場ともいえるものを意識して作り出すことが出来る。
その力場を左手に集中させればすべての攻撃を受け流せる最強の盾となる。
全身に万遍なく展開させれば、抵抗力を極力受けなくなり常識外れの速度で負荷もなく移動することが出来る。
天駆も無渺無足も、全て、この奥義が元となっている。
天辰葵は神速の様な速度で移動しても、それで負荷や空気抵抗すらも感じることはない。
すべての負荷を力場により受け流しているからだ。
だが、それとて限界はある。
一点に集中させれば最高の盾となり大きな力をも受け流せるが、全身に広げればその効果も薄くなる。
つまり、天辰葵の速度の上限は、その力場の強さに依存する。
曙光残月はその力場を最大限にまで高めた結果、神速を超える超神速を生み出す一撃である。
ならば、その力場を限界以上に強めれば、最速を超えた最速も可能となるのだ。
今の、申渡月子の応援を得た天辰葵なら、それも可能のはずだと天辰葵はそう考え、思い込んでいる。
天辰葵は構える。曙光残月の構えを。
「その技か。がっかりさせるなよ」
喜寅景清はその構えを見て意外だったが、あの天辰葵がそのまま破られた技で来るわけはない、と、いうのは理解、いや、確かな信頼がある。
だからこそ、喜寅景清も無理を押し通す。
自らの最大の技で押し通るつもりだ。
天辰葵は極限まで集中する。
いや、極限を越えて、限界を超えて集中し、力場で全身を覆い、その力場の強度を増していく。
狙うのは折りやすいはずの馬乱十風ではなく、最も折れにくいとされる剛健一實、その一点だ。
より強い自分を見せるなら、当たり前の選択だ。
天辰葵の視線が、剛健一實に集中する。
喜寅景清もそれに気づき笑う。
まさか剛健一實の方を狙ってくるとは思わなかったからだ。
ならば、喜寅景清もそれに応えるのが礼儀だ。
最強の自分を見せるだけだ。
「獣王哮吼剛剣」
喜寅景清は技の名を叫び、二本の神刀を大きく振り上げる。
獣王がうなり咆哮を上げ襲い来る剛の剣。
剛の剣を極めた喜寅景清、最強の技は力任せの絶対的一撃だ。
天辰葵の無渺無足に対しては圧倒的に悪手ではあるが、喜寅景清はそんなことは考えない。
今、自分に出せる最大最強の技で挑み、すべてをねじ伏せるだけだ。
それこそが喜寅景清の戦い方であり、最強への道だからだ。
「滅神流、神域、曙光残月」
それに相対するのは、最速の剣だ。
人智を超えた最速の剣。
夜に取り残され、朝日を浴びた月が輝く。
喜寅景清が二本の神刀を振り上げ渾身の力で振り下ろす。
そこに超神速の一撃が重なり合う。
極限の力同士がぶつかり合い、凄まじい衝撃が円形闘技場に巻き起こり走り抜ける。
だが、その衝撃すら天辰葵の作り出した力場は受け流す。
逆に喜寅景清はまともにその衝撃を受ける。
それが勝敗の差だった。
わずかにだが、その衝撃で喜寅景清が体勢を崩したのだ。
その後は一瞬だ。
剛健一實だけでなく馬乱十風までもが、その均衡し一点に集中していた力が、剛の剣と最速の剣がぶつかり合った生じた物凄い力が、崩れたところへ目掛け一気に流れ込む。
それをまともに受け、二本の神刀が粉々にはじけ飛ぶ。
二本の神刀はまるで喜寅景清に被害が及ばないかのように、それらの力を引き受け砕け散って行った。
「ぬぅ……」
それでも衝撃波を受けた喜寅景清が片膝をつく。
全身に痛みはあるが、その衝撃も神刀を起因とした事象故に喜寅景清に怪我はない。
天辰葵もふらつき、片膝をつく。
完全に反動を殺しきれたわけではない。
多少なりとも衝撃と神速の負荷を体が受けている。
ただそれだけではない。
限界を超えて集中しすぎたためか、脳への負荷のほうが大きい。
外傷は見られないが、頭痛と眩暈が止まらない。
これらは神刀が起因とする事象ではない。
デュエルが終わっても、しばらくは治りはしないだろう。
天辰葵は月下万象を杖代わりにして、なんとか立ち続ける。
「私の勝ちだ」
と、高らかに、そして、嬉しそうに宣言する。
「ああ、俺の完敗だ」
喜寅景清も、項垂れてはいるがそれを認める。
「じゃあ、命令…… だよね。えっと…… このまま最強を目指して。そして、私とその内もう一度勝負してよ」
天辰葵はそう言った。
喜寅景清は驚いた顔をして顔を上げる。
そして、
「お前もそう言うのか…… いや、分かった。約束しよう」
と、快くその命令、いや、約束を受け入れる。
倒れそうになる葵を月子がやさしく抱きかかえる。
そして、葵にしか聞こえない声でつぶやく様にいう。
「お疲れ様です」
と。
ここに竜虎の戦いに決着がついた。
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