学院の魔女の日常的非日常

只野誠

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夏休みに尋ねて来た方々

夏休みに尋ねて来た方々 その4

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 ミアは焦っていた。
 名も知らない白い少女、それと白い法衣を着た人達が、このままでは自分を守っている精霊に対処されてしまう、と。
 ミアを守っている精霊はミアに対する脅威が大きければ大きいほど、それに対処できるようにその力を振るう。
 ミアが精霊の制御を行えるようになるまで、そういう制約をカリナと交わしている。
 今のミアにこの精霊を制御できるだけの力はない。ミアの精霊魔術の腕がというより精霊が強大過ぎる。
 なので、はじめはただ精霊に弾き飛ばされる程度で済むかもしれない。
 しかし、それが激化していくことで相手がミアに殺意を持ってしまえば、ミアを守る精霊も殺意を持って対応してしまう。
 自業自得と言えばそうなのだが、ミアはそれを望んではいない。
 それに白い少女は、一時とは言え、たしかに神性をその身に宿していた。神と同化していたのだ。ミアとしても手出しをしたい相手ではない。
 そんなミアの気も知らずに白い連中はジワリジワリとミアとの距離をゆっくりと詰めてくる。
 ミアが逃げるかどうか迷っていると、ミアと白い集団の間に、誰かが割って入ってきた。
「おっと、どちらさんか存じませんか、この少女は色んな意味で特別な巫女ですので、その辺にしてくれないですかね?」
 割り込んできた人物、マーカスはミアを守るように、白い集団相手に対峙する。
 相手は外道種ではないが、冥界の神と約束してしまった以上、ミアが危険そうなら助けなければならない。
 それはマーカスに下された神の使命なのだから。
 マーカスは辺りにスティフィがいないことを不審に思う。
 普段なら人間相手ならスティフィがどうにかしてくれているはずだ。
 だが、いない者を攻めても仕方がない。
「マーカスさん!」
 ミアが驚きの声を上げる。
 マーカスから、守るようにと神と約束していることを特に告げられていないミアは急に現れたマーカスに驚きを隠せない。
「それにその子に手を出して怪我をするのは、そちらさんですよ」
 マーカスのその言葉に白い法衣の連中は動きを止める。
 ただ白い少女だけは、「ゆるさない」という言葉を連呼している。
 その白い少女の声を聞いた白い集団は再び意を決したように、マーカスとミアに対して対峙する格好を見せる。
 それに対しマーカスはとりあえず言葉で対話を試みる。白い少女はともかく、白い法衣の連中にはとりあえず話は通じるようだからだ。
「まず、この子が信仰している神様は、ですね。冥界の神であるデスカトロカ神の話からして、神々の中でも高貴な方で、その名も気軽に言ってはならないほどの方らしいですよ」
 その言葉に白い法衣の連中に動揺が走る。
 マーカスの言葉の裏付けをたった今その目で見たばかりなのだ。白い連中にも動揺するのも無理はない。
 そして、それ以上にミアに動揺が走り駆け巡る。
「え? なんですか、それ! 私、そんなこと私、聞いてませんよ? く、詳しく話してください!! なんで黙ってたんですか!? いつ知ったんですか?」
 ミアが騒ぎ立てる。既に白い集団など既に眼中にないかのようだ。
 そのことに苦笑を浮かべながらも白い集団と対峙することをマーカスはやめない。
 またマーカスの影に住むようになった幽霊犬、黒次郎をいつでも出せる様に待機だけはさせておく。
「言っていい物かどうか、正直迷っていましてね。あなたの神は、みだらに名前を言って良い神様じゃないらしいので、話題に出すのもどうかと思っていましてね。というか、なんですか? この人達は?」
 冥界の神ですら名前を聞いただけあんな表情を浮かべるのだ。
 人の間でおいそれと伝えていいことではないことくらい、マーカスにも理解できている。
