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女神召喚編
13 ゆったりおじさん 3
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「いつ冒険の旅に出るんですか?」
ここは黄金色の麦畑が広がる農場。
麦を収穫する魔導具・コンバインの調整をしていたヤマザキに、メイド服を着たヒビキが話しかけた。
そよ風に揺れるポニーテールが可愛い。いっしょに踊るように、麦の穂も揺れていた。
「ん~……もうちょっと魔導具を作ってからかな」
「本当にゆったりしてますね。おじさん……」
やれやれ、とヒビキは呆れた。
女神を召喚した日から、はや数週間。勇者リクの生存を知り、ランス大陸まで迎えに行こうと計画しているのだが、なかなか実行に移す気配がない。
(このまま異世界でおばあちゃんになっちゃいそう……)
ぞっとするヒビキは、手を振って歩き出す。
「はらぺこ食堂に戻りますね」
ああ、と彼女の背中に答えるヤマザキは麦を収穫するべく、
「よっこいしょういち!」
とコンバインに乗り込んだ。
彼の運転技術は上手い。まるで車のようにハンドルをさばく。
あっといまに、麦を刈って、刈って、刈りまくり、黄金色だった農場は土色に変わっていく。
それには農場主のゴインも仲間のラフロイグたちも大喜びだ。というか、泣いている。
「兄貴、すげー!」
「ううう……魔術師なら数週間かかるところ、たった数時間で収穫してしまった……」
よっ、とヤマザキはコンバインから降りた。
まだ収穫が残っている麦畑を指さしている。
「ラフロイグ、ちょっと運転してみろ」
「え、いいんすか?」
「ああ、俺はそのうちいなくなる。そしたらラフロイグ、おまえに任せた!」
「……兄貴」
ラフロイグは泣きながらコンバインに乗り込んだ。
ハンドルの操作は、やはり困難だ。ヤマザキは彼に優しく教えるが、なかなか身にならない。
「ラフロイグ、運転は慣れだ。また練習しよう」
「うっす! でも、これ楽しいっすね」
ああ、とヤマザキは答える。
その顔は満足感で溢れていた。
無事に収穫も終わり、風呂で汗を流したあとは収穫祭だ。
場所をはらぺこ食堂に移動し、宴会が始まる。
店の外に設けたテラスまで、客で溢れていた。
酒を運ぶメイドのプルトニーとヒビキは大忙し。厨房で料理をするターキーとヤマザキもてんやわんやである。
それでも、街の盛り上がった雰囲気や、人々の笑顔は、溜まっているはずの疲れを忘れさせる。ヤマザキもヒビキも、ずっと笑顔で仕事をしていた。
◉
「お疲れ様です。ヤマザキさん」
料理も出し尽くし、テラスで一休みしているとハニィがやって来た。
執事のジョニもいる。ラフロイグたちと、わいわい盛り上がっているようだ。
「ハニィくん、何か食べる? まあ座りなよ」
「はい。ギルドに向かう途中なので、少しだけなら」
「ちょっと待ってな」
厨房に戻ったヤマザキは、細く切ったジャガイモを油で揚げていく。
外はカリカリ、中はホクホク。大きめの皿に盛り付けた、メガ盛りフライドポテトの完成だ。
それを、ドンッ! とテーブルに置いたヤマザキは笑顔で助言した。
「塩だけでも美味しいが、このトマトソースをつけるのも美味いぞ」
「じゃあ、トマトソースで……う、うまい!」
ハニィは泣きながらフライドポテトを、もぐもぐ食べた。
ヤマザキも摘みながら、彼女に話しかける。
「ギルドは再建できそう?」
「難しいですね。最近、魔物が減少していて、冒険者の存在意義が薄れています」
そっか、とヤマザキは空を見上げた。
平和なのはいいことだが、そのために冒険者という職業が消滅してしまうのは、とても寂しい気がする。
その憂いはハニィも感じているようで、じっとヤマザキのことを見つめてきた。
「どうしらいいと思いますか?」
「ん~……すぐに答えはでないけど、まぁ、ちょっと調べてみるよ」
「ありがとうございます! あ、でも冒険の準備中ですよね?」
「うん、でもすぐってわけじゃないから大丈夫だよ」
ハニィは笑顔で、ほっとした。
まだいっしょにいられる。そう思って安心したのだ。
そしてまた、もりもりポテトを食べる。かなり気に入ったらしい。
「これ本当に美味しいですね! 塩だけでもイケちゃいます! とまんない……もぐもぐ」
「だろ」
「お母様とお兄様にも食べさせてあげたいです」
「そうだな、また今度アイラ神殿で作ってやろう」
はい、とヒビキはポテトを摘んで食べた。
彼女の母と兄は、女神によって生き返ることができた。ハイランド王国で暮らせば亡霊だ、と民衆が混乱すると予想し、アイラ神殿でひっそり暮らしているのだ。
「ジャックは元気か?」
「お母様にべったりです。年齢的にお母様の方が年下なのに……不思議ですよね」
「まあ、男はみんなマザコンだからな」
「マザコン……異世界の魔法みたいなものですか?」
「ああ、ずっとお母さんが大好きになっちゃう魔法だよ」
うふふ、とハニィは笑った。
もうポテトは食べ尽くし、ヤマザキは席を立つ。片付けをしなければならない。
「じゃあ、そろそろ厨房に戻るよ」
「美味しかったです」
「またな~」
別れ際に、ハニィは声をかけようとしたがやめた。
言葉にしたら、絶対に困らせてしまう。そう思ったのだ。
(私も冒険に行きたいです)
なんて……。
そんなこと言ったら、ダメですよね?
