学院の魔女の日常的非日常

只野誠

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伝説は面接と共に始まっていた。

伝説は面接と共に始まっていた。1/3

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 シュトゥルムルン魔術学院の入学式が終わり、一段落し落ち着いた頃、季節は春。
 春とはいえどこのシュルト地方は冬と変わらないほど寒い。
 もう滅多に雪は降ってはいないが、日中でも、それこそ、いつ降ったかもわからない雪がまだ解けずに残っていたりする。
 シュトゥルムルン魔術学院の新任教授フーベルト・フーネルは昼食を終え、自分の研究室に戻り一息つき、お茶でも飲もうと湯を沸かしていた時だ。
 扉を荒々しく叩く音がする。
 どうぞ、と声をかけると、すぐに扉が開き、事務員のミネリアが駆け込んできた。
「す、すいません、フーベルト教授。あ、あの、面接希望の方がいらしていて……」
 ミネリアが申し訳なさそうにしている。
 申し訳なさそうにしているのは、他の教授たちの手が空いてないから、まだ新任の自分のところに来たからだと考えていたようだが、どうもそれだけではないようだ。
「その方、おそらく巫女なのですが、神に言われて魔術学院に来たと言っていまして……」
「神に言われて? それはめずらしいですね。まあ、今は僕しか空いてないので僕が担当しますよ」
 新任ではあるが、これでも神霊術の教授であり、神族の研究者でもある。フーベルト教授は神らしからぬ珍しいことを言ってくる神にも少し興味が湧いた。
「それはそうなのですが、その、どうもそれが山の神らしくて……」
 それを聞いてフーベルト教授も眉をひそめた。
「山の神ですか。なんという神です?」
「ロロカカ神、面接希望者が言うには、その…… ロロカカ様という山の神様なんだそうなんですよ…… 聞いたことありますか?」
 そう聞くミネリアの顔には色濃く恐怖の表情が見て取れる。
「ロロカカ神…… 僕も聞いたことないですね」
 フーベルト教授は少し困った表情を浮かべた。そして、その答えにミネリアは更に色濃く恐怖に染まっていく。
 山の神。しかも、神族の研究者であるフーベルト教授も聞いたことのないような神ともなると多いのだ。
 祟り神であることが。
 聞いたこともない、つまり伝わってもいない、その名を言うことすら禁忌とされるような神であるからこそ、外に伝わらない。
 そういうことだ。
 特に人里離れた山の神はそうであることが多かったりする。
 また"様"で呼ばれるような上位種の存在も、厄介な存在であることが多い。
 魔術に多少詳しい人間ならこの時点で関わりたくないと、そう考える。
 祟り神との一番いい付き合い方は、触らぬ神に祟りなし、関わらないことなのだから。
 接点を、縁を、持たないことが最も重要なことだ。
 そのことをわかっているから、ミネリアも申し訳なさそうにしていて、今は恐怖に支配されつつある。
 面接という場ではどうしても接点を持たなくてはいけない。
 ただフーベルト教授は神族の研究者でもある。
 まだその名も聞いたこともない未知の神ともなると、その学者魂に火が付くというものだ。それが例え祟り神であってもだ。
「これが希望者の履歴書です」
 そう言ってミネリアから手渡された履歴書に目を通す。
 名前の欄には「ミア」とだけ書かれ家名はない。住所の欄は「リッケルト村」と書かれ、そして志望動機の欄には「ロロカカ様に言われて来ました」と共通語で書かれている。
 それ以外は空欄だ。年齢の欄すら空欄のままだ。
 また字を書き慣れていないのか、余りきれいな字ではない。
「とりあえず待たすのも悪いので見に行きましょうか」

 急遽面接会場になった空き教室の扉を少しだけ開けて、面接希望者、ミアの様子をフーベルト教授とミネリアは様子をとりあえず見る。
 ミアは十代半ばくらいの年齢に思える少女だ。
 まず目につくのが、黒い鍔広の三角帽子。帽子のとんがり部分に縦に三つらなんだ暗い色の赤い目が絵が描かれている。
 その帽子が異様な存在感を放っており、どうしても最初に目に付く。ただの帽子というわけではなさそうだ。
 後は綺麗な黒髪の線の細い少女ということくらいか。いや、着ている法衣か外套かまではわからないが、存在感のある三角帽子は全く汚れてないのだが、その他の服はまるで野山を長い期間、駆け回ってきたかのように酷く汚れている。
 また疲れているのか椅子に座りながらもふらふらとしている。
 ここから覗いてみる限りは、帽子以外は特に目だったところはない。
「では気を引き締めていきますか」
 フーベルト教授は誰に言うでもなくそう言って、教室の扉を開けた。
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