 そもそも、話題にしていい神ですら怪しい。それが祟り神だからなのか、高貴だからなのか、マーカスにはそれもわからないが。
 どちらにせよ、触らぬ神に祟りなし、というやつだ。なるべく触れずに話題にも出さない方が良い。
 マーカスの使命はミアを守ることで、ミアにロロカカ神のことを伝えることではない。
 マーカスは改めて白い集団を見るが、よくわからない。
 ただ少女を中心とした何かの集団なのだろうということは推察できる。
「たぶん、そこの女の子が神憑きなんです。ただ私がロロカカ様の巫女だと告げたら、その、神様が居なくなってしまったらしく……」
 一応ミアはマーカスが聞いたことには答えてくれるが、ミア自身も困惑しているように思える。
 ただそれを伝えた後は、言葉にこそ出さないでいるが、ロロカカ神のことを詳しく話せ、と強い視線でミアは訴えてくる。
 後で話さなければ、何をされるかわからないので、マーカスも腹を決める。
 が、今はそんなことよりマーカスも驚きを隠せない。
 ミアを助けるために躍り出たはいいが、相手が神憑きだとは思ってもみなかったし、それ以上に気になる言葉もある。
「いなくなったって神憑きの神様が、ってことですか?」
 一番マーカスを驚かせたのは、神がいなくなったという言葉だ。
 ただ一旦退散させただけなのか、神憑きから神を払ってしまったのか、その違いは大きく意味合いが違う。
 だが、神憑きの少女が、いなくなった、と騒いでいるところを見ると、ただ一時的に退散させられたとはマーカスには思えない。
「恐らくは……」
 とミアもよくわからない、と言った表情で答えた。
 その言葉を聞いてマーカスはデスカトロカ神がロロカカ神の名を聞いて見せた表情をもう一度思い出す。
 神憑きであるのであれば恐らくは分霊のはずだ。冥界の神、その本体が、名を聞いただけであんな表情を浮かべるのだ、神の一部でしかない分霊であればその反応など想像のしようがない。
 だが、神の名前だけで、神払いができるなど、そんなことは聞いたこともない。
「ま、まあ、聞いた通りですよ、白い人たち。この子が信仰している神は、名前をやたら滅多に言ってはいけないんですよ。冥界の神ですら、その名を聞いて嫌な表情を浮かべていたんですよ、わかってくれませんかね?」
 マーカスがそう言うと、白い法衣の集団にも動揺が走り出す。
 中にはひそひそと相談している者もいる。
 また神の名を出しておいてそれが嘘だった場合、それは逆にマーカスが冥界の神の怒りを買うことになる。
 さすがにマーカスの言っている言葉が全て嘘だとは白い法衣の連中も思わない。
 ただ白い少女だけは、何かを叫び続け最後には、神様がいなくなった、と泣きわめき始めた。

「オィオィオィ、嘘だろ、これは流石に信じられねぇな、ハハッ……」
 オーケンはカリナとの対峙も忘れ、ただ茫然と立ち尽くした。
 そして、ミア達がいる方角をただただ見つめた。
 隙だらけだが、それはカリナも同じだ。
「これは…… 神が去った、のか? いや、神払いをしたのか? 誰が!?」
 さすがにカリナもその場にいないのでどうなっているかまでは把握できていない。
 だが、オーケンはマーカスの額の目を通じて、それこそマーカスよりも多くの情報を得られている。
 その差は大きいが、その事実に受ける衝撃もオーケンのほうが大きい。
「ハハッ、こいつはすげぇ、名前一つでまじもんの神を払いやがったぞ、おぃ、信じられるか?」
 オーケンは目を見開いて、カリナと対峙しているのも忘れて、心底嬉しそうに喚き散らかした。
「名前…… ミアがやったのか?」
 カリナは消去法でその答えにたどり着く。
 それ以外に当てはまるような答えがない。
「あ? あぁ、機嫌がいいから全部教えてやる。ミアちゃんはな、神がかりに降りてきた神に名を聞かれて、その名とロロカカ神の名を答えただけだ。それだけで、その神は逃げ出しやがった、なんだ、一体なんなんだよ、俺だって聞いたことない神だってのによ! いや、逆に神格が高すぎて、その名が? 高貴なる方? いや、わっかんねぇ…… なんなんだ!?」
