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中等部4年編
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しおりを挟むルーカス達は食堂へ集まると、晩酌会を始めた。
「それでルーカス、謁見の間に来る前に何があった」
一通り食事を終えると、アーサーが切り出した。
ルーカスはムハンマドの分家出身の文官が、謁見の間へ向かう道中に、話しかけてきたことを伝える。
「レイアに、名を尋ねてきた」
その言葉にアーサーやフレデリック達は険しい表情をする。
「ルーの前で、わざわざレイアに名を尋ねるなんて、馬鹿にするのも大概にして欲しいものですね」
ソフィアは怒り心頭の様子で言う。
「レイアは、何と答えたんだい?」
「レイア・ムハンマドと答えたよ」
「あい!」
「ふふ、賢い子だ」
自身の名前に反応したのか、レイアは勢いよく返事をする。その様子に、ルーカスは微笑みレイアを褒めた。
「訓練した甲斐があったな」
「これも皇子皇女様方のおかげにございます」
アルフィーがそう言い、フレデリック、ティファニー、リヴァイも礼を言うように頭を下げた。
自己紹介とは、名を知らせる他、呼び方を決める役割を持つ。基本的に、自己紹介は全ての名を名乗りあげるものだ。
その為位の近い家門同士の場合、家名で呼び合うことになる。しかし、家名を告げない場合、もしも本名だけを告げた場合、本名で呼ぶ事を許可した事になる。
だがそれと同時に、相手に対しての冒涜という、真逆の意味で捉えられる事もある。
本名だけ名乗れば家名も分かる。私の名前を知っているのは当然だ。そんな態度を取るものも、過去には大勢いたためだ。
しかしその態度が許されるのは皇族のみだろう。民が皇族の名を知っていることは当然のことなのだから。
「ルーお兄様、その文官は何が目的だったのでしょうか? レイアを本名で呼ぶことですか? それとも、レイアを侮辱するためですか?」
珍しく、リリアンも怒った様子でルーカスにそう尋ねた。
「恐らくは前者。レイアが僕とリヴァイの、ムハンマドの直系の養子に入ることは、城の中では、いや、高位貴族の中では暗黙の了解だ。しかし僕達はそれを公にしていない為、レイアは分家の人間に過ぎない」
「そうね。だからレイアにちょっかいをかけても、ルーが直接的な事は言えないから処分されないと高を括っているわ」
「そう。そして親族同士が、名を示し合ったのならば、本名で呼ぶ事は誰も咎めることは無い。そして1度認められたと言う事実があれば、今後レイアを、本名で呼び続けるのだろう」
「……レイアが公爵家の直系になり、当主になったとしても」
食堂の中に、重い沈黙が流れる。
「殿下方がレイアに名を教えて下さったことは、感謝しきれません」
「小賢しい手を使いこの子の輝かしい未来を穢すグズが、権力を持たないよう、一人でも多く、消え去る事を願っているよ」
ルーカスは冷え切った殺伐とした雰囲気を纏いそう言い放った。その凍えそうな程冷たい空気に、この場にいる全ての者が心臓を鷲掴みにされている感覚へ陥った。
「っ……ルーカス、、」
「っ、、! ごめんね……」
苦しそうにアーサーがルーカスの名を呼ぶと、ルーカスはハッとして我に返り、動揺した表情で皆に謝る。
最近、あの感覚が増えた。心が凍り付き、全てがどうでも良くなるような、あの感覚が……。
「とと!」
ルーカスが不安や恐怖という負の感情に落ちそうになった時、️嬉しそうな表情のレイアが、元気いっぱいにルーカスを呼んだ。
「殿下、レイアは貴方が自分の事を思って下さっていることを充分過ぎるほどに理解しているようです」
「リヴ……ああ、この子には、いつも、、救われる」
ルーカスは泣きそうな表情になり、レイアのことをぎゅっと抱き締めた。
僕の心はいつか、父様達への愛ですら忘れてしまう程、凍ったものになるかもしれない。
この子が怖がらないのは、まだ恐怖も知らない幼児だからなのかもしれない。
それでも、もしかすればこの子は、足を竦ませることなく、僕から逃げてくれるかもしれない。それが、僕にとっての救いになる。
「ルーカス殿下、一先ずは、レイアが名を言えたことに、乾杯致しませぬか?」
「……アルフィー」
「父上のおっしゃる通り、1歳半に満たない幼子が自己紹介をしたのですから、素晴らしいことです。レイアは類稀なる神童かもしれません」
フレデリックまで……。
「何だフレディ。もう孫馬鹿になったのか。ルーカスは1歳に満たぬ内から喋っていたぞ」
「何だと? 親バカのアースには言われたくないな。ルーカス殿下が神童なのは認めるが、レイアが素晴らしいのも事実だろう」
「それは私も認めてやる。レイアはルーカスの息子だからな」
アーサーはにやりと笑いドヤ顔でフレデリックに言った。そのやり取りを見るジェシカ達は微笑ましそうに二人を見つめる。
するとルーカスはこちらを見ていたリリアンに気がついた。
「リリー……驚いたよね。怖がらせてごめんね」
ルーカスは先程の事を落ち込んだ様子でリリアンに謝罪する。するとリリアンは少し怒ったような表情になって言った。
「妹である私が! こんなにも優しくて完璧でお美しいルーお兄様の事を、怖がる事なんて絶対にありません!!」
リリアンは拳をぎゅっと握る。
そのリリアン言葉と表情に、ルーカスは驚き目を見開いた。
「姉である私も同感よ」
「兄である私もだ」
リリアンの言葉に、ソフィアとエドワードが賛同する。
「ルーク、確かに君の、凍える様な殺気に、急所を掴まれた感覚に、私達は恐怖を覚えた。だけどそれは、君自身を怖がった訳では無いんだ。これだけは、分かっていて欲しい」
「ウィル兄さん……。ぅん、ありがとう」
兄弟達の言葉に、ルーカスは心底嬉しそうに微笑みお礼を言った。
「それにしても、さっきのリリーの怒った姿は、ソフィにそっくりでしたね」
「ああ。流石は姉妹だ」
「ふふっ、そうだね」
ウィリアム達にそっくりだったと言われ、リリアンは嬉しそうな恥ずかしそうな表情をし顔を抑えたのだった。
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