ハニィはハイランド王国の女王。ぐっと我慢して、ゆったりと歩くおじさんの背中を見つめるのだった。
ここは黄金色の麦畑が広がる農場。
麦を収穫する魔導具・コンバインの調整をしていたヤマザキに、メイド服を着たヒビキが話しかけた。
そよ風に揺れるポニーテールが可愛い。いっしょに踊るように、麦の穂も揺れていた。
「ん~……もうちょっと魔導具を作ってからかな」
「本当にゆったりしてますね。おじさん……」
やれやれ、とヒビキは呆れた。
女神を召喚した日から、はや数週間。勇者リクの生存を知り、ランス大陸まで迎えに行こうと計画しているのだが、なかなか実行に移す気配がない。
(このまま異世界でおばあちゃんになっちゃいそう……)
ぞっとするヒビキは、手を振って歩き出す。
「はらぺこ食堂に戻りますね」
ああ、と彼女の背中に答えるヤマザキは麦を収穫するべく、
「よっこいしょういち!」
とコンバインに乗り込んだ。
彼の運転技術は上手い。まるで車のようにハンドルをさばく。
あっといまに、麦を刈って、刈って、刈りまくり、黄金色だった農場は土色に変わっていく。
それには農場主のゴインも仲間のラフロイグたちも大喜びだ。というか、泣いている。
「兄貴、すげー!」
「ううう……魔術師なら数週間かかるところ、たった数時間で収穫してしまった……」
よっ、とヤマザキはコンバインから降りた。
まだ収穫が残っている麦畑を指さしている。
「ラフロイグ、ちょっと運転してみろ」
「え、いいんすか?」
「ああ、俺はそのうちいなくなる。そしたらラフロイグ、おまえに任せた!」
「……兄貴」
ラフロイグは泣きながらコンバインに乗り込んだ。
ハンドルの操作は、やはり困難だ。ヤマザキは彼に優しく教えるが、なかなか身にならない。
「ラフロイグ、運転は慣れだ。また練習しよう」
「うっす! でも、これ楽しいっすね」
ああ、とヤマザキは答える。
その顔は満足感で溢れていた。
無事に収穫も終わり、風呂で汗を流したあとは収穫祭だ。
場所をはらぺこ食堂に移動し、宴会が始まる。
店の外に設けたテラスまで、客で溢れていた。
酒を運ぶメイドのプルトニーとヒビキは大忙し。厨房で料理をするターキーとヤマザキもてんやわんやである。
それでも、街の盛り上がった雰囲気や、人々の笑顔は、溜まっているはずの疲れを忘れさせる。ヤマザキもヒビキも、ずっと笑顔で仕事をしていた。
◉
「お疲れ様です。ヤマザキさん」
料理も出し尽くし、テラスで一休みしているとハニィがやって来た。
執事のジョニもいる。ラフロイグたちと、わいわい盛り上がっているようだ。
「ハニィくん、何か食べる? まあ座りなよ」
「はい。ギルドに向かう途中なので、少しだけなら」
「ちょっと待ってな」
厨房に戻ったヤマザキは、細く切ったジャガイモを油で揚げていく。
外はカリカリ、中はホクホク。大きめの皿に盛り付けた、メガ盛りフライドポテトの完成だ。
それを、ドンッ! とテーブルに置いたヤマザキは笑顔で助言した。
「塩だけでも美味しいが、このトマトソースをつけるのも美味いぞ」
「じゃあ、トマトソースで……う、うまい!」
ハニィは泣きながらフライドポテトを、もぐもぐ食べた。
ヤマザキも摘みながら、彼女に話しかける。
「ギルドは再建できそう?」
「難しいですね。最近、魔物が減少していて、冒険者の存在意義が薄れています」
そっか、とヤマザキは空を見上げた。
平和なのはいいことだが、そのために冒険者という職業が消滅してしまうのは、とても寂しい気がする。
その憂いはハニィも感じているようで、じっとヤマザキのことを見つめてきた。
「どうしらいいと思いますか?」
「ん~……すぐに答えはでないけど、まぁ、ちょっと調べてみるよ」
「ありがとうございます! あ、でも冒険の準備中ですよね?」
「うん、でもすぐってわけじゃないから大丈夫だよ」
ハニィは笑顔で、ほっとした。
まだいっしょにいられる。そう思って安心したのだ。
そしてまた、もりもりポテトを食べる。かなり気に入ったらしい。
「これ本当に美味しいですね! 塩だけでもイケちゃいます! とまんない……もぐもぐ」
「だろ」
「お母様とお兄様にも食べさせてあげたいです」
「そうだな、また今度アイラ神殿で作ってやろう」
はい、とヒビキはポテトを摘んで食べた。
彼女の母と兄は、女神によって生き返ることができた。ハイランド王国で暮らせば亡霊だ、と民衆が混乱すると予想し、アイラ神殿でひっそり暮らしているのだ。
「ジャックは元気か?」
「お母様にべったりです。年齢的にお母様の方が年下なのに……不思議ですよね」
「まあ、男はみんなマザコンだからな」
「マザコン……異世界の魔法みたいなものですか?」
「ああ、ずっとお母さんが大好きになっちゃう魔法だよ」
うふふ、とハニィは笑った。
もうポテトは食べ尽くし、ヤマザキは席を立つ。片付けをしなければならない。
「じゃあ、そろそろ厨房に戻るよ」
「美味しかったです」
「またな~」
別れ際に、ハニィは声をかけようとしたがやめた。
言葉にしたら、絶対に困らせてしまう。そう思ったのだ。
(私も冒険に行きたいです)
なんて……。
そんなこと言ったら、ダメですよね?
ハニィはハイランド王国の女王。ぐっと我慢して、ゆったりと歩くおじさんの背中を見つめるのだった。
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