 オーケン自身興奮して自分が何を言っているのかもわからない。思考が声に出てしまっている。
 ただその表情は、楽しくて仕方がない、という生き生きとした表情なことだけは確かだ。
「つまりは解決したわけだな?」
「みてーだな…… って、なんだよ。まだやんのかよ?」
 オーケンはカリナとの対峙よりも、今はロロカカ神のことのほうが気がかりで仕方がない。
 それどころか、こんな化け物と遊んでいる暇はない、とばかりに少し苛立ちをあらわにした。
「始めたのはおまえだろ」
 その言葉にカリナのほうが苛立つ。
 オーケンはそれでやっと自分から仕掛けていたことを思い出す。
 それすら忘れてオーケンは興奮し、はしゃいで我を忘れていたのだ。
「いやー、まさかこんなあっさり終わっちまうとはな。さすがに予期できるかよ、こんな結果。まあ、現状を教えてやったんだから、今回は見逃してくれよ。なっ? それにさぁ、ミアちゃん、神がかりの依り代には怒りを買っちゃってるぜ?」
 またボコボコにされるのは勘弁願いたいとばかりにオーケンは下手に出る。
「そこまで詳しくわかっているということは、あの坊主でもいるのだろ?」
 そう言ってカリナが一歩踏み出してくる。
「ははっ、どーかな? いるのかな? いないのかな? まあ、どっちにしろ、急ぎなよ、依り代の対処は、流石にマーカスだけじゃ無理だぜぇ? しかも、だいぶ精神のいかれている、あれじゃ、話し合いも無理だろ」
 オーケンはめんどくさそうにそう言って、犬でも追っ払うかのように手で、あっち行け、とやって見せた。
 その仕草に怒る気も失せたカリナは深いため息をついた。
「次は…… 言わなくてもわかるな?」
 カリナにそう言われ、オーケンは笑って見せる。
「おぉ、怖ぇ!! はいはい、三度までってんだろ? 知ってるよぉ。けどぉ、次は本気で相手しくれるって事だろ? へへっ、だが今回は俺の勝ちだ、そこは譲らねぇぜ?」
 オーケンはそう言って勝ち誇って見せた。
 カリナ相手にも、全く懲りてない、と言った感じしか見せない。
「勝手に言ってろ」
 カリナはそう言ってミアの元に向かい走り出した。
 カリナの姿が完全に見えなくなってから、オーケンは安堵のため息を吐き出す。
 そして、深呼吸した後、右手を振り上げた。
「よぉし!! 勝ち逃げだ! 勝ち逃げするに決まってんじゃん! 化物めぇ!! あんな化け物と遊んでたら、いくら俺だって体がもたねぇんだよ!! もう関わらねぇーよ、っだ!! へっ! ……しかし、ロロカカ神ってのは、マジでなんなんだ?」

「神様いない! 神様いなくなった! どこ? どこですか? どこどこ? どこですか? どこに行かれたのですか?」
 白い少女はそう言って泣きわめきながらも、白い法衣の集団に守られながらカリナに連れられ、学院長室まで連れられてきた。
 神が去った今、この件には逆にカリナはあまり関われなくなってしまっている。
 カリナの意思にかかわらず、ポラリス学院長に託すしかカリナには出来ない。
「どういうことだ、カリナ。説明してくれ」
 カリナが出ていったと思ったら、ミアとマーカス、それと恐らくは神憑きとそのお供の集団を連れて帰ってきた。
 さすがのポラリス学院長も面を食らっている。
「信じられないが、ミアが神払いをした。その…… 神の名を告げただけで……」
 カリナすらその事実が信じられないようにそう告げた。
「そんなことあるのか?」
 それを聞いたポラリス学院長も信じられないが、カリナが嘘をつくわけもない、ということも理解できている。
 事実なのだろうが、それをそのまま飲み込めるような話でもない。
「流石に聞いたことがない。だが、マーカスの話だと冥界の神もその名を気軽に言っていいものではないという話だ」
 カリナ自身も信じられない、と言った様子でその言葉を付け加える。
 だが、現場についたカリナが見たものは、それが事実だという痕跡だけだった。
「そ、それ、詳しく話してください!!」
 それを聞いたミアが、またマーカスに向かい騒ぎ出す。
 迷惑そうにマーカスはするが、色々と考えた結果、もう話すしかないとは決心できてはいる。
 ただし、祟らないでくれよ、と心の中で願いながらだ。あと、このことで冥界の神に何か迷惑かけたときの謝罪の念も忘れない。
「話すも何も…… それがほぼほぼすべてですよ。デスカトロカ神もあまり語りくない様子で…… ああ、でも確かに、むやみやたらと危険な神ではなく、列記とした古き神で、高貴な方とも仰ってましたね」
 そうミアに告げるマーカスも、少し不安そうな表情を浮かべている。
 内心ではそれをミアに伝えることに、不安を感じていたからだ。
 ミアに伝えるということは、ロロカカ神にまで伝わる可能性がとても高いからだ。冥界の神すら恐れるような神にマーカスも目をつけられたくはない。
 だから、マーカスもミアに話すようなことはしていなかった。ただ隠していたわけではない。
「高貴な!! 古き神ということは、やはり古代神なのですかね? ロロカカ様は高貴なお方!! むやみやたらと言ってはいけないほど高貴な!」
 それを聞いたミアはとてもうれしそうに、かなり舞い上がっている。
 ポラリス学院長もミア自身、深く信仰はしているがロロカカ神のことをそこまで深く知らないことをフーベルト教授の報告で既に知っている。
 ミアからロロカカ神のことで新しく聞き出せることももうない。散々フーベルト教授がミアの話に付き合い、聞きだした後だ。
 それだけに、現状なにがどうなって神払いが行われることになったのかも見当がつかない。
 いくら神格が高かろうと、名だけで他の神が逃げ出すなどあることではない。
「で、そちらの神憑きのディアナ様は?」
 だとすると、話を聞くべき相手は白い集団なのだろうが、白い集団も困惑している様子しかない。
「もう…… 元だ。もはや神が憑いていない。本体の神に言えば、もう一度降ろしては貰えるだろうが、次降ろせば、その者ではもう精神が流石に耐えられない、死ぬか、よくて廃人だろう」
 しばらく間があったのに誰も発言しなかったから、カリナが仕方なくその言葉を発した。
「だ、そうだ。このカリナの言うことは真実だと思って欲しい。この学院の学院長である私がそれを保証する」
 カリナの言葉にポラリス学院長が付け加える。
 白い集団、その代表者と思しき人物が一歩前にでた。
「それは、我々も承知しています。しかし、その、神払い…… しかも神のとは言え名を伝えただけで、本当にそのようなことが?」
 白い少女、ディアナはもう神憑きとして機能することはない。
 彼女についていた神は、どこかへ去ってしまっている。それは一時的なものではない。
 完全にディアナと神との縁が切れてしまっている。
 だから、カリナの言うようにディアナという少女は既に神憑きではない。
 なので、自分たちがディアナに付き従う必要はもうないのだが、流石に現状を理解できていないし、なにも納得できていない。あまりにも不可解で唐突すぎた。
「私もにわかに信じられないが、私もカリナも法の神の信徒だ。公の場で嘘は言わない。特にカリナが言ったらばそれは真実だ」
「法の神の…… わかりました。そのことは一旦信じます」
 そう言いつつも白い法衣を着た男は、規格外の大きさのカリナを見上げた。
 その者がとてもじゃないが人間とは思えないが、法の神の名を出されたらそれを信じるしかない。
「また、ミア君には手を出さないほうがいい。どの神かまでは詮索しないが、あなたたちの神にも聞かれると良い。彼女は門の巫女だ、正確にはその候補だが、神ならそれで分かってくださるはずだ」
 白い集団の代表の男は、聞き覚えのない言葉に疑問を感じながらも、ポラリス学院長の言葉に概同意する。
「その門の巫女というのが何かまではわかりませんが、聞いて…… しかし、ディアナ様がこの様子では…… やはり一度本殿に戻って確認いたします」
 この場で決められることではない。
 神を信じついてきただけに、その道しるべが消えてしまったら路頭に迷うしかない。
 今この白い集団は、真っ暗闇の真っただ中にいてどちらに行けばいいかもわからない、そんな状態なのだ。
「それとこの学院は神々の間でも不可侵の地のはずだ。神がかりとは言え、許可なく訪問されては逆に困る」
「その件に関しましては申し開きありません。ですが、我らはディアナ様の行動を止めることはできません」
 白い法衣、その代表らしき男は苦しそうにそう言った。
 神に命を懸けて準じるつもりでいたが、その神が、あまりにもあっさり去ってしまったのだ。
 その信仰を揺らがすには十分なことだ。
 今、この男は何が正しかったのか、それすらもわからなくなっている。
「まあ、そちらの都合もわかるがね。その神が奪おうとした社は破壊神の社だ。それもわかっているのか?」
「はい、それは成り行きでですが、承知しております。ですが我らの役割はディアナ様の自由を守ること。それのみです。神払い…… をされた、今は何とも言えませんが」
 神憑きであるディアナと共に旅をする。それこそが試練であり、殉教の旅路だったはずだ。
 例え旅の途中で力尽きても、その魂は神に拾われ、神と共にあるはずだった。だから何も恐れる必要はなかった。死すら恐れてはいなかったはずだ。
 だからこそ、何も恐れずに付き従い、旅を共にしていたはずだった。
 それが、まさか、他の神の名を聞いただけで、その信じていた神がいなくなるなど想像もしていなかった。
「そうか。で、これからどうするつもりだ?」
「……一度ディアナ様と共に我らの本殿へと戻り対応を決めます。さすがにこのまま旅は続けられませんので」
 代表の男は苦渋の決断とばかりにそう言った。
「念のため聞いておくが、ミア君に非があると思うかね? これは…… 尋問ではなく現場の状況を知る上での質問と捉えて欲しい」
「我らとしてはそれを判断することはできません。ですが、個人として、事実を伝えるのであれば、非はないようにと思えるとだけは…… 我らが神に聞かれたことを、ただ答えただけ、というのは真実です……」
 それでなぜこのような結果になったのか。
 それはこの場にいる全員が理解の範疇を超えていた。
 分霊とはいえ、その名を聞いただけで神が逃げ出すなど本当に聞いたことのない事例だ。
「そうか。証言に感謝する。とはいえ、おそらくは神々の領分の話だ。我ら人が判断を下すべきものでもあるまい」
「それは…… はい、その通りです。我々も、本殿に戻れば何かわかると思いますので、無礼はありましたでしょうがすぐに立たせてもらいます」
「承知した。何かあれば、学院長である私に言って欲しい。ないとは思うが、ミア君に直接手を出すようなことだけは避けてほしい。正直、魔術学院でも持て余している巫女でな、これは他言無用だが彼女には二体、上位種の守護者がついている。下手に手を出せば何人集めようが人ではどうにもならない」
「上位種が…… わかりました。では、これにて我らは去ります。ご迷惑をかけたことは深くお詫びいたします」
 そう言って白い泣きわめく少女ディアナを連れて白い集団は部屋を出ていった。
 それを見送った後でカリナがポラリス学院長に話しかける。
「良かったのか? あっさり返して」
「神払いされたとはいえ、神憑きをこちらでどうこうはしたくないのでな。余計な禍根は残さない方が良い。それに彼らの神、魔術の神の一柱であるグラディスオス神は聡明な神とも聞いている。門の巫女のことを伝えれば何もしてこないだろう」
 そう言ってポラリス学院長もため息を漏らした。そのため息とともに濃い疲労が吐き出される。
「流石学院長、どこの奴らかわかってたんですか?」
 マーカスはそう言って白い法衣を思い出す。特徴的な法衣ではあったし、そもそもその中心の人物が白子だ。目立たない訳がない。
 たしかに自分でもちょっと調べればすぐにわかることだ。学院長であれば知っていてもおかしくはない。
「あの白い法衣に刺繍されている紋様を見ればわかる。そう難しいことではない」
 そう言って一旦は収まったこの騒動にポラリス学院長は再びため息を漏らした